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こんばんは、セカコンです。
三日間連続で私の住む地域は停電が行われませんでした!

しかし、明日は午後6時過ぎからなので、
一番電気の需要が多い時間帯です。ついに停電はくるでしょうか?

まあ、停電が予定通り行われたら、
明日の更新は午後10時以降になると思います。ご了承ください。

放射能が東京でも平均値よりも多く検出されているようで。
まあ、人体にすぐに影響は無いらしいのでまだ良いですが・・・。

一刻も早く問題を解決して欲しいですね。
飛来する放射線の量が多くなるだけですから。


今日はvol.5ですね。あの人と三年ぶりの「再会」。


それでは、vol.5をどうぞ。

~SELL 4 再会~


 ――三年ぶりにあなたと会った。



 八月十日



 即売会まであと三日になった。
 今日も天気は快晴で気温も三十五度を記録し、猛暑日は今期で十日目なのだとか。私とナギは率先して涼しい部屋でのインドア活動に励んでいた。
 「ナギ、お前の方はどうだ?」
 「……はぁ」
 「どうした? 上手く描けてないのか?」
 「いや、そうじゃない」
 二人の人間が絵を描くには少し小さい円卓で、今日も即売会で販売する同人誌のおまけペーパーを作っていた。
 「いつも絵が上手くいかないとか言って、何十枚も丸めて捨ててきたじゃないか」
 「むっ、さりげなくひどいことを言われた気がするんだが」
 「それで? どうしたんだよ」
 「何だか私の知っているヤツの姿になってしまった」
 ちらりと横目でナギの描くイラストを見る。水着姿の女の子が描かれている。ちなみにその女の子は長髪で顔は可愛いというよりは綺麗。スタイルも綺麗。ちなみに、胸は少し控えめのようだ。
 「なかなか可愛く描けているじゃないか」
 「確かにな。でも、可愛いと認めると何だか悔しくなるんだ」
 「どうして?」
 少しうつむく顔の頬は赤い。
 「だって、この顔……ヒナギクにそっくりだから」
 「……そうなんだ。その人に似てるのか」
 思わず感嘆の声を上げてしまいそうだったが、ここはバレないようにとっさに頭を働かせた。確かにヒナギクによく似ている。
 さっきの言葉からすると、ナギはヒナギクよりも自分の方が可愛いと思っているんだろうな。それを認めたくないなんて可愛いじゃないか、まったく。
 「でもナギの顔を見ていると、可愛いって認めてるようだぞ?」
 「なっ……! そんなはずがないわけがないではないか!」
 「それ、認めていることになってるぞ」
 「あぅっ!」
 素直になれば良いものを。ツンデレだな、ナギは。出会った時からずっと思っていたことだけど。しかも、自分の思っていることを指摘されると噛むのか。まったく……かわいいは正義だな!
 「認めてなんかない、認めてなんか……。 そうだっ! この絵のキャラがかわいいのだっ! ヒナギクと私だったら私の方がかわいいのだっ!」
 「はいはい。まあ、私はその人のことよく知らないから別に意地を張らなくてもいいよ」
 「……すまなかったな」
 「でも分かったことは、そのヒナギクっていう人もかわいいって事だな」
 「まあ、その点については認めてやっても……いいけどな?」
 「知らないから疑問系をじゃなくていいよ」
 やはり認めているんだろうな。きっとナギは、どんな絵にするか行き詰まったときに身近にいるかわいい人を想像して描いたんだろう。その人がヒナギクだったというだけで。
 「ナギはもうそれで完成か?」
 「……そうだな。線画で良いと思う。五月の同人誌即売会でペーパーを見たら、意外と線画が多かったから」
 「そうか。大分かわいいペーパーになりそうだな」
 「練習した甲斐があったぞ!」
 努力をして何かを達成したという、喜びの笑顔と充実したしっかりと表情が伺える。思い出したよ、一回ナギは夢を諦めかけたことを。天才でなくてただの一人の人間だということに気づいてしまったことを。
 それを機に努力をし、今こうして笑顔でいるなら……三ヶ月前よりも大分成長したんじゃないのだろうか。
 「私、こうやって努力してできたことって……初めてだと思うんだ」
 「何でもできるお嬢さまだと私は耳にしたことがあるけどな」
 「確かに、小さい頃から英才教育を受けていた。そこで良い成績を取れていた。でも、今思うとそれは私が『お嬢さま』だからできたことなのかもしれない……って思ってしまうんだよ」
 「お嬢さまだから……?」
 「英才教育を受けるにしてもその分野のプロを雇うわけだろ? だったら相当お金がかかるじゃないか。普通の人間にはできないことだろう?」
 「確かに、英才教育っていうのはお金持ちの子供が受けるイメージが強いからな」
 「だろ?」
 「でもさ、その教育を受けても何もかも流す人もいるだろ。そこはやっぱり自分で努力しないとダメなんじゃないか?」
 「そうなのかな」
 「ナギは努力さえすれば何でもできるんだよ」
 「……本当にそう思っていてくれるのか?」
 「ああ」
 と言ってしまったものの、本当にその英才教育で受けた物が身についているのかは知らない。だけどこの六日間でナギは、努力をして確実に実力を付けていく人間であることは隣にいて感じ取っていた。
 だから、今まで受けてきた特別な教育は今のナギにちゃんと備わっていると思うんだ。それを信じることができる。
 「ハルミ、お前……良いヤツだな」
 「別に、ナギのことを見たままのことを言っただけだよ」
 「何だかお前と話してると、千桜っていうヤツと話しているように思えるな」
 「……」
 当たり前じゃないか。私はその“千桜”ってヤツなんだから。
 「でも、その英才教育は“義務教育”のように感じてやってたんだよ。だけど、これは違う。私のやりたいものを必死に努力してやったものなんだ。意味が違う」
 「そうか、ナギはもうただのお嬢さまじゃないんだな」
 「ハルミ、私は“お嬢さま”じゃない。一般の人間だ、きっと……生まれたときからずっとな」
 「三千院家のお嬢さまは、噂よりも大分しっかりとしているんだな」
 ここに住む前、ナギはただのわがままな一人のお嬢さまだと思った。ここに住み始めて、五月の即売会に出たときはただの少女だと思った。
 私にとっては三年。この時間軸では三ヶ月……その間にナギは大分変わったんだ。だからこんなことを安定した口調で言えるんだ。


 「ハルミのイラストはどんな感じなんだ?」


 私の描いたイラストの方にナギは首を突っ込んでくる。ナギはそのイラストを見た途端、頬を赤くする。この時、私も頬を赤くする。
 「どうだ? え、ええと……良く描けてるだろ?」
 「う、うん……」
 「そうか、だったら良かった」
 「それよりも、その……はうっ」
 人のことは言えないわけで。私もどんなキャラを描こうか行き詰まっていた。そうすると、身近な女の子を題材にしたくなるわけだ。私の場合、ナギが題材にした人物よりもより身近な女の子にしてしまったわけで。
 そう、その題材は私のイラストを見て頬を朱色に染めるナギだ。止めようかと思いつつも描き進めてしまった。もう完成寸前だし、時間も時間だし……。刷るまで内緒にしようかと思った矢先だった。
 「これってもしかして、わ、わ、わ……。私か?」
 「……た、たまたま似ちゃったんだよ」
 「どこが“たまたま似ちゃった”だよ! この絶世美少女は私以外にあり得ないではないか!」
 「随分と自分の容姿に自信があるんだな!」
 「ああ、自信があるとも! 特にこの長く綺麗な金髪はなっ!」
 「……」
 「なんだ! 文句でもあるのか!」
 「それはその……謙遜してるのか? それとも本気でそう思ってるのか?」
 そもそも、ナギには『謙遜』という二文字はない気がするんだが。
 「謙遜なんて言葉には私にはない!」
 「胸を張って言うなっ!」
 「髪の件もあるが、それよりもここまで金髪の似合う少女は私以外にあり得ないだろう! はっ!」
 「さっきの朱色の頬はどうした!」
 やっぱりナギに『謙遜』の二文字はなかった。ていうか、さっきまでのしおらしく思えたナギはどこへ行ったんだ。
 「この私をモデルにするなんて良いセンスをしているじゃないか」
 「まあ、恥ずかしくて破かれるよりはよっぽどマシか」
 「ハルミももうすぐで完成なんだよな?」
 「まあな……」
 結果オーライということで。何とかこのナギに似た少女の浴衣姿で決まり。半ばナギによる採用のような感じでもあった。夏らしくて良いだろう。
 私の絵のおかげかナギの機嫌は良くなる一方。この機嫌の良いまま午後のイラスト活動は終了した。
 イラストを描いていると気づかない間に時間はかなり経っていた。日も傾き始めて、部屋の中に入る光もあかね色になりかけている。
 「今日もあっという間に夕方だな」
 「ああ、でも……集中して物事をやってるとそれでも時間は惜しくならないな」
 「そうだな、私も同じだよ」
 「お腹空いた……」
 「意外とお腹に溜まったかと思ったんだけどな」
 ナギと一緒に午前からイラストを描いているからか、マリアさんが気を利かせてくれて毎日、私の分まで昼食を作ってもらっている。ちなみに、今日はどういうわけかカツサンドだった。マリアさんってこういう料理も作るんだな。
 「それだけ頑張ったってことじゃないか?」
 「そうかな」
 「高カロリーなカツサンドの分も頑張ったと思えば、な」
 ナギは脂っこいものはダメかと思いきや、十三歳女子が食べそうな量はきっちりと食べていた。無論、私はそれよりも多く食べたわけだが。
 カツサンドのカロリー分頑張るというのは相当だろう。ナギもそれほどのエネルギーを使い果たしたのだから凄いことだ。
 「アイス○ックスでも食べるか、まあ……二人で一つだけど」
 「おっ、冷たい物でも食べたいって思ってたところだ」
 ここ最近は、冷凍庫の中がアイスで侵食されつつある。その理由も今のやりとりで分かるように、ここ数日間は私の部屋にナギが来て一日ずっと過ごしているので休憩時間にはここにあるアイスを食べている。
 「グレープフルーツ味とオレンジ味があるんだけどどっちがいい?」
 「うん……さっぱりしてる方がいい」
 「どっちもさっぱりしているけどな」
 「じゃあ、ベーシックにグレープフルーツ味が良いな」
 「OK。分かった」
 グレープフルーツ味を取り出して、ナギの待つ円卓に持っていく。紙のフタを開けると湯気のように冷気が出てくる。
 「やっぱり美味しいな!」
 「たまらない美味しさだよな」
 こういう所が十三歳の女の子に見える。その後は私よりもアイスボッ○スを頬張っていた。残り少なくなってきたときのことだった。
 『コンコン!』
 部屋の扉からノック音がする。外から人らしき声は聞こえない。
 「ん? 誰だろう?」
 「ちょっと出てくる」
 そして再びノック音。やれやれ誰なんだか。急ぎの用事でもある人なのだろうか。扉を開けた瞬間、聞き覚えのある声が耳に入る。
 「おーい! ナギはここにいるんやろ~!」
 「……!」
 こ、この声は……。私はその瞬間、全身に震えが走った。勢いよく開けようとした手は力を失い、恐る恐る開ける形で扉を開く。


 「ええと、ここに三千院ナギがいると聞いたんやけど……ここにいます?」


 扉の前に立っていたのは、三年ぶりの咲夜さんだった。
 かつて、私はこの人のメイドをしていたけど……この年の夏にとある出来事がきっかけでメイドを辞めることにした。それ以降は、通夜の日……生仏の咲夜さんまでは顔を見ることはなかった。
 「どうしたんですか? ウチの顔に何かついてます?」
 「あっ、いえ……何もおかしくないですよ」
 やはり、死に顔を見てからだと……違和感がすごい。というより、怖い。この時代に来てから咲夜さんに会うかどうか最初は不安だった。でも、それはナギとイラスト活動をしていくうちにすっかりと忘れていた。
 「それよりも、三千院ナギはいます?」
 「いますよ」
 「そうですか。それよりもあなたは? このアパートの新入りか?」
 「はい、桜庭ハルミといいます。大学生です」
 「そうですか、ハルさんか」
 「あうっ!」
 「ど、どうかしました!?」
 「い、いえ……昔色々とあって、その呼び名で呼ばれると、全身に湿疹が出てしまうんですよ。あ、あははは……」
 「それはすんませんでした……」
 正直、ハルさんと言われるのは嫌だ。時々、背中が震えてくる。
 私の記憶に残っている咲夜さんの顔はこの時代の咲夜さん。通夜で見た咲夜さんは少し大人びていて、少し信じられない思いがあの時はあった。
 「普通にハルミで良いですよ。あとは敬語でなくても……。既に、ナギのおかげで年下の方にため口でも大丈夫なので」
 「じゃあ、そうさせてもらうわ」
 早いな。
 「いや、ハルさんっていう呼び名は他の人にあるんや。その人もこのアパートに住んでるんやけどな」
 「そうなんですか」
 「でもあんた……名前も見た目もその人にそっくりやな」
 「……っ!!」
 「一瞬、その人が大人になった感じに見えたわ!」
 なんという洞察力! さすがは咲夜さんというところ。なんだかんだ接している間に色々と見られていたのかなと思う。
 「そうですか、偶然って恐ろしいですね」
 「冗談や冗談。実際にいたら怖いやろ?」
 キラキラとした笑顔を見せてくれる咲夜さんだけど、こっちは一瞬本当にばれそうで怖かったんだからな。まあ、実際は未来から人間が来ることはないと思うのが普通だが。
 「おっ、咲夜か」
 後ろにはア○スボックスのカップを持ったナギが立っていた。もう食べ終わってしまったそうだ、カップをひっくり返して溶けたグレープフルーツのアイスを飲んでいる。
 「元気そうやな、ナギ。何か最近イラストを描き始めたって聞いたんやけど」
 「ま、まあな」
 「どうや? 上手くいってるんか?」
 「はっ! 今までの私とは違うのだぞ。かわいいイラストが描けたのだ、ハルミのお墨付きなんだぞ!」
 お、お墨付きって……。まあ、かわいいと言ってくれたことがナギにとってはよほど嬉しかったんだろうな。
 「ほぉ……是非見せて欲しいところやなぁ」
 「ああ、良いぞ!」
 自信満々に仁王立ちをするナギ。私は咲夜さんに「とりあえず上がってください」と言い、咲夜さんを部屋に入らせた。まあ、クーラーを点けてるからな。この冷気を無駄にしたくはないんだ。
 部屋に入った咲夜さんは快適そうに畳の上に寝転がった。何だかこのような光景は今までに見たことがなかった気がする。咲夜さんの家は寝転がるにはまったく合わない床だったからなぁ……。
 「快適やわ。この位の広さの空間も何だか落ち着くな」
 「そうか? 私は三ヶ月以上住んでいるけど未だに狭い感じだぞ」
 「大家さんがそれを言ってどうするんや」
 いいツッコミですねぇ。
 「むっ……まあ、そうだな。私はここのアパートの長なんだからな。この空間も時機に受け入れなければならないな」
 その時は当分来ない気がする。というか、受け入れなければ大家さんとは言い難いのではないか?
 「ナギ、例の可愛く描けたイラスト……見せてくれへん?」
 「ああ、いいぞ。見て驚くがいい!」
 ナギがイラストを出す間に、私は咲夜さんに冷たい麦茶を出す。咲夜さんは麦茶を一口飲み、ナギのイラストを待つ。
 ナギは自信満々にイラストを咲夜さんに見せた。
 「おおおっ! めっちゃ上達したやんか!」
 「どうだっ! 分かったか!」
 「もう、今までの漫画はめっちゃ分かりにくかったり、イラストも微妙やったけど……よく成長したなぁ」
 「ぐっ!」
 もちろん、咲夜さんは褒めているつもりなのだろうけど……さりげない言葉にナギは精神的にダメージを受けている。不意に胸の部分に両手を当ててるし。
 「ハルミさんのお墨付きと言ってただけはあるわな。これなら、他の人のウケも良いんちゃうか? ……って、ナギ? どうしたん?」
 「いや、褒めてくれるのは嬉しいが……少し私にとって痛い言葉が入っててな」
 「そうか、それはすまんかったな」
 「でもこれで分かっただろ。前の私とは違うことが」
 「そうやな」
 「そうと分かったら私の前でひざまずけっ!」
 「するかボケッ!!」
 そう言うといきなり咲夜さんは、どこに入っていたのか分からないハリセンで思い切りナギの頭を叩いた。
 「痛いなっ! 何するんだよっ!」
 「私に向かって何て口の利き方やっ!」
 「冗談に決まってるだろ!」
 「いきなりそんなこと言われて冗談に思えるかっ!」
 まあ、咲夜さんが正論でしょう。というか、今のナギの言葉は冗談でも酷いだろ。
 「わ、悪かったよ。これからは言わないようにする」
 「それでええんや」
 「ナギ……大丈夫か?」
 「ああ、大丈夫だよ」
 「まったくナギってやつは。まあ、こんな感じのヤツやけど……これからも宜しく頼むな。ハルミ」
 「はい」
 「三、四日後にイベントに参加するんやろ?」
 「ええ」
 「まあ、ナギとはぐれないように注意してやってな」
 「大丈夫ですよ。今回はサークル参加で、一つの場所にいる事が多いですから」
 「そうか、ならええんやけど……」
 たしかに大きなイベントに参加すると、ナギは気づかずにいなくなってしまいそうな感じである。大丈夫と言ってしまったけど、サークル参加であっても気をつけなければ。
 それにしても優しいんだな。まるでナギのお姉さんみたいだ。実際に咲夜さんには弟さんや妹さんがいるから、ナギも妹の中の一人のように思ってるところがあるんだろうな。
 「ハルさんは借金執事に夢中やし……今、ナギを楽しませられるのはアンタだけや。だから、そのイベントでは存分に楽しませてあげてほしい」
 「ええ、分かっています」
 「何だかハルミさんなら安心して頼めるわ。何でやろな? ついさっき出会ったばっかりなのにな」
 「不思議ですよ、ね……」
 私も不思議と……咲夜さんには自分のことを話したくなってしまう。もしかして咲夜さんは私のことを薄々感づいているのではないかと一瞬思った。
 「でも、今……私も一緒に心から楽しめるのはナギだけだと思っているんで。頼まれなくてもそのつもりでしたよ」
 「……そうか。じゃ、私はこの辺で帰るわ。今日はナギがちゃんと描けてるかどうか興味があって来たからな。思った以上に良くて安心したわ」
 「ナギは頑張りましたよ、それはよく知ってます」
 「おっ、咲夜……帰るのか?」
 私たちの話の間、ナギはずっと同人誌を読んでいたらしい。咲夜さんは穏やかに微笑んで玄関まで歩く。
 「そうや。イベント頑張ってな、ナギ」
 「ああ、必ず全部売り切ってみせるさ!」
 「じゃあな」
 靴を履き、扉をゆっくりと開ける。咲夜さんは小さく手を振って外を出ようとする。
 「あっ……」
 という小さな声は咲夜さんの耳にも、ナギの耳にも届くことなく静かに扉は閉まった。
 「いやぁ、咲夜も喜んでたな」
 「そうですね」
 「少し自分のイラストに自信が持ててきた」
 「……今までとは違う自信か?」
 「ああ、何だか……自分の力で付いてきた自信って感じがする」
 「だったら、当日も全部売り切ることができそうだな」
 「頑張ろうな!」
 「ああ」
 ナギはすっかりと三日後の即売会を楽しみにしていた。私もナギと参加できるのをとても楽しみにしている。それは、大学の友人と参加するよりも別の種類の楽しみで、でも今の方がより楽しみに思っている。
 楽しみにするナギを前にして考える。咲夜さんが帰ろうとしたとき、私はあの言葉の後なんて言おうとしたのだろう。


 「行かないで」……もしかしたらこの言葉だったかもしれない。


 そして、イラストの方は無事に完成し、印刷も順調にいき……同人誌の冊数よりも少し多めに刷ってもらった。ナギが記念にとっておきたいそうだ。
 同人誌五十冊、ペーパーは二種類の計百枚。その他、色々と持ち物を準備して……。


 ついに、その日はやってきた。


vol.6-Aに続く。
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