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こんばんは、セカコンです。
Aの方をアップしてから今までに2回ほど地震が来ました。

自分の部屋が3階にあるので、
震度3くらいでもまともに揺れます。物が落ちたりすることはありませんが。

Aの方で言っていた自分の住む地域が停電にならない理由。
父親から聞いたのですが「それ本当?」って思いました。

三つ目は近くに火葬場があるからだそうです。
どうやら火葬をする時に電気を色々使うのだとか。

・・・ただそれだけらしいです。
火葬の仕方なんて、知りたくないですw


今回はvol.6-Bですね。色々なキャラが絡む夏コミ奮闘記!(?)


それでは、vol.6-Bをどうぞ。

 
 コミケ開始と同時に会場に拍手が沸く。私とナギはその雰囲気に押されて、自然と拍手をする。壁サークルの方を見ると、さっそく整列のための準備を行っていた。
 「壁サークルは忙しいんだな」
 「そうらしいな。多くの人が並ぶと予想されるサークルには、コミケのスタッフも付くんだよ」
 「色々と大変なのだな」
 「まあ、私たちはゆっくりやっていこう」
 「そうだな、色々とせかせかするのは嫌だからな」
 と言って、ナギは周りをキョロキョロと見始めた。数分後、外から大勢がこちらに来るだろう足音が近づいてくる。次第に大きくなる。
 『会場内では走らないでください! あなたの嫁は逃げませんから!』
 というユーモア溢れる注意が飛び交う。きっとこのようなことを言うのは警備員ではなくコミケのスタッフだろう。
 『うおおっ!!』
 という野太い男性の叫び声も聞こえる。さぞかし目当てのサークルへと一所懸命に走っていることでしょう。
 「おい、あれ……!」
 「ん? ついに来たか」
 走って入ってくる一般参加者の人たち。その大半は壁サークルのスペースへと走っていく。こちらの方に来る人は少ない。
 「みんな壁サークルの方に走って行くな。それよりも人の量が凄いな」
 「ああ、あと少しすれば左横なんて人でいっぱいになるぞ」
 私たちから見て左側に壁サークルがあった。既に近くの壁サークルには列ができ始めているのが見える。ちなみに右隣が薫先生のスペースだ。
 「三十分や一時間もすればきっとこちらの方に流れ始めてくるさ」
 「ああ、それに壁サークルにも近いしな!」
 「来た人たちには丁寧な対応をするんだぞ。分かったか?」
 「分かってるよ」
 「……気長にやっていこう」
 午前十時から午後四時までの六時間。販売数は五十冊なので、平均して一時間に十冊程度を売る必要がある。まあ、午前十一時から正午くらいまではあまり売れないと考えておこう。
 壁サークルの様子を見るとすごいなあ。コミケのスタッフが「サークル○○にお並びの皆さま手を挙げてください!」というと大勢の人が手を挙げる。きっと、この手を挙げた人だけで私たちの売る同人誌は売り切れてしまうだろう。
 「暑いな……」
 「こまめに水分補給しておけよ。あと、タオルとかで汗を拭いたりもして」
 「そこら辺はちゃんと自分で考えるよ」
 「そっか、すまなかった」
 さすがにここまでは気にかけなくて良かったか。いや、ナギだと冷房のかかっていない空間で六時間も耐えられないような気がした。
 午前十一時過ぎになると、徐々に私たちのいるスペース……島の方にも一般参加者がやってきた。壁サークルへの用事が済んだ人が流れてくるのもあるだろう。最初の一時間で五冊売れた。良い出だしだろう。
 「読んでもらう時ってドキドキするよな」
 「まあ、自分が描いたわけではないけどな……」
 普段は強気の態度を取っているが、見本誌を一般の人が読み始めた途端に、ナギの表情が堅くなっていた。その時の額からの汗の量は、普段の二倍ほどになる。
 「でも、少しこわばった表情で読んでいる人のことを見ていてはいけないぞ。気持ちよく読んでもらわなきゃ」
 「うううっ、そうしたいとは思っているんだがな……」
 「……そうだ」
 私はバッグからスケッチブックと筆記具を取り出す。
 「だったら、同人誌に関係ないキャラクターでもいいからさ……軽く絵でも描いたらどうだ?」
 「え?」
 「まあ、長い時間暑い中で戦うんだ。やっぱり、こんな状況でも好きなことをしていると時間ってあっという間に過ぎていくから」
 「でもなぁ……」
 「あと、見本誌を読む人には『どうぞ読んで見てください』と言って、同人誌を買ってくれたときは、私がペーパーを二枚渡すからそしたら『ありがとうございます』と言うんだ。これでいいんだよ、ナギは」
 「むぅ、何だか頼られていない気がするんだが」
 「まあ、絵を描くのが飽きたらその時はナギに任せるよ」
 「実際の所、絵を描きたいところだったから別に良いけどな」
 「うん。もしかしたら『スケブお願いします!』って言われるかもしれないな」
 「ひえっ!」
 「あははっ、そんなに描けないよな。まあ、今回はスケブはお断りしておくか」
 「ぜひお願いする」
 てっきりナギなら自身たっぷりに「スケブなんていくらでも受け付けようではないかっ!」と豪語するかと思ったんだけどな。意外だった。
 何かの時用に持ってきた白紙に、『スケブはお断りします』と書き同人誌の横に置いておく。これで大丈夫だな。
 ナギはスケッチブックを左手に持ち、鉛筆で絵を描き始めた。どんな絵を描いてくれるか楽しみにしておこう。
 ちなみに、左側にナギがいて右には隣のスペース……薫先生が一人いる。どうやらけっこう売り上げているようで。
 「ふっ、もう十五冊も売り上げてしまったよ」
 「凄いですね、まだ一時間とちょっとしか経っていないのに」
 「やはり前回同様、フィギュア付き同人誌だと売れ行きが良いんだな」
 一瞬その言葉に首をかしげた。『同人誌付きフィギュア』じゃないのか? 薫先生のスペースを見ると、どうもフィギュアの方が前面に出ている気がするんだが。見本誌を見本のフィギュアが置いてあるが、来る人のほとんどがフィギュアを手に取っている。
 「俺の費やした情熱が分かってくれる人がいて、俺はとても嬉しいですよ」
 「はあ、それはそれは……」
 たしかに情熱はあるだろう……。しかしそれは、そのフィギュアのモデルの人に対してだろう。ビキニ姿にするなんて、薫先生の雪路への欲望は相当なんだな。
 「ちなみに全部で何セット持ってきているんですか?」
 「まあ、百セットです」
 「百セット……!」
 バカな、こんな所に百セット置いてあるのか。まあ、無理ではないのかもしれないけど……私たちの二倍か。でも、何だか売り切ってしまいそうだな。
 「百セット全てを売り上げたいんです。そして、百人と……あなたたちにこの情熱を分けてあげたいんですよ」
 「はぁ、どうも」
 正直、その情熱は受け取りたくない。薫先生、体育教師の中では熱血に見えなかったのだが、隠れた情熱を秘めていたのだろうか。分からない人だ。
 「お互いに頑張りましょうね!」
 と親指を立てられる。何だか少し哀れに思えてきた。そんなときに、薫先生の方にはお客さんがやってきて……薫先生は接客に戻った。
 声をかけた方が良いのだろうか。……と思ったが、失敗談を思い出したのでそれはやめておこう。来てくれた方が前に立ち止まったら対応することにしよう。


 「あじゅじゅした~」


 懐かしいこの挨拶。言う回数も多くなってきた。
 正午となり、売れた同人誌は今ので二十冊となった。大手サークルの用事を終えた人たちが、近くだったのか私たちのスペースに来てくれていた。
 「このペーパーの二枚の絵はもしかしてあなたたちが……?」
 「ええ、この同人誌を描いた人は今日は用事があって出られなかったんです。だから、私たちが代わりに売り子として。なので、せっかくだからとペーパーを描いたんですよ」
 「へえ、そうなんですか」
 「宣伝に聞こえてしまいますが、買ってくださると三人の人が描いた絵を手に入れられますよ」
 見本誌を読んでくれている大学生の男性は、イルカの絵に興味を持ったそうだ。そして、予想外の美少女の登場でにやけている。
 「この絵、とても良いですね! もちろん、ストーリーも面白いですよ!」
 「ありがとうございます」
 「いや……この同人誌を描いた人にもぜひお会いしたいです!」
 「すみません、多忙な人ですので……。本人にも伝えておきます」
 「一冊ください!」
 「ありがとうございます、三百円です」
 私は手を差し出すと、男性は三百円を出した。小銭入れに入れて、おまけのペーパーを渡す。このペーパーの受けが良いらしく、今の男性のように喜んでくれる人が多い。
 「わあっ、この二枚……大切にしたいと思います」
 「そう言ってもらえると嬉しいです。長髪の女の子はこの子が描いたんですよ」
 「そうなんですか、とても可愛いですね!」
 「あっ、いや……どうもありがとうございます」
 褒められたのかナギは頬を少し赤くし、少しうつむいている。男性は喜んだまま、その場を立ち去った。
 「ありがとうございました」
 普通にこっちの方が良いのかな。売れたのはこれで二十一冊目。ペーパーが効いているのかまあ、この調子なら午後四時までに完売はできそうだ。
 今や、ヒロインやせいぜい人間の男性を表紙に登場させるのに、ルカの描いた同人誌の表紙は前作同様イルカである。そのイルカが可愛いので、興味を持った女性が見本誌を手にとって買ってくれるパターン。
 また、イルカの表紙には購買意欲があまりそそられないが、同人誌を買うと美少女が描かれているペーパーが二枚もらえる。それでも、とりあえず見本誌を見て内容を見ないと判断しないのだが、この中に出てくるヒロインが好みで買おうと決める男性……というパターンも多い。
 いずれにしろ、同人誌の内容は良かったようだ。面白いと言ってくれる人もいて、こう言ってくれる人が一人でも多くなるといい。
 「けっこう売れてきたな」
 「ああ、私も大学の友達と出たことがあるけど……こんなに調子が良いときは無かったよ」
 「そういえば、ハルミは出たことがあったんだよな」
 「ああ、でもその時は……ギリギリで五十冊全て売り切ってさ。午後に入ってからは何だか必死だったな」
 「私も千桜と出たことがあるんだけどさ、あんまり売れなくて焦りもしなかったぞ」
 「……まあ、最初の頃なんてそんなもんだよな」
 「そう考えると今回は凄いんだな。まあ、ルカの同人誌のおかげなんだが」
 「でも、ルカは描いたところまでだ。売り切るのは私とナギの問題だ。油断しちゃいけないぞ」
 「分かった」
 「そういえば、もう正午だな。どうする? 一時くらいまで昼ご飯とかにするか? 少し片付けて『一時までは昼食に出かけます』って置き手紙をして」
 「たしかに、今日朝起きるの早かったからな……」
 「ここから見ると、外の方もけっこう人がいるみたいだな」
 「マリアが弁当を作ってくれるって言ってたから……やっぱり作ってもらった方が良かったかな?」
 「……まあ、しょうがないな」
 マリアさんは気を利かせてくれて、私たちの弁当を作ってくださると言ってくれていた。しかし、荷物になってしまうのではないかと思い丁重に断った。今思うと、ありがたくご厚意に甘えた方が良かったと思った。
 「とりあえず、同人誌をスーツケースの中に入れよう。見本誌だけ置いておいて、それで外に売ってるものを食べに行こうか」
 「そうだな」
 私は同人誌をスーツケースの中に入れ、その間にナギに白紙に『午後1時まで昼食休憩させてもらいます』と書かせ机の上に置いた。
 だが、その時だった。


 「お嬢さま、ハルミさん……調子はいかがですか?」


 顔を上げた瞬間そこにいたのは……綾崎くんと三年前の私、千桜だった。
 綾崎くんは暑い中歩くからなのか、はたまたデートだからなのか私服だった。ジーンズに、上は白いV字Tシャツとカジュアルなワイシャツの重ね着ルック。襟付きの服はよく似合うな、普段から着ているせいなのか。
 「まったく間の悪い奴だなおまえらは」
 「すみません、西ホールに行ってきて千桜さんのお目当ての物をまず買っていたら……このような時間になってしまいまして」
 「私へのお土産は?」
 「ええ、それなのですが……また西ホールに行こうと思っているんです。一応、いくつかのブースのチラシを貰ってきましたので、この中から欲しい物があれば何なりとおっしゃってください。全て手に入るかは分かりませんが」
 綾崎くんはそう言うと、持ってきたバッグからチラシを取り出した。ナギはそれに釘付けとなっていた。
 「ああ、人気のあるグッズはすぐに売り切れるとハルミから聞いている。それはしょうがない」
 「人気のあるブースはものすごかったですよね」
 「ああ、外まで並ばれるとさすがに並びに行く気もなくなる」
 千桜は綾崎くんの手を掴んでいる。見た限りだと、関係は良好に見えるが……というか、千桜が私をジロジロと見ている。
 「あ、あの……」
 「はい?」
 「今日は本当にすみません! 私たちのために、その……ナギに付き合ってもらっていて」
 「いえいえ、私も好きでやっていますし……夏コミのサークル参加は大学の友人と経験済みなので、気にしないでください」
 「同人誌の売れ行きはどうですか?」
 「ええ、二十一冊売れているので……終わりまでにたぶん全て売り切れると思いますよ」
 「そうですか……あなた、ええとハルミさんでしたっけ」
 「は、はい」
 「ご存じだと思いますが、この同人誌……水蓮寺ルカが描いたんですよ。五月に即売会に彼女の同人誌を売ったのですが、その時にとある人に色々と言われて……あいつ、凄く頑張って描いたんです。だから、その……お願いします」
 恋する乙女は少し健気になるとは言うが……なってるな。自分で言うのはなんだけど。おっ、手を握ってきた。自分の手を自分の握られるのは何だか変な感覚だ。
 余談だが、とある漫画に描いてあった同一時間に二人の同一人物がいるという件は大丈夫そうだ。出会うと消えると言うことは、やはり現実では起こらないらしいな。
 「ええ、ナギと頑張って売り切りますよ」
 「良かった……」
 「千桜さん、僕らも一冊買いましょうよ」
 「そうだな」
 「いえ、そんな……買うなんて! 何だか悪い気がします……。」
 「いいんですよ、まあ……一冊買って二人で読みます」
 さりげなく仲が良いのをアピールしてきたな。三歳も年が離れていると、綾崎くんも何だか可愛い存在に思える。まあ、彼は元々童顔だから他人に言っても納得してくれそうだけど。
 「買わせてください。これは、ルカにナギにそしてハルミさんの三人が頑張っていることなんですから」
 「……そうですか、では三百円となります」
 綾崎くんが率先して財布から三百円を出した。私はスーツケースから同人誌と二枚のフリーペーパーを取り出して、千桜に渡した。
 「おっ、なかなか上手いじゃないか。ナギ」
 「……お、おう」
 「どっちがナギの描いた絵なんだ?」
 「その……ヒナギクに似てるヤツだよ」
 「じゃあ、こっちのナギに似ている絵がハルミさんの描いた物なんですか」
 しかし、それを嘲笑うことなく本当に喜んでいるようだった。ナギが「どっちが上手い?」と訊いているが、綾崎くんは「甲乙付けがたいですね~」と笑いながら言っていた。まあ、私はどちらでも構わないが。
 朝に買ったペットボトルの水を一口飲む。私たち島のサークルの中の一部は、昼食か同人誌を買いに言っているのか休憩時間をとっているところがある。
 「へえ、ルカも考えたな」
 「……美少女を入れつつの感動作ですね」
 顔を寄せ合って今回売っている同人誌を二人は見ている。……ここまで綾崎くんと親しくなっていたか? 記憶にない。
 「私とナギ、これから昼食をとろうと思っているんです」
 「そうですか、なら良かった。お二人が遠慮したということを聞いて……。でも、マリアさんと話して作ろうという話になったんです。それで、僕たちが行って渡せばいいと思い……持ってきました」
 そう言うと綾崎くんはバッグの中から、少し大きめな弁当袋を出してきた。少し冷えているのは、傷まないようにと保冷剤を入れてあるからだろう。
 「そうですか、ええと……ありがとうございます!」
 「おにぎりとサンドイッチ……あと、ウィンナーや玉子焼きなどシンプルな内容にしました」
 「マリアさんにもお礼を伝えておいてください」
 「はいっ」
 横ではナギが未だにチラシと睨めっこをしていた。ペンを持って、いくつかの商品に丸をつけている。
 まあ、どんな物に丸を付けているのかは想像できるけどな。一通り丸を付け終わったら、ナギはチラシを綾崎くんに渡した。
 「この丸の付いているヤツを買ってきてくれ」
 「分かりました」
 「まあ、売り切れてしまっているヤツもあるだろうから……一つでも良いから買ってきてほしい」
 「ナギ、これは多すぎじゃないか?」
 と、私は横から言ってみるがナギは、
 「まあ、帰ってからお金は払うつもりだから。あと、ハヤテ。ちゃんと昼食や帰りの電車賃なども考えておくんだぞ」
 「はい、分かりました」
 「あと……千桜のこともちゃんと考えろよな」
 「もちろんです……と言っても、コミケのことは千桜さんの方が詳しいので」
 「むぅ、じゃあ千桜。ハヤテのことを頼んだぞ」
 「分かったよ。ちなみに、私の欲しいグッズは手に入れたから……午後は二人で協力してナギの欲しいグッズを買ってくるよ」
 「……頼んだ」
 だが、その時は綾崎くんと千桜の目を見ていない。まったく、こいつは素直になって頼むことができないんだな。
 「じゃあ、そろそろ行くから。午後も頑張れよ」
 「ああ」
 「ハルミさん、ナギのこと……宜しくお願いします。あと、残りを全部売れるように頑張ってください」
 「はい、そうするつもりです」
 と、これで去るかと思いきや。綾崎くんが隣のスペースを見た。……そう、薫先生のいるサークルを。
 「薫先生ですか?」
 「……えっ?」
 フヌけた声で綾崎くんの方を見る薫先生は、それまでの爽やかな表情から一変した。気難しい表情となり、うろたえている。
 たぶん、あの時もそうだったように……サークル活動は白皇学院の教師や生徒には内緒にしているのだろう。
 「薫先生じゃないですか、どうしたんですか? こんなところで」
 「あ、うっ……」
 薫先生は言葉が出ない。もちろん、千桜は薫先生がやっていることは知っているので少し引きつった表情になっている。
 「……」
 ナギはその状況が分からずきょとんと立っている。沈黙が続くが、千桜が口を開いた。
 「売り子さんをしているんですよね? 薫先生は」
 「……そ、そうだよ! 俺は売り子をしているのさ、綾崎!」
 「あっ、そうなんですか。てっきり薫先生が作ったのかと思いました。ほら、この桂先生に似たフィギュアなんて……」
 「ぐはっ!!」
 綾崎くん……やはりさりげない言葉の攻撃はすさまじかった。薫先生は悶絶してしまう。といっても、今の千桜のフォローは巧かったな。
 「きっとたまたま似ちゃったんだよ」
 「そうですか。てっきり僕は……桂先生のことが好きで、でも気持ちを伝えることもなく……でも、欲を満たしたくて水着姿のフィギュアを作ってしまったのかと思いましたよ」
 「うっ、うっ……それ以上は言わないでくれ、綾崎……。」
 この域まで達すると綾崎くんも恐い人間に思えるな。しかし、これで納得したようでそれ以上は深く突っ込むことはなかった。
 「それではお嬢さま、ハルミさん。午後も頑張ってください」
 「ああ、頑張るよ。ハヤテ」
 「ええ、頑張ります」
 そう言うと綾崎くんと千桜は手を繋いで行ってしまった。隣に突っ伏している薫先生がいるけど、まあ……ほっておこう。
 「だけど良かったな、これで昼飯に行かなくて済むな」
 「そうだな、さっそくハヤテとマリアが作ってくれた弁当を食べよう」
 「ああ」
 袋を開けると保冷剤がある。触ると冷たくて、気温が上がっているこの状況にはありがたい代物だった。その下にタッパーがあり、その中にウィンナーや玉子焼きなどのおかずが入っている。
 そして、もう一つタッパーがありこの中にサンドウィッチとおにぎりが入っていた。私とナギそれぞれ一つずつ入っていた。
 「何だか遠足に行った気分だな」
 「私は遠足なんて行ったこともないからな……実は、こんな昼食は数えるくらいにしか食べたことがないんだよ」
 「そう、なんだ……」
 「でも、こういうものも良いと思うけどな。普段と違って」
 「そうだよな」
 保冷剤のせいか食べ物全てが冷たかったが……それはご愛敬ということで。それでも、十分に美味しいのが分かる。『冷めて』超えて『冷たくて』も美味しい料理を作れるのだから、やはりマリアさんと綾崎くんの腕は相当良いだろう。
 横に座って食べているナギは終始笑顔だ。ナギの場合、料理はともかく作ってくれた事に対して嬉しさを感じているのかもしれない。
 「何かあってもさ、使用人がいて……一人で食べていたことが多かったんだ」
 「三千院家は何もかもが凄そうだからな」
 「学校に行っても、ハヤテが来るまでは昼休みも使用人が来て……一人でその使用人が作った昼食を食べていたんだ」
 「友達と食べることはなかったのか?」
 「伊澄っていう友達がいるんだけどさ、やっぱり……一緒に食べて良いのは、財閥の子息だけ。普通の生徒と食べることはできなかったんだ」
 「綾崎くんが来てからは……変わったのか?」
 「その頃はもう大分自由にしてくれてさ。ハヤテのおかげか……女子の友達と関わることも多くなって昼休みは一緒に過ごすことも増えた」
 「そう、か……」
 「でも、それは白皇学院に来てからだ。高校になってからじゃ……遠足なんて滅多にないだろ?」
 「そうだな」
 まあ、白皇学院の場合は他の高校では絶対に体験できない行事がたくさんあるけどな。
 「高尾山に登ったときくらいだよ。こんな感じのものを食べたのは」
 「ああ……ハイキングか」
 「その時はしんどかったけど一生懸命登ってさ。確かに、その後の弁当はすごく美味かった。まあ、これは誰にも言ってないけどな」
 「素直に言えば良いのに」
 「……今食ってるのは、その時とよく似てるんだ。すごく美味しい、本当に屋敷で食べてるものからすると庶民的だけど」
 「人間、何かを一生懸命やった後の飯っていうのは美味く感じるもんだ。ナギはそれを今、体験しているんだよ」
 腹が空いてりゃ戦はできぬ……という諺もあるが。お腹が空いてれば何もできない。しかし、何かを成し遂げた後に食べた物というのはとても美味しく感じる物だ。そうして、人間は食べては働き、また腹が空けばまた食ってそしてまた働く。巧くサイクルをしているというわけだ。
 「でも、今回の飯は特別だろ?」
 「……ああ、特別だ」
 「私も特別だよ、ナギ。ナギと食ってるこの飯は……凄く美味しい」
 「ハルミ」
 「なんだ?」
 「午後も頑張ろうな」
 「ああ、そのつもりさ。ナギと二人でな」
 その後は漫画の話で盛り上がった。昼食は全て食べ、食休みもとって体力はすっかりと元に戻った。そして、午後の準備をした。


 午後二時になった。午後になって販売再開すると、口コミなのか分からないが一時間で十五冊も売れた。これで売れた同人誌の合計で三十七冊になった。
 「回転が良いな」
 「あと二時間で十三冊か……この調子なら何とか終わりまでに売り切れそうだな」
 「やはりペーパーのおかげかな」
 「まあ、ペーパーが二枚もらえるというのは魅力的なんだろうな。実は描くときに買う方に立ってどんな絵なら喜んでもらえるかなって考えてたんだ」
 「それであの時、『夏らしく』って言ったのか」
 「まあ、そうだな。夏というと自然と水着姿とか……肌露出が少ない物だと、やはり浴衣姿には弱いんじゃないかなって」
 「そうか……そんなことまで考えていたのか!」
 「といっても、自分だったら欲しいかな……っていうイラストを描いただけだよ」
 「?」
 ナギは首をかしげている。
 「同人誌もペーパーでも、あとは普通に売ってる漫画も小説もそうだけど、その作者が最初の読者なんだよ。だから、その作者自体が満足できたり楽しめたりしないときっと、他の人も喜んでもらえないと思うんだよ」
 「まずは自分が満足する……」
 「ナギはペーパーの絵を頑張って描いた。そして、それに満足している。それが自然と買ってくれる人にも伝わってると私は思う」
 「ハルミ……」
 「まあ、あくまでもこれは私の中の理想論だ。これが合っているとも違っているとも言えない」
 まあ、こんな風に考えているから隣の薫先生の同人誌が売れるのは納得できているんだ。なぜなら、尋常でない情熱……いや、愛の力がフィギュアに込められているのだから。
 「ふっふっふっ……」
 「……なんですか?」
 「君たちの熱い話を聞かせてもらいましたよ。うちの同人誌セットは既に八十セット以上売れましたよ」
 「それは良かったですね」
 「これも『愛の力』ですかね? あと、私はこのフィギュアに満足してますよ」
 満足していると言ったときの顔は、何だか卑猥に見えた。愛の力がこんな形になるのは私は正直ごめんだな。
 「はぁ……」
 「この調子で全部売り切ってやるぜ……!」
 やはり、私の知っていた薫先生のテンションとはまるで違うな。このくらいのテンションで授業もやれば……いや、どうなるか分からないな。
 「ハルミ、そろそろ同人誌出した方が良いんじゃないのか?」
 「そうだな」
 「もう全部出しちゃおうよ」
 「……そうするか!」
 私はスーツケースを開く。残りもあと十冊となっていた。それを全て机に出し、スーツケースはほとんど空になった。
 「これを全部売り切れば……五十冊なのか」
 「あと二時間もあるんだ、絶対に売れるさ!」
 「……そうだな」
 スーツケースを閉める。その間にナギ机の上を整理していた。残り十三冊なった同人誌は、少し少なく感じてしまった。そして、少し寂しく感じた。
 その後も売れ続ける……。午後三時になって、残りは五冊になった。
 「残り五冊か」
 「正直、私……ルカには悪いけどここまで売れるとは思わなかったぞ」
 「私も全部売れるかどうかは半信半疑だったな。ルカの同人誌は良いけど、表紙がイルカだし……正直不安だった」
 「ルカに良い報告ができそうだな」
 「……それは全部売れたときだけだよ」
 「そうだな、あと一時間頑張ろう!」
 「ああ」
 そうして私たちが最後のラストスパートに向けて意気込んでいる時に、あの人間がやってきた。


 「何でこんなのがあと五冊なんだ? 何かの間違いだろ?」


 男の声。それは、私よりも年が若い……たぶん、ナギと同じか少し年上の少年の声だった。
 ちなみに今の言葉は表紙を一見しての感想だろう。
 「おまえ……また来たのか!」
 「ふっ、今日はサークル参加をしてないんだけどね。このサークルが参加しているって言うから……この時間に来て、全然売れなくて悔しがっている面を期待して見に来たんだよ」
 「期待通りにならなくてすまないな」
 サークル真泉。そのサークルの発行する同人誌を描いている少年だ。ナギは強気な態度で臨んでいる。
 少年は一瞬本当に悔しそうな表情をしたが、見本誌を読み……あの時のように、嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。
 「まったく、美少女を入れたのは良いかもしれないが……主人公が人間じゃないなんてどうかしてるな」
 「どうかしてるって……それはお前の個人的見解ではないか!」
 「どうだか」
 「お前は何にでも受け入れる気持ちはないのか!?」
 「ないね」
 「くううっ……!」
 まったくこの二人は。人は少なくなってきているが、このようなもめ事は営業の邪魔になるんだけどな。
 「失礼ですが、もめ事なら外でやっていただけませんか?」
 「なんだ、お前は」
 「この同人誌の作者ではありませんが、一応……一時的に運営をさせてもらっている桜庭ハルミです」
 「同人誌の作者ではない……?」
 「ええ、一応……何か不満な点がありましたら私に申してください。お気づきだと思いますが、この子に話されると何かとやっかいになりますので」
 「何、怒ってるの?」
 「当たり前じゃないですか。ただしそれは、この場でそのようなことを言われるということです」
 やはり二十歳にもなると、中高生の鋭い言葉にも動じなくなるな。
 「どうして、この同人誌が売れていることがおかしいのですか?」
 「……流行りを抑えていないからだよ」
 「その流行りって何ですか?」
 「そ、それは……」
 「あと、流行りというのはいつかは過ぎ去ってしまうもの。そればかり追いかけていると、いざという時……何も見えなくなりますよ」
 「おまえ……何を偉そうに言ってるんだっ!」
 「あなたこそ何を偉そうに言っているんですか。『この同人誌が売れるなんておかしい』。これ以上に相手を不快にさせる言葉なんてないでしょう!」
 「ぐっ……!」
 ああ、気持ちいいな。少年の額からは汗がだらだらと流れている。当たり前か、この少年……こんなに暑いのに長袖なんて着ているからな。
 「この同人誌には情熱を感じます。過去に売った同人誌はきっと……その情熱がただ相手に伝わりにくかった。それだけですよ」
 「でも、あの同人誌にも……この同人誌にも! 画力は大したこともないし、内容も魅力的じゃない!」
 「じゃあ、君には情熱が伝わらなかったということですね」
 「情熱情熱って……感情論で全てが通るわけじゃないんだよ、同人誌っていうのは。そんなのも分からないのか?」
 こいつ、私が感情という言葉を連呼しているから……冷静さを欠いていると思っているんじゃないか? 私を見て笑ってるよ。でも、滑稽だな。
 「ああ、分かってるよ。君みたいな人がいるからね」
 「……」
 「だけど、情熱をかけて作ったものなら……何時かは人に伝わる。そんな理想を持ったって良いんじゃないか?」
 「ハルミ……」
 「それは今、隣に立っている子から教えて貰ったことだ。君が初めて同人誌を描いたときは流行を追究したのか? 画力を追究したのか? 違うだろ、好きだからこそ下手でも頑張って描いたんじゃないのか?」
 「……」
 「もしそうだとしたら、君はナギの気持ちも……この同人誌の作者の気持ちだって分かるはずだ」
 「……けっ!」
 少年は悶絶する。少し言い過ぎただろうか。しかし、こう言えるのも私と同じ気持ちを持つナギという存在が隣にあるからだ。
 「きついことを言ってしまって申し訳なかったな。ただ……これだけは覚えて欲しい。何かを作る原動力はそれに対しての情熱なんだってことを」
 「……」
 「さあ、営業の妨げになってしまうから……買わないなら立ち去って欲しいな」
 「……一冊」
 「ん?」
 「一冊買ってやるよ。ただし、今回だけなんだからな!」
 「三百円な」
 まさか買ってもらえるとは思わなかったな。まあ、少年にとっては複雑な想いではあるが……それは関係ない。こちらにとっては結果オーライということで。
 少年は悔しそうな表情をしつつも、同人誌を読みながらその場を立ち去っていった。
 「やれやれ」
 「ハルミ、その……すまなかった。あいつ、色々と絡んでくるヤツで……今日みたいに言ってくるんだよ」
 「別にいいよ。私たちには私なりの理想がある。こんなものを作りたいって言う気持ちがある。彼に少しでも分かってもらえる日が来ればそれでいいさ」
 「……少し、かっこよく見えたよ」
 「そう見られるなんて光栄だな。ただ、私は思ったことをそのまま言っただけさ」
 「……うん」
 「さあ、気分変えて残り四冊……全部売ろう!」
 「そうだな!」
 彼のことを散々に言ってしまったかもしれないが、実は彼に感謝している。彼に言われたことでルカに何らかの影響を及ぼし、もうすぐで売り切れそうな同人誌を作ることができた。
 彼が言ってくれたように、今度は私たちが彼に……。今思うと、気づかない間に心のどこかでそう思っていたのかもしれない。


 午後三時三十分。全ての同人誌を売り切ることができた。
 これで私たちの目標が達成できたわけだ。


 そして午後四時、私たちのコミケは幕を閉じた。


vol.7に続く。
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