日記と音楽レビューを中心に更新しています。リンク&トラバなどはフリーです。

2017/03 |  123456789101112131415161718192021222324252627282930 | 2017/05

こんばんは、セカコンです。
今日は映画『SP-革命篇-』を観に行きました。

ネタバレしないように軽く感想を言うと、
『野望篇』を観ていればもっと面白かったなと思っています。

TVドラマ版から謎になっていた要素も全て明らかになって、
今日やっとスッキリした感じです。

SPと言えばやっぱりアクションシーンですよね。
今回は4対5で戦うシーンもあったので、そこは圧巻でした。凄いです。

SPのファンの人、また映画ファンの人にも観て欲しい一作です。
春休みのこの時期に一度観てみてはいかがでしょうか。


さあ、SS『HAPPY』も今回でクライマックスです。
長かった物語もついに完結!


それでは、最終vol.10をどうぞ。


~EPILOGUE 夜明け~


 ――まずは前に一歩、歩き出してみようと思う。



 八月三十日



 どこに立っているのだろう。
 そして再び、黒い闇が私を襲いかかろうとしている。


 しかし、光が差し込んだ。


 「うっ、うん……」
 小鳥の鳴く声が聞こえる。ゆっくりと目を開けると、日差しが直接当たっているせいか視界が赤く染まっているように感じる。
 見て分かるのは、白く高い天井であることだ。自分の住んでいる部屋でないことは分かった。
 「んにゅ……」
 「ん?」
 私のすぐ側から可愛らしい女の子の声が聞こえる。起き上がれるかどうか心配だったが、いざ身体を動かすとすっと上半身を起こすことができた。
 そして、この声の正体は……金髪の少女、ナギであった。私の記憶の中のナギに比べると大分成長している。だが、金髪のツインテールは変わっておらず面影はきちんと残っている。
 「……死んじゃ、ダメなんだからな……」
 その寝言で何となく分かった。ここは病院で……私はある病室のベッドで寝ていたらしい。病室を見渡したが病室とは言い難いような広さで、デザインも病院用のベッドさえなければホテルの一室と言っても納得できてしまうほどの上品さである。
 「でも、どうして私がここに……?」
 たぶん、昨日の感覚は私には無いのだがこの時代では昨日か。睡眠薬を大量に飲んでしまってそのまま倒れた。誰が私のことを見つけたんだ……?
 だけどそれは容易に想像できる。ナギがこうして寝ているからな。きっと見つけたのは……。


 「おや、千桜さん。気づきましたか?」


 部屋の中に入ってきた執事服を着た青年、綾崎ハヤテだ。
 「ああ。綾崎くんにはどうやら迷惑をかけてしまったようだな」
 「……僕のことは気にしないでください、千桜さん。僕は千桜さんの意識が戻ればそれで良かったのですから」
 「そうか」
 「迷惑をかけてしまったと思ってしまったなら、そこで眠っているお嬢さまに謝ってください」
 「……すまなかったな、ナギ」
 私はナギの頭を撫でる。三年経ってもこの感触は変わらなかった。
 「ところで綾崎くん、今日は何日で何時なんだ……?」
 「今日は八月三十日で時刻は……午前六時前ですね」
 「……まだ六時間ちょっとしか経っていないのか」
 「昨日の夜……日付が変わる少し前に千桜さんの部屋に訪ねたんですよ」
 「いったい、どうして?」
 「……ちょっとした用事ができまして」
 「そうか……」
 「そうしたら、千桜さんの部屋の扉が開いていたので……何かあったのかと思い部屋の中に入ったら、」
 「私は倒れていたところを見つけた……と」
 「ええ、身体の熱が抜けかけていまして……呼吸もしていませんでした。お嬢さまに頼んで、この病院に救急車で運んでもらったんですよ」
 「やはり死ぬところだったのか」
 「お嬢さまは号泣していました。千桜さんが死ぬんじゃないかって。きっと、他の誰より泣いていたのはお嬢さまだったと思います」
 「……私はどれだけ子供なんだろうな」
 ああ、また涙が出てきそうだ……今度は綾崎くんの前で。
 「子供の私なら、私が睡眠薬を飲んで死ぬことを……許してくれるかと思ってた。だから、子供の私でいられる昨日の夜に飲んだんだよ」
 「子供の千桜さんですか……」
 「でも、それは間違いだったよ。咲夜さんにそれを教わった気がしたんだ」
 「どういうことですか?」
 「実は、な……」
 私は全て話した。三年前の夏にタイムスリップをして……ムラサキノヤカタに住んで。ナギと一緒に同人活動をしてコミケに参加をしたこと。そして、あの日……綾崎くんと別れた日に咲夜さんと会って本当の気持ちを知ったこと……。
 「……夢みたいな話ですね」
 「本当に夢なのかもしれない。でも、感じた喜びも悲しみも……全て本当のことに感じているんだ」
 「でも、僕の中ではハルミさんという女性と三年前に会った記憶はないんですよね」
 「そうか、だったら夢なのかもしれないな」
 「しかし咲夜さんの件については本当です。自分の病気と余生を千桜さんに知られる前に、千桜さんとの縁を切ってしまおうとしたのは」
 「それで、あの日……綾崎くんは咲夜さんとの恋愛を演じたと」
 「ええ」
 「……当時の私はどう思っていたんだろうな。私は当然そんな裏事情があるなんて知らないから、きっと……裏切られた気がしたんだな」
 「裏切られた?」
 「綾崎くんは優しくて、私のことを考えてくれていた。咲夜さんも私と綾崎くんとの恋仲を応援してくれていた。でも、あの日……綾崎くんと咲夜さんがキスをしていたところを見たとき、私は全てを失った気持ちになったんだ」
 「本当に……申し訳ありませんでした」
 綾崎くんは私に深く頭を下げている。こんなに下げられたことは今までにない。
 「でも、いいんだ……」
 「えっ?」
 「たとえそれが夢であっても、私は咲夜さんに会えて……話をすることができて、謝ることができたんだから」
 「……そうですか」
 「咲夜さんはもう亡くなってしまったけど、あの日の出来事の真意を本人の口から聞けたことを私は嬉しく思っているよ」
 「僕、あの後……何度も悩みました。千桜さんに本当のことを話そうかどうか……でも、咲夜さんは亡くなるまでは病気のことは隠しておいてほしいとおっしゃっていたので」
 「……」
 「千桜さんは純情なところがあるから……。もし、病気のことを話したら……それこそ、千桜さん自身を“殺してしまう”んじゃないかって……」
 「……そうか」
 「だから本当に謝らなければならないことばかりで……申し訳ありません」
 「もう、いいよ。咲夜さんがこの世にいないことに変わりはないんだから」
 「はいっ……!」
 「その後、綾崎くんとナギはどういう三年間を送ったんだ?」
 綾崎くんの話によるとどうやらナギは、あの後……必死に努力をしてルカの代わりにFRY DOLPHINを大手サークルになるまで成長させたらしい。日本有数の大学に進学して、学生生活と同人活動上手く両立させているのだとか。
 綾崎くんは大学に進学せずに執事の仕事をやっているらしい。他人のことを気にしなかった私には知らなかったのだが、屋敷に戻った理由は高校を卒業した際にナギの努力が認められたからか三千院家の屋敷に戻って良いと言われたかららしい。それからは三千院家の屋敷で暮らしている。
 「そうか……良かったな、お屋敷の生活を普通にできるなんて」
 「最初の頃はお嬢さまも流石に『広すぎる!』と言っていましたが、すぐに順応できたようで……前みたいに普段のお屋敷での生活を送れています」
 「ナギらしいな」
 きっとヒナギクも愛歌さん達も……それぞれの道を進んでいることだろう。
 「そうだ、思い出したけど……」
 「何ですか?」
 「昨晩、何の用で綾崎くんは私の家まで来たんだ?」
 「千桜さんに渡したい物があったからです」
 「私に?」
 綾崎くんはポケットから三つの白い封筒を差し出す。表には『ハルさんへ』と書かれていて、裏には日付が書かれている。書いた日付なのだろうか。
 「この手紙……咲夜さんからです」
 「えっ……」
 「一昨年の八月と去年の八月と五日前に書かれた手紙です」
 たしかに、裏の日付を見ると全て八月に書かれていた。私は日付の古い方から順番に手紙を読んでいく。

 『咲夜です。実は、私は難病を患っていて余命はあと一年と宣告されて……その一年が経とうとしています。
ハルさんはもうすぐで十八歳ですね。今は大学受験への勉強で大変だと思いますが、自分の志望する学校へ入りたい気持ちを持って、夢を持って頑張ってください。

 私はもうこれからは何時まで生きられるかは分かりません。でも、毎日ハルさんのことを想っています。幸せになることを願っています。』


 次が二通目か。


 『ハルさん、お元気ですか? 私は何とかあれから二年生きることができました。ハルさんが大学に合格して進学したことは借金執事から聞きました。それは、人生の中で一番嬉しかったことだと思っています。
きっと、大学ではたくさんの友人を作って……楽しい日々を送れていると思います。しかし、そうでなかったらきっと私の所為だと思います、ごめんなさい。

一日でも長く生きれるように頑張りたいと思います。』


 そして、次が最後の手紙か。


 『もう、私はこの先すぐに逝ってしまうと感じました。だから、逝ってしまう前に……最後の手紙を書こうと思います。

 たぶん、この手紙を読むのは私が天国に旅立った後だと思います。

 だから、この手紙を読むとき……とても悲しんでいるでしょう。
 私もとても悲しいです、ハルさんと会えなくなることを。

 でも、その悲しみを全て一人で抱え込むようなことをしないでほしい。
 あなたの隣には綾崎ハヤテという人がいる。ナギという人がいる。マリアさんや生徒会長さん……他にもあなたのことを想ってくれている友達はたくさんいます。
 その友達と悲しみを分け合って、喜びは何倍にも大きく分かち合ってください。皆、それができる人たちです。 私もその中に入りたかった。


 そして、あの日のことをきっとハヤテから聞いていると思います。私の病気のことを知られたくなくて、ハルさんの悲しむ顔を見たくなくてあのようなことをしてしまいました。本当にごめんなさい。
 あの日のことを想うと、今でも胸が痛みます。ずっと後悔しています……だからこそ、今、ここで言わせてください。


 これからは、綾崎ハヤテをはじめとした人間を頼りなさい。
 特にハヤテは三年経った今でも、常にあなたのことを一番に想ってくれています。困ったとき、辛いときには他人に頼る勇気が必要です。
 私が三年間で学んだことです……。そして、自分に正直になりなさい。あの時、正直になれなかった私への教訓でもあります。


 長くなりましたが、これで本当にお別れです。
 ハルさん、どうか幸せに生きてください……。』



 そして、この手紙を書いた三日後に……咲夜さんは亡くなった。



 咲夜さんがいかに私のことを考えてくれていたか。この手紙を読めば一目瞭然だった。もう、涙が溢れ出して止まらない。
 「咲夜さん……」
 「咲夜さんは亡くなる直前まで、明るさを忘れない人でした。でも、時々明るさが無くなる時があったんです。それはきっと、千桜さんのことを考えていたからでしょう」
 「……咲夜さん、あなたは本当に私のことを想っていてくれたんですね……」
 「……その指輪」
 「えっ?」
 「その指輪……いつの間に付けていたんですか?」
 綾崎くんが指さしたのは、私の右手の薬指にはめている……指輪だった。これって、まさか……。
 「僕、探していたんですよ。この手紙の他に一つ……千桜さんに渡して欲しい物があるって受け取っていたんです。それが、今……千桜さんがはめている指輪だったんですよ」
 「なんだって……?」
 「この黒い箱に……そう、その指輪、実際に見せてもらいましたので覚えていますよ。間違いなくそれです」
 指輪を外してみる。たしかに、あの日に咲夜さんからもらった指輪だ。指輪の内側に
『SAKUYA』と刻まれている。
 「……きっと、直接はめたかったんだな」
 「えっ?」
 「この指輪をあげると言われたとき、凄く嬉しそうな顔をしていたよ。たぶん、咲夜さんのお父様に買って貰った中でも一番に嬉しかった物だったんだな。私の指にピッタリだって分かったときにはそれはもう……」
 「じゃあ、もしかしたら……そんな思いもあったのか千桜さんは過去に行ったのかもしれませんね」
 「そうだと、良いな……」
 過去に連れて行ったのは神様だと思っていた。でも、その神様はもしかして……咲夜さんだったのだろうか。
 過去に行き、信じ合える友人を作り……永遠の別れという迫られる決断にも耐えられるような人間にしたかった。そして、そんな人間になった自分に……指輪を直接はめてあげたかったのだろうか。
 他人から言わせればそれは信じられない話で、綺麗すぎる話であると笑われるかもしれない。でも、私は信じている。この指輪がここにある限り……それは実際にあったことなのだと。そして、それを大切にしていきたい。


 「うん……」


 私の会話のせいか、ナギが目覚めた。
 「ナギ、おはよう」
 「……千桜? おまえ……意識が戻ったのか?」
 「ああ、心配かけさせてすまなかったな」
 「……ばかっ、ばかばかばかっ!! どれだけ心配したと思ってるんだよ! お前が死ぬかもしれないと思って、私……すごく辛かったんだからな!」
 「本当に、ごめんな……」
 「三年ぶりの再会が死んだお前なんて……絶対に嫌だったんだからなっ!!」
 目覚めた瞬間に号泣してしまったナギを、私は力抱きしめる。抱きしめて分かる、三年の月日。身体は大きくなってしまった。しかし、その暖かさは変わっていなかった。
 「ナギ、覚えているか?」
 「えっ?」
 「三年前に……今の私に似た人がいたことを」
 「……覚えてない」
 「そうか……」
 「でも今、夢の中で……まさに、お前と一緒に夏を過ごした夢を見たんだよ。そう、ムラサキノヤカタに住んでいた頃の時のことだ」
 「名前は……何ていう名前だった?」
 「ハルミ……そう、桜庭ハルミっていう名前だった」
 「まさか……」
 まさか、私は……ナギの夢の中に入り込んでいたのだろうか。信じられない、綾崎くんが覚えていなくてナギが夢であっても覚えていたなんて。
 「そいつと一緒にイラストを作って……コミケにも参加した。色々とあったけどさ……凄く楽しかったことは覚えてる」
 「まるで体験しているようですね、お嬢さま」
 「不思議なんだよな……一ヶ月くらいの出来事があってさ。最後はそいつと別れたんだ、三年後にまた会おうって」
 「ナギ……」
 「久しぶりだな、ハルミ……いや、千桜って呼んだ方が良いか?」
 「……待っててくれていたんだな?」
 「当たり前だ。……友達だろう?」
 「ナギ……!」
 精一杯に抱きしめた。夢でも現実でも……どちらでもいい。咲夜さんの言うとおり、私にはこうして抱きしめられる友達がいる。どんなことがあっても待っていてくれる友達がいる。それが分かって本当に幸せだ。
 「千桜」
 「……なんだ?」
 「あの時の続きの活動をしないか? FRY DOLPHINさ……すごく人気のサークルになったけど、お前と二人ならやれそうな気がするんだ」
 その時のナギの表情は三年前の、あの日・・・秋の即売会に一緒に参加しようと言われたときと同じ表情をしている。何とも言えない目線。
「……ごめんな、ナギ。私には大学の友達とサークルを組んでいるんだ。今は、その友達と一緒に頑張りたいんだ」
 「そうか、寂しいけど……大丈夫だ。私にはルカがいるからな!」
 「ルカは活動しているのか?」
 「まあ、ルカは芸能活動の方に忙しいけど……私、必死に努力して……ルカと並ぶくらいにかわいい絵、描けるようになったんだぞ?」
 「そうか。今度何か即売会に出たときには……同人誌、楽しみにしているよ」
 「期待しておけよな」
 「ああ」
 ナギの笑顔はとても輝いていた。それは今、ナギを後ろから朝日が照らしているからかな? 赤くて眩しい。
 私はベッドから下りて、窓まで歩く。窓からの景色は希望に溢れた世界のように感じた。広くそして静かに澄み渡った景色。東の空に昇っている朝日は、まるで私のこれからを象徴しているようだった。


 私は退院を許された。昨日来ていたスーツは綾崎くんが綺麗にしてくれていたようで。今日、咲夜さんの告別式。私はそれを着て告別式に出席した。
 僧侶が拝むのは咲夜さんの家で行われるので咲夜さんの家に、私とナギと綾崎くんの三人で向かった。
 「咲夜さんの家には、みんなが待ってるのかな?」
 「ええ、昨日もお通夜の時は一緒でしたので……たぶん、ほとんどの人が参列すると思いますよ」
 「そう、か……」
 三千院家の用意した車の中で、私は緊張した。三年経つとみんながどのように変わっているのか想像ができなくて、な。
 会場の咲夜さんの家に着く。車を降りると、そこには懐かしい顔ぶれが。昨日会ったマリアさんを除くと、伊澄さんにヒナギクに愛歌さんに三人娘。ワタルくんにサキさんに西沢さんまでもが私のことを待ってくれていた。
 私が死のうとしたのに、そんなことは一言も言わずに。ただ、三年ぶりにこうして笑顔で話せることを喜んでいて、本当に良い友達を持ったと思う。
 見た目は変わった人も変わらなかった人もいた。しかし、雰囲気は……高校時代のままだった。もう少しあの後の高校時代を楽しく過ごせたんじゃないかと思うと少し後悔はあるが、まあ後悔してもしょうがない。
 午前十一時から告別式が始まった。座った席は昨日と違って、一般人の一番の前の席だ。隣にはナギが座っていた。
 経の途中にある焼香も無事に終わった。そして、経が終わって棺が開かれる。死人との最後の対面をするため。そして、花を手向けるためだ。
 「千桜、行こう」
 「……うん」
 咲夜さんのお父様や親族の方々が花を手向けた後、私たち咲夜さんの友人らが花を手向ける番となった。
 「綺麗に眠っているな、千桜」
 「ああ、本当に」
 白い布に身を包み、手はきちんと握っている。顔も化粧されている。ナギの言うとおり綺麗に眠っていた。
 「せっかくだから、顔の近くに花を手向けてやれよ」
 「……分かった」
 使用人の人から菊の花を一輪もらう。私は棺の中に入っている咲夜さんを見る。咲夜さんは笑っているように見えた。昨日は悲しそうな表情だったのに今日は嬉しそうにしている。これも、私が三年前に行ってお互いに満足できる結果にしたからだろうか。
 菊の花を顔の横に手向け、私は咲夜さんに言った。


 「咲夜さん、今までありがとうございました。安らかに眠ってください」


 涙が出そうになったけど、それでは咲夜さんが安心して天国に逝けない。だから、私は必死にこらえた。周りを見るとナギと伊澄さんは泣いていた、同い年で昔からの親友だからだろう。私よりも付き合いはずっと長いから。
 その後も棺に花を手向けられ……用意した花が全て手向けられると、棺の蓋がゆっくりと閉められた。
 棺は家の外に運ばれ……外には多くの喪服を着た人が集まっていた。視線の先には棺を運ぶための霊柩車がそこにあった。
 「咲夜さん……」
 「どんな人間でもいつかは咲夜の場に立つんだ。母が亡くなったとき、私は死という物がすぐそこにあるものだと知ったんだ」
 「ナギ……」
 「でも、私たちは生きている。死ぬのは簡単だけど、命を授かることは……容易いことじゃないと思う」
 「死ぬのは一人でできるけど、命を生むには一人では無理だからか……?」
 「そうだ。だからこそ、今、この瞬間を生きられることに感謝しているんだ」
 「感謝、か……」
 「それに生きているなら、一人じゃなくて誰かと一緒にいた方が良い。人との間での喜怒哀楽がなければ、生まれた奇跡に相当しないからな」
 「……そうだな、それは合っているかもしれないな」
 「私は咲夜との喜怒哀楽した日々を大切にしようと思う。これからも」
 「……私も大切にしようと思う」
 咲夜さんの入った棺は霊柩車の中に入る。そして、クラクションが鳴る。霊柩車は走り出し……出棺した。
 私たちもすぐに霊柩車の後を、愛沢家の用意したリムジンで追った。火葬場に向かう。
 火葬場は綺麗な場所であり、この日は他に一人……ここで火葬されるらしい。火葬場に入ると、そこには咲夜さんの小さな遺影が用意されていた。
 僧侶が最後の経を上げる。そして、咲夜さんの入った棺は正面の開かれた扉に入っていき……ゆっくりと閉められた。


 こうして、永遠の別れは一瞬のうちに過ぎていった。


 その後、昼食を食べた後は再びリムジンで咲夜さんの家に戻り……参列者は解散となり家の前の庭は人が少なくなっていた。
 「千桜さん」
 「何だ?」
 「……今日はありがとうございました」
 「礼なんていらないよ、私は……ただ、参列したくて一緒に行っただけだよ」
 「そうですか」
 だが、綾崎くんは私の前を動かない。真剣なまなざしは私にまだ何か大切なことを言い残しているように見える。
 「あの後、手紙を受け取った後に咲夜さんに言われたことがあるんです」
 「えっ?」
 「咲夜さんが亡くなった後……千桜さんのことを宜しく頼むって」
 「……そうか」
 「その宜しく頼むというのはどういう意味かははっきりとしてないのですが、僕の解釈はこうだと思っています」
 そう言うと綾崎くんは、深く頭を下げる。
 「僕と付き合ってください」
 「……友達からなら、付き合ってもいいぞ」
 「……はい!」
 私はそう答えた。だけど、一つ気になっていることがあった。咲夜さんのあの日の行為の真意を知ってから抱いた疑問だ。
 「なあ、綾崎くん」
 「何ですか?」
 「三年前……あの時も綾崎くんから付き合ってくださいって言ってきたよな」
 「はい、覚えています」
 「その時から咲夜さんの病気を知っていて、あの日の行動を目視した告白だったのか? それをどうしても知りたくなって」
 「……」
 綾崎くんは真剣な表情になった。私の顔を見つめている。しかし、綾崎くんは優しい表情へと変えていき、
 「あの時、僕は……千桜さんの好きな気持ちをだけを持って告白しました」
 「そうか、安心したよ」
 「あの日の後も……千桜さんのことが好きな気持ちは変わっていません」
 「綾崎くんと出会えて良かったな」
 「……ありがとうございます」
 でも、何か……恋愛の感情よりもそれまでの友達の感情の方が強い。でもいいか、時間は十分にあるのだから。
 「そういえば、千桜さん」
 「どうした?」
 「今日……八月三十日って千桜さんの誕生日ですよね? たしか今年で二十歳だと思います」
 「そうだけど」
 「こんな日にですが……この後、千桜さんの誕生日会を三千院家で開こうと思っているんです」
 「……」
 「来てくれますか? ちなみに、お嬢さまをはじめ……あそこにいる皆さんは賛同し参加してくださるそうなんですけど」
 「……ああ。楽しみにしているよ」
 「ありがとうございます、それでは皆さんにお伝えしてきます」
 そう言うと綾崎くんはナギ達の集まっているところに駆けていった。
 私は大学の「友達」に電話をかける。
 「今日、ごめんね。急に用事ができちゃって……明日でも良いかな? うん、ありがとう。じゃあ、明日……楽しみにしてるね」
 大学の「友達」もどうやら私の誕生日を祝ってくれるようだ。でも、今日は……今そこにいる友達と過ごしたい。話したいこと、たくさんあるから。


 健康な身体があればいい。
 一緒に喜び、悲しみ……それを分かち合える友達がいればいい。


 この二日間と三年前のあの一ヶ月間を体験して思ったことだ。
 時には逃げ出したい壁があるだろう。投げ出したくなる壁があるだろう。しかし、その先には乗り越えただけの喜びがある。これも今回のことで分かったこと。
 咲夜さんはこの世にいない。だから、咲夜さんと直接喜び合うことはできない。でも、天国にいる咲夜さんが喜ぶことができる方法を私は知っている。


 それは、私自身が幸せに向かって毎日を生きることだ。


 そこにたどり着くには、一人では決してたどり着けない。でも、私には友達がいて……そして好きな人もいる。支えてくれている人はこんなにいる。
 そして今日、二十歳になって……大人への階段を登り出す。昨日までの自分とは別れて。新たな一人の人間として。


 友達の所へ歩き出したとき、夏なのに爽やかな風が私を包んだ。
 そして、確かに聞こえた。あの人の声が。


 ――HAPPY BIRTHDAY.


『HAPPY』 Fin



最後まで拝読していただきありがとうございました。
3/22以降に後書きなどをアップしたいと思います。
コメント
この記事へのコメント
こんばんは。けんむろです。

セカコンさんのSS、感動しました!
とても考えさせられるお話で、中身の濃いものだったと思います。
毎日、楽しみにしながら遊びに来させていただきましたよ。

特に東日本大震災の影響をもろ喰らい、いろんなものを失ったので、そのときの毎日の数少ない楽しみがこのSSでした。
この時期にやっていただいて、本当に嬉しかったです。
また明日も続きが更新されると思うと、もうこんな生活はいやだと思う反面、早く明日が来てくれないかなとも思うようになりました。

さらに、千桜が主人公ということにより、なおいっそう物語にのめり込みました。

そしてたくさん元気をいただきました。

本当にありがとうございます。

次回作も期待しております。

それでは失礼致します。
2011/03/22(火) 00:28 | URL | けんむろ #-[ 編集]
Re: タイトルなし
>>けんむろさん

こんばんは、セカコンです。
宮城の方に住んでいらっしゃるということで、地震の後心配しましたが大丈夫そうなので安心しました。

この地震が起こった時期にこのSSの内容。
そのような感想を頂けてとても嬉しいです。

やはり毎日更新した方が楽しみが長く持続できるかなと思いまして。
数少ない楽しみに入れていただいて光栄ですw

これから不自由な生活が続くかもしれません。また、余震にも気をつけてください。
一日でも早く平穏な日々が戻ることを願っています。


それでは、失礼します。
2011/03/22(火) 22:13 | URL | セカコン #-[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://2ndbutlershun.blog60.fc2.com/tb.php/920-7106ab5e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック