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ロータス

 ちなつちゃんと一緒に浴室にいる。
 寒いこともあってか、湯船から出ている湯気のせいで浴室内があまり良く見えなくなっている。
「ちなつちゃん、湯加減はどう?」
「は、はいっ! ちょ、ちょうどいいですっ!」
「だったら良かった」
 先に私が髪を洗い、今は身体を洗っているところ。ちなつちゃんには先に湯船に浸かってもらっている。
 しかし、ちなつちゃん。お風呂くらいはゆったりとしてもらいたい。
 ちょっと話でも聞いてみるか。
「どうかしたの? ちなつちゃん。さっきから緊張しているみたいだけど」
「べ、別に結衣先輩と入っているからではなくて……!」
「あははっ、京子とだったら緊張しなかった?」
「そ、そういうわけじゃなくて……!」
 湯船の方に顔を向けると、微かにちなつちゃんの顔が見える。
「私はただ、素直に嬉しくて……結衣先輩と一緒にお風呂に入れることが」
「そう、なんだ」
「先輩と二人きりで入れるなんて、私にとっては夢のようで……」
「……そっか。それはちょっと嬉しいな」
 私は軽く笑った。
 すると、ちなつちゃんが湯船から出てきて、
「先輩。背中流してもいいですか?」
「……いいよ」
 ちなつちゃんに泡のついたタオルを渡して、優しく背中を流してもらう。なかなか上手だ。
「先輩、肌……綺麗ですね」
「ありがとう。ちなつちゃんも背中流すの上手だね」
「は、はいっ。お姉ちゃんがいて、小さい頃はよくお互いに流しっこしていましたから」
「そうなんだ。じゃあ、洗い終わったら今度はちなつちゃんの背中を流してあげるよ」
「ほ、本当ですか?」
「お互い様だよ」
 鏡に映るちなつちゃんの表情は、幾分和らいだように感じた。兄弟とかいない私にはできないことだし、少し羨ましい。
 私の身体は洗い終わって、今度はちなつちゃんの背中を流してあげる。
「ちなつちゃんも肌、綺麗だね」
「そ、そうですか?」
「うん。若いっていいね、やっぱり」
「先輩とたった一つしか変わらないじゃないですか」
 ちなつちゃんがくすっと笑ってくれる。
 少しは緊張もほぐれてきたかな?
「そういえば、どうして私と一緒に入りたいと思ったの?」
「えっ? そ、それは……」
「ん?」
 もしかして今の言葉でまた、ちなつちゃんは緊張してしまったかもしれない。
「ごめんね。そんなことに理由なんていらないよね」
「……」
「京子はちなつちゃんのこと好きみたいだし。でも、一緒にお風呂に入ると何されるか不安だから。だから、私と一緒に入りたくなったんだよな」
 ちなつちゃんは私を鏡越しで見て、ゆっくりと頷いた。
 だけど、少ししゅんとした表情で。
「そっか。早く洗って一緒に湯船に浸かろう」
「はい」
 その後、ちなつちゃんは急ぎ足で髪も洗って、一緒に湯船に浸かる。少し狭いけど、あかりや京子が言うとおり、そこが何だか良い感じ。
「気持ちいいね、ちなつちゃん」
「は、はいっ!」
 少しでも気持ちが和んでくれるかと思いきや、ちなつちゃんの緊張は高まっていく一途を辿っているように感じる。
「ちなつちゃん。狭いのが嫌だった?」
「べ、別に嫌じゃないですっ! 結衣先輩と一緒なら」
「お風呂って広い湯船で足でも伸ばしたかったのかなって思って。ほら、二人で入ってると少し動くだけで身体が当たっちゃうし」
「それも別に嫌じゃないです。相手が結衣先輩ですから」
「そっか」
 その後はお互いに何も言葉が出ない。
 そういえば、ちなつちゃんは私にけっこう話しかけてくるし、色々なものを作ってきてくれるよな。ただ、ちなつちゃんの独特の感性に溢れているけど。
 もしかして、ちなつちゃんは私のこと、好きなのかな?
 思い返してみれば、夏に下校途中に短冊に願い事書いたときもちなつちゃんは私とキスしたいって書いてあったし。
 それだったら、緊張しっぱなしというのも理解できる。
 そういう時ってどうすればいいんだろう?
 私は身体が動くままに、本能に任せてみることにした。
「ひえっ!? 結衣先輩!?」
「ごめん。本能に任せてたらこんなことしちゃって」
 気づけば、私はちなつちゃんのことを抱きしめていた。
 きっと、ちなつちゃんは頼れる先輩として好きでいてくれるんだ。そうだったら、抱きしめて落ち着かせようという風に本能で感じたんだろう。
「嫌だったら放すけど」
「いえっ、私、凄く嬉しいですっ! 結衣先輩がそんなに積極的だなんて!」
「えっ?」
「私、今が凄く幸せです! クリスマスは過ぎてしまいましたけど、最高のプレゼントをもらえたような気がします!」
「え、いや、その……」
 まさか、ここまで喜んでくれるとは思わなかったな。ただ、抱きしめただけなんだけど。
「私も先輩のことを抱きしめます!」
 すると、ちなつちゃんは私の方を向いてぎゅっと抱きしめる。
 ここが浴室で良かった。でも、こんな場面を京子が見たら、きっと発狂しそうで怖い。そういう意味で、
「ち、ちなつちゃん。ちょっと暑いから……」
「いえっ! この気持ちが十分に伝わるまで絶対に離れません!」
「もう十分に伝わったから! ちなつちゃんが私のことが好きだって!」
「えっ……!」
 今まで強く抱きしめられていた両手が、一気に力がなくなって。私はちなつちゃんからそっと離れた。
「嘘、そんなっ……!」
「私もちなつちゃんと同じ気持ちだから。だから、その……緊張させちゃったみたいでごめんね」
 そうだよ、私はちなつちゃんのことを。
 学校の後輩として、一人の友人として。ちなつちゃんのことが好きなんだ。
 しかし、ちなつちゃんは私のそんな言葉に涙を流してしまった。
「嬉しいです、先輩……」
「何も泣くようなことじゃないって」
「私、先輩に尽くしますからっ!」
「別にいいって。今までと同じで一緒にいてくれさえすればいいから」
「……はいっ!」
 とりあえず、ちなつちゃんが元気になってくれて良かった。
 何だかとんでもない方向に向かっている気がするけど……。


 結局、私とちなつちゃんがお風呂から出たのは、入ってから小一時間くらい経っていた。
 京子とあかりはどうしてるかな。
 あかりはきっと寝ているだろう。問題は京子の方だ。
 私は部屋の中を覗いてみた。すると、
「やっと上がってきたのかよ、結衣」
「ああ、二人で入ると意外と長風呂になるんだな」
「……どーせ、ちなつちゃんといちゃいちゃしてたんだろ! 私が一番やりたかったことを結衣が奪ったんだっ!」
「いや、別にそれは違うから……」
「違うわけないっ!」
 京子は発狂していた。
 部屋の端の方にどかしたテーブルの上には、全て食べきったラムレーズンの空きカップがあった。
 きっと、発狂の原因はこのラムレーズンにある。
「何か言ってみたらどうなんだよっ!」
「ごめん。次は絶対にちなつちゃんと入れてあげるから」
 そう、お風呂に入る前に京子に渡したラムレーズンはいつもと違うラムレーズンだった。新商品というのも本当だ。
 ただし、このラムレーズンは洋酒が入っており、横の成分表示の下の方に「お酒が微量入っていますので、小さいお子様やお酒の弱い方はご遠慮ください」と書いてあった。だから、京子に食べさせてどうなるか興味本位で買って食べさせてみたけど。
 京子から見事に発狂される羽目になった。
「なんだよ、いつも結衣ばっかり。ちなつちゃんもちなつちゃんだよ。私の気持ちを分かってくれないなんて」
「お前の場合は露骨にちなつちゃんに近づこうとするからだ。しかも、好きになったきっかけがミラクるんに似てるからってどうかと思うぞ」
「だって、一目見た瞬間から運命感じたんだもん!」
「……運命、か」
 確かに、ちなつちゃんがミラクるんのコスプレをしているのを見たことがあるけど、本物にそっくりだった。京子が運命だと言うのはしょうがないとは思うけど。
「でも、ちなつちゃんが嫌がることをしちゃいけないぞ」
「何で私のすることに文句ばかり言ってくるんだよっ!」
「それはだな……」
 と言ったところで、言葉が詰まった。
 その一瞬をラムレーズンで酔っていた京子は見逃さなかった。とろんとした目をしながら、にやりと笑って、
「言えないの?」
「……言えないってことは、ない」
「じゃあ、言ってごらんよ」
 くそ、京子のやつめ。
 ちなつちゃんと初めて出会ったときに、とっさにちなつちゃんに言った言葉を思い出すけど、改めて言うとなると何だか恥ずかしい。
 でも、言わないと京子の餌食になる。そういう言い方は悪いけど、酔っぱらってるから何をしでかすか分からない。
 一つ、深呼吸をして呼吸を整えてから私はゆっくりと口を開けた。
「ちなつちゃんを守るって言ったからな。春に」
「……そうかよ」
「ほら、京子も酔ってると思うから早く寝ろよ」
「酔ってる?」
「ああ、もう全部食べちゃったから話すけど……そのラムレーズン、少し洋酒が入ってるんだ」
「だから、何だか身体が温かくなってきたんだ。普通はあり得ないのに」
 いくら京子でも、食べてくうちに違和感はあったのか。
「その、変な気分になったんだったらごめん」
「いや、いいよ」
 さっきまで不機嫌だった京子が、突然柔らかい表情に変わっていく。これも洋酒の影響なのか分からないけど、すごく可愛い。
「何だかいつもよりも美味しかったし」
「お前って意外と大人なのかもしれないな」
「そうかもしれないけど、ね。ちょっとそれは違うと思う」
「えっ?」
 すると、京子はその柔らかい表情のまま私に抱きついてくる。
 京子の吐息が、ラムレーズンだと分かるけど何だかいつもと違っていて、しかも洋酒のせいか何だかもやもやしてくる。
「結衣が私のためにくれたからだよ」
「京子……」
「もう、こんな恥ずかしいこと……言わせんなって」
「自分で勝手に言ったんだろうが」
 お互いに笑い合った。
 ああ、こんな状態でも笑っているときの京子はいつもの京子だ。何だか安心した。
「じゃあ、おやすみ。結衣。最後にちゅーしてやる」
「えっ?」
 不意に頬にキスされた。
 やっぱり酒の力は計り知れない。今の京子、一瞬どこかの親父だと思ったもん。
「すうっ……」
「何だよ。私、まだ何も言ってないじゃん」
 気持ちよく寝ている京子も可愛いな。
 起きないようにゆっくりと、既に寝ているあかりの隣の布団に京子を運ぶ。掛け布団を掛けて上げると、まさに幸せそうな寝顔だった。
「おやすみ、京子」
 ゆっくりと頭を撫でる。柔らかい。
「昔はよく一緒に遊んで、一緒の布団で寝てたよな……」
 と、いつの間にかいつしかのことを懐かしんでいた。変わらないものを前にして。
「……結衣先輩」
「ちなつちゃん?」
 振り向くと、湯気が出ているマグカップを一つ持っているちなつちゃんがいた。
 しかし、そのちなつちゃんの表情はどこか寂しげに感じた。


 私とちなつちゃんは窓側に立っている。
 ちなつちゃんから、そっとマグカップを渡される。
「あの、ホットココア作りました」
「ありがとう」
「すみません。キッチンを勝手に使ってしまって。先輩に温かい飲み物を出したいなって思ったらつい……」
「いいよ。その気持ちだけでも十分に嬉しいよ」
 ちなつちゃんが作ってくれたのか、マグカップの取っ手までほんのりと温かい。熱いんじゃなくて、温かいところが何だかいい。
 私がマグカップに口を付けようとした瞬間、
「……全部聞いてました」
「えっ?」
「京子先輩とのさっきの話」
「あ、ああ……キッチンにいたんならそりゃ、全部聞こえるよね」
 ちなつちゃんは恥ずかしそうに私のことをジロジロと見てくる。右手を唇に触れさせ、何かを言いたそうに口を震わせている。
「京子先輩の食べたラムレーズン、お酒が入っていたんですね」
「あ、あははっ……私のちょっとした出来心で」
「……京子先輩が酔ってくれたおかげで、私、結衣先輩の気持ちが知れて良かったです」
「ちなつちゃん……」
「私が結衣先輩と会ったときに、先輩が言ってくれた言葉……先輩も覚えていてくれていたんですね」
「……うん。つい勢いで言っちゃったけど、ずっと忘れなかった」
「じゃあ、何ですぐに言ってくれなかったんですか? すぐに言ってくれなかったとき、ちょっとだけがっかりしました」
「……ごめん」
 そうだよな、ちなつちゃん全部聞いてるんだよな。
 私もちなつちゃんが聞いていると思って、余計にあの時はすぐに口に出せなかった。
「照れちゃうから、かな」
「先輩にもそういうことってあるんですね」
「……あるに決まってるよ」
 私は気晴らしのために、ちなつちゃんが作ってくれたホットココアを一口飲む。うん、美味しい。温まる。
 しかし、ちなつちゃんから思いがけない言葉が出る。
「……間接キスですね、先輩」
「えっ?」
「実はそれ、上手くできてるか不安で一口だけ飲んでみたんです。ちょうど、結衣先輩が口を付けたところと同じところで」
「ご、ごめんね。嫌だった……よね?」
 ちなつちゃんはゆっくりと頭を横に振る。
「そんなことないです。むしろ、嬉しいくらいで」
「ちなつちゃん……」
「私、春に結衣先輩から私を守ってくれるって言われたからずっと好きなんです。間接キスをしてもいいくらいに、大好きなんですっ!」
 京子やあかりが起きるんじゃないかってぐらいの大きな声で、ちなつちゃんは私に想いを伝えてきた。
 そして、ちなつちゃんは私の胸の中に飛び込む。
「結衣先輩は私のことをどう思っているんですか?」
「ち、ちなつちゃん……!」
「お風呂の中で私に言ってくれましたよね? 先輩は私と同じ気持ちだって。だったら、その……してください」
 ゆっくりと、ちなつちゃんは目を閉じて、言う。
「唇でいいですから、キスしてください」
「……」
 ちなつちゃん、これは本気だぞ。
 きっと、私のことがそれほどに好きなんだろう。
 でも、私はちなつちゃんのことをどう思っている? 確かに、ちなつちゃんのことは好きだけど、こういう「好き」じゃないような気がする。
 それだったら、さっき京子がしてくれたように。
「ちなつちゃん」
「……はい」
 私はゆっくりとちなつちゃんの柔らかい頬に唇を触れさせた。でも、できるだけ口元に近い位置で。
 ちなつちゃんはゆっくりと目を開けた。
「ごめんね、ちなつちゃん」
「先輩……」
「確かに、ちなつちゃんのことは好きだよ。でも、私はね。ちなつちゃんと同じくらいに、京子も好きだし、あかりも好きなんだ」
「……」
「それに、この四人で一緒にいられる時間が一番好きなんだよ。誰かを特別に好きになったら、この好きな時間が過ごせなくなると思うんだよね」
 私は微笑んで、ちなつちゃんの頭を撫でてあげる。
「でも、ちなつちゃんの気持ちは凄く嬉しいよ。ありがとう」
「……はい」
「これからもごらく部で一緒にいようね」
「はいっ!」
「あかりとは大丈夫だとは思うけど、京子のことも少しは大目にみてやってほしい。あんな奴だけど、ちなつちゃんのことも考えてると思うから」
「そうですね、少しくらいだったら京子先輩の我が儘聞いてもいいかも……って」
 もう一口、ホットココアを飲む。
 ちなつちゃんの髪が揺れている。
「うん。そうしてくれると京子も喜ぶと思う」
「……はい」
「じゃあ、そろそろ私たちも寝よっか」
「そうですね。結衣先輩」
 そう言うと、ちなつちゃんは部屋を出ていった。私も歯磨きをするために部屋から出ようと思ったけど、
「……そうだ」
 私はちなつちゃんと同じくらいに京子とあかりが好きなんだ。
 だから、二人の頬に軽くキスをした。
「……やっぱり恥ずかしいな。慣れてないから」
 とっさに自分で言い訳をしてみる。
 やっぱり、この四人でいられる空間が何よりも私が一番幸せにいれる時間なんだ。そんな時間を私は一番好きなんだ。
 ちなつちゃんと一緒に歯磨きをしてすぐに、私たちはそれぞれの布団に入った。
「先輩、おやすみなさい」
「おやすみ、ちなつちゃん」
 月明かりでうっすらと見える天井を私は眺める。
 なかなか眠れず、目も大分暗さに慣れてくるとそれに比例してか、三人の寝息もよく聞こえてくる。
「……私も寝ようかな」
 すぐには眠れないかもしれないけど、きっと気持ちよく寝られるはず。
 だって、好きな人たちの側で寝てるから。


 今夜は特別にいい夢が見られそうな気がした。


『ロータス』 Fin
 

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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