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ロータス
『ロータス』


 日常茶飯事という言葉がある。
 それは、毎日のように起こる事柄のこと。それが、他人から見て信じられないと思ったとしても、その人にとって普通ならそれは普通なのだろう。
 そう、私もそんな類のことがある。
「結衣。ラムレーズン食べてもいい?」
「夜ご飯食べてからにしろ」
「え~、結衣のけち」
「夜ご飯の後に食べていいんだからけちって言うな」
 夜ご飯を作っていると、京子が泣きながら私のスカートの裾を掴んできた。まったく、これじゃ小さい子供みたいだな。
 一人暮らしの私の家に京子がやってくるというのは、もはや日常茶飯事と言ってもいいかもしれない。
 ただし、それは泊まりがけでやってくる。
 そして、冬休みに入った今、明日学校がないということで今日はあかりとちなつちゃんも泊まりがけで遊びに来ていた。
 ごらく部の友人だとしても、家に来ればお客さん。さすがにお客さんに夜ご飯を作ってもらうわけにはいかない。まあ、京子の場合は別だけど。
「なんだよ、私だけぞんざいな扱いしちゃってさ」
「別にぞんざいになって扱ってないから。ていうか、何で私の考えたことが分かる?」
「私と結衣は一心同体だからな!」
「……それはそれで何だか悲しくなってくるな」
「どうして!?」
 というところで、何だか京子の相手をするのにも疲れてきた。
 それに今、夜ご飯作ってるし。
 今日の夜ご飯のメニューはクリームシチュー。寒い夜には温かい料理が一番いいかなって思って。台所にはクリームの匂いが漂っている。
「結衣なんて知らない! ラムレーズン食べるから」
「何で話が戻るんだよ」
「原点回帰ってやつ?」
「……お前の原点はラムレーズンってことなのか」
 でも、それも意外と否めない。
 京子って私の家に来るときは決まってラムレーズン。ごらく部にいるときも大半の場合はラムレーズンと口走る。
 京子の身体の六割は水じゃなくてラムレーズンなのかもしれないな。
「とにかく、ラムレーズン食べる」
「おい、クリームシチューがもうすぐできるから我慢しろ。ていうか、寒いのによくラムレーズンを喰う気になれるな」
「だって、ラムレーズン愛してるし」
「そうかい」
「それに、この匂いをおかずにして食べればさらに美味しくなると思うし」
「クリームシチューの匂いをおかずにしてラムレーズンを食べる気になれるお前がもう分からなくなってきた」
「参ったか?」
「……参ったけど、もうすぐできるからラムレーズンはその後な」
 優しく言うと、京子は静かに頷いてくれた。
「あかりとちなつちゃんの方に行ってて」
「……分かったよ」
 今度は少し不機嫌そうに言った。
 それぞれのお皿にクリームシチューを取り分けていると、部屋からは京子とちなつちゃんの賑やかな声が聞こえる。
「ちなつちゃん、今日は私と一緒に寝よっか?」
「別にいいですよ」
「そんなに冷たく答えるなよ~。ほら、一人じゃ寂しいだろ?」
「いつもお風呂に入ったらすぐに寝るので、京子先輩なしでも十分に暖かいです」
「じゃあ、お風呂には一緒に入ろう!」
「絶対に嫌ですっ! 私は結衣先輩と一緒に入るって決めてますからっ!」
 こてんぱんにちなつちゃんから言われるな、京子。
 でも、話をよく聞けば私の名前も出てるし。ちなつちゃん、私と一緒にお風呂でも入りたいのかな。それとも、京子から逃げるために言ったのか? いや、それだったらあかりでも十分だと思うし。
 そういえば、あかりの声が聞こえないな。
「じゃあ、あかりと一緒に入ろうよ。ちなつちゃん」
「結衣先輩がだめって言ったら一緒に入っていいよ」
「な、何だか喜んでいいのかよく分からない答えだね」
 何だかあかりは不憫な子だな。
 でも、ちなつちゃんと一緒に……か。でも、うちのお風呂は二人で入るには少し狭いから断っちゃうかもしれない。ちなつちゃんには悪いけど。
 クリームシチューを取り分け、二人分を両手に持って部屋に入ると京子がちなつちゃんに抱きついているという状況だった。ちなつちゃんは少し嫌がっているが、これもごらく部でもよく見られる風景。
「クリームシチュー、できたよ」
「美味しそうですね! 結衣先輩!」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「私、運ぶのを手伝いますっ!」
 そう言うと、ちなつちゃんは見た目からは考えられないような力を発揮し、京子を突き飛ばす。
「じゃあ、あかりは綺麗に並べるね」
「ああ、頼む。あかり。ついでに京子のことも頼む」
「うん! 任せて!」
 あかりは笑顔で返事をしてくれた。
 うん、この誰にでも優しいってところが影の薄い原因になっているんじゃ。
「何だか今、あかりにとって嫌な言葉が飛んだような」
「気のせいだと思うよ」
「そうだといいけど……うん、頑張る」
 今の「頑張る」にはきっと二つの意味が込められているんだろうな。
 それはともかく、私は残りのクリームシチューと帰ってくるときに買ってきたクロワッサンをちなつちゃんと食卓に持って行く。
「先輩って色々な料理が作れるんですね!」
「そんなことないよ。それに、一人暮らしして自分でご飯作らなきゃいけないし」
「でも、クリームシチューなんて他に誰かがいないとなかなか作る気になれないですよ」
「……そうだね」
 でも、材料が同じでルーだけが違うカレーはけっこう一人暮らしには最適に感じるんだけど。作り置きすれば、色々とバリエーションもあるし。
 まあ、ちなつちゃんにとってシチューはみんなで食べるものかもしれない。
 今と同じように。
「こら、京子も何かやれ」
 部屋に運んでくると、そこには床の上にだら~んと横たわっている京子がいた。
「だって、ラムレーズン食べてないから体力がない」
「本当にお前ってやつは。あかりを見習え」
「あかりぃ……?」
 京子はジト目であかりのことを見る。
 それに対してあかりは京子のことを笑顔でずっと見ている。きっと、私に褒められて嬉しいからだと思う。
「とにかく、夕ご飯食べるから起きろ」
「分かったよ」
 京子は不機嫌そうに身体を起こした。まったく、そこまでラムレーズンが食べられないことを根に持っているのか。
 私とちなつちゃんが持ってきた料理を配膳して、四人で食卓を囲む。少々狭く感じる気がするけど、一人暮らしの私にとってはそれが何だか嬉しい。
 誰にも見つからないように、小さく笑った。
「じゃあ、みんな手を合わせて。いただきます」
 私が号令をかけると、三人は少し戸惑いながらも「いただきます」と言って夕ご飯を食べ始める。
 普段あまりしないことはするべきじゃないな。
 その後は部活の時と同じように、のんびりと話をしながら夕ご飯は進んだ。色々とだらだらとしていたら、食べ始めてから一時間は優に越えていた。
 一人だったら、こんな風に過ごすことは絶対にないと私は思った。


 後片付けをしたり、ゲームとかで遊んでいたら十時を過ぎていた。
 もうそろそろお風呂の時間になる。
 話し合いの結果、くじ引きで二組に分かれることになった。ただし、あかりが眠たそうなのであかりと一緒に組んだ人は先に入るということに。
 そして、私の監修で行われたくじ引きの結果、
「結衣先輩! 一緒にゆっくりと入りましょうね!」
「う、うん。ちなつちゃん」
「あー、ちなつちゃんと入りたかったのに!」
「ご、ごめんね。京子ちゃん……」
 今の会話で分かったように、くじ引きをした結果、私とちなつちゃん、京子とあかりという二組になった。
 私は別に誰とでも良かったんだけど、京子はかなりご不満らしい。
「そうだ!」
 どうやら、京子は名案を思いついたらしい。
「ちなつちゃんも一緒に入ろうよ、三人で!」
「えー、別にいいですよ。それに、二人までなら何とか大丈夫だからくじ引きをしたんですよ? ですよね、結衣先輩」
「まあ、そうだね」
「……まあ、あかりでもいいか」
「もう、京子ちゃんったらひどいよっ!」
 さすがに、あかりもこれには怒ったか。しかし、あまり迫力がない。
 だが、ここからは意外と京子は素直になって、あかりの手を引いて浴室に向かった。随分と眠たそうにしてるから、責任を感じたのか。
 京子とあかりがお風呂から出てくる約三十分の間、私はちなつちゃんと一緒にテレビを観ていた。


 京子とあかりがお風呂に入って三十分後。
 私とちなつちゃんがみんなの分の布団を敷いているときだった。京子とあかりが浴室から出てきた。
「気持ちよかったね、京子ちゃん」
「そうだなぁ、あかりと二人で入るのもなかなか悪くないな」
「……二人で入ったのか」
「うん。二人で入ると温かくていいよ」
 あかりはお風呂に入って幾分スッキリした表情になっていたけど、その声は凄くのんびりとしていて、眠たそうなのが伝わってくる。
「えええっ! あかりちゃん、京子先輩と二人で湯船に浸かったの!?」
「うん、そうだよ。ちなつちゃんも結衣ちゃんと一緒にすればいいんじゃないかな」
「え、えええっ! 私が結衣先輩と……!」
 ちなつちゃんは大声を上げて、私の方をちらっと見るとすぐに視線を逸らされてしまった。ちなつちゃん、もしかして恥ずかしいのかな。
「それは私が許さない!」
「何で京子が突っ込むんだよ。ていうか、京子に何の権限ないだろ」
「うううっ、結衣のばかっ!」
「何で馬鹿呼ばわりされなきゃいけない」
「……ふん」
 さっきにも増して京子は不機嫌になった。
 たぶん、あかりと一緒に入ったことじゃなくて、ちなつちゃんと入れないことに不満を持っているとは思うけれど。
 ちなつちゃんと一緒に入ることにそんなに不機嫌だなんて、そこまでちなつちゃんと一緒が良かったのかな。
 しょうがない、と小さく呟いて私はキッチンに行き、冷凍庫の中に入っているラムレーズンを一個取り出す。
「ほら、京子。寒いけど、風呂上がりにラムレーズンでも食べな」
「いいの!?」
「当たり前だろ。それに、夕飯の後に食べていいって言いながらゲームとかしてて食べてなかっただろ?」
「うんうん!」
「だから、ほら。これ、食べていいよ」
 私はスプーンを添えて京子にラムレーズンを渡す。けど、京子はその場で立ち止まった。
「どうした?」
「……これ、いつものと違う」
「ああ、この前スーパーに行ったら新発売で売り始めてた奴。一個だけ買ってみたんだけど、どうも寒いから食べる気にならなくて。だから、京子にあげる」
「私が食べちゃってもいいの?」
 いつもなら遠慮無く食べる京子が、ここでは私に訊き返している。一つだけ買ってきたという言葉がそれほどに重いのか。
「気にしなくていいよ。京子が食べてくれるなら、私は全然構わないから」
「そう? だったら、お言葉に甘えて食べちゃおうかな?」
「うん」
 すると、京子は嬉しそうな表情で部屋に戻っていった。
 代わりにちなつちゃんがキッチンへとやってくる。
「何だか京子先輩、ラムレーズン持って凄く嬉しそうでしたけど」
「ずっと食べたがってたからね」
「そうですか」
「じゃあ、一緒に入ろうか。お風呂」
「は、はいっ! あ、あの……よろしくお願いしますっ!」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ」
 旅行とかで一緒に入ったことがあるんだけど。ちなつちゃん、そんなに私と入って緊張することでもあるのか?
 まあ、一緒に入れば自然と和むと思う。
 それと、お風呂から上がったら……京子がどうなっているか、今から私はちょっとだけ楽しみになっていた。


後編に続く。
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