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こんばんは、セカコンです。
どうやら、グループでローテーションをするようですね。

あっ、計画停電の話です。
私の住む地域は明日は朝、停電をするらしいです。

震災の方は原発の方を中心に話題が動いています。
何の異常もなければ、これほど報道が長く続くこともないと思います。

世界が日本の原発のことを注目していますが・・・。
徐々に、国内外から文句などが出始めるでしょう。

・・・一旦、今回の件が何とか収まったらあの原発はどうなるんでしょう?
再び建て直すんですかね? どうにしろ長い時間がかかりそうです。


今日はvol.4ですね。新生活の始まり!


それでは、vol.4をどうぞ。

~SELL 3 絵柄~


 ――何かを目標にする日々が始まった。


 朝、陽の光が私の眼の中に入ってくる。勢いよくまぶたを開けようとすると直射日光が当たるのでむやみに開けることが出来ない。どうやら昨日、カーテンを閉めるのを忘れてしまったようだ。
 「眩しいな……」
 手で眼を覆いながらゆっくりと開く。それでも指の隙間から直射日光が入ってきて、少し目に刺激が走る。
 「それにちょっと暑い……」
 昨日、寝るときにクーラーのタイマーをかけて寝たからその空気もすっかりと温められて、少し寝苦しい気温になっていた。
 健康に悪いかもしれないけどクーラーをかける。設定温度は今は二十六度にセットした。部屋が涼しくなるまで私は顔を洗い、歯を磨き、部屋の外に出てムラサキノヤカタの玄関に向かった。
 包丁で何かを切る音が聞こえる、何だか家庭的でやけに落ち着く。自分以外の人が料理をする音というのはしばらく聞いていなかったからだ。
 「たぶん、マリアさんか綾崎くんだろうな」
 この音の主は。三年前の自分も料理はするが、あそこまで軽快な音を出すことはできないだろう。聞いていて分かる、料理にかなり慣れている人だと。そんなことを思いつつサンダルを履いて外に出る。


 「おはようございます、ハルミさん」


 おはようございます、と門前の掃き掃除をしているマリアさんに言った。ということは料理を作っているのは綾崎くんなのか。
 「今日も暑いですね」
 「そうですね、寝苦しくて起きちゃいました」
 と、笑って私は答える。たぶん、三年前から常々思っていたことだけど、よくそのメイド服を着てこの暑い気候に順応していると思う。まあ、昨日もそのことに疑問を思って生地を調べたら意外と薄かったけど。
 「マリアさんも寝苦しくて?」
 「いえ、私はいつも朝早く起きているので大丈夫ですよ」
 「この暑い気候の時でもですか?」
 「ええ、三千院家のメイドですから」
 少し立派なアパートの入り口前を掃除する人が発した言葉である。それにしても、とことんマリアさんとこのムラサキノヤカタは合わない。見たままに。これこそ「どこかの漫画から抜け出した」感じである。
 「三千院家のメイドをやってもう何年くらいになるんですか?」
 「え? そうですね……」
 しまった、これって失礼だったんじゃないか? マリアさんは私より一つ上の十七歳なんだよな、今の訊き方だと明らかに二十代以上の大人に対する言い方じゃないか。ああ、何て言われるのかが恐ろしい。
 「小さいときからですかね?」
 「小さいときから?」
 「ええ、最初は家庭教師として三千院家に来て。それからメイドをやらせてもらっているのですが、最初の頃は姉妹という感じでしたね」
 「へえ、家庭教師だったんですか。たしかに、ナギと歳も近そうですし勉強を教えることって頼れるお姉さんらしいことですよね」
 「ええ、ナギとは四つ違いなのでそういう感覚も最初はありました。しかし、あの頃から性格は今のような感じで」
 たしかに、あのナギを作り上げるには昔からあんな感じじゃなきゃ見られない気がする。小さい頃のマリアさんは結構怒ったんじゃないかな……。
 「それじゃ、小さい頃のマリアさんはあんなナギだとケンカとかしたんですか?」
 「そんなことはありませんわ」
 と言って、急に鼻歌を歌い出す。とても聞き心地はいいが。ていうか、今、マリアさん勝ち誇ったように見えたけど気のせいかな?
 「どういうことです?」
 「例えばチェスをやったとしましょう」
 「はい」
 なんでチェスなんだよと突っ込んだら負けか。
 「私、チェスはあまり好きでもないのですがなぜか勝っちゃうんですよね……」
 「……」
 ああ、そういうことか。つまり、
 「チェスもそうですけど、大抵の勝負事にはマリアさんが勝ってしまうからということですか?」
 「そうなんですよ。家庭教師を始めるときも『私に勝たないと話し聞いてやらないぞ』と言われましてね」
 「それで、手加減はしたんですか?」
 「するわけがありませんわ。なので、負けず嫌いなナギは何回も私と勝負するのですが、結果はナギの全敗。まあ、それが今の私を作り上げたと言っても良いでしょう」
 「……」
 「どうしました? ハルミさん」
 たしかに、ナギは気の強い性格だけどマリアさんの言うことには従う。同じことを他の人が言ってもあまり聞かない。そのことの一端はこういうことなんだな。そう思うと、マリアさんを敵に回すと相当恐いんだな。
 「いえ、マリアさんは相当達者な方なんだなと」
 「そんなことはありませんわ。このようなアパート暮らしはしたことありませんし、世間はとても広いですよ」
 「でも、よくこのようなアパート暮らしを決意しましたね。屋敷は相当凄かったんでしょう? 三千院家がとても凄いのは知っているので」
 三千院家の屋敷に行ったことがあり、その様子は今でも覚えている。このアパートとは比べものにならないくらいの屋敷だった。
 マリアさんの掃いているほうきを持つ手が止まる。だが、表情は変わらない。くすっ、と小さく笑って口を開く。
 「あの子と一緒にいられるなら、どのような所でもついていこうと思っていますからね」
 「……」
 「それよりも、私なしではナギが心配で。ハヤテくんという心強い執事さんはいますけど、ね」
 「それだけ、ナギの事が大事なんですね」
 「ええ、でもこんなこと、意外と本人の前では言いづらいんですよ」
 「それは……みんな同じですって」
 と、私は苦笑いをする。きっと本人の前では照れて言えないんだろう。マリアさんのそんな部分を垣間見ることができて嬉しかった。普段は「綺麗」な雰囲気のマリアさんが、今ははっきりと「可愛く」見えたから。


 『くぎゅうううっ……』


 と、私のお腹が鳴った。
 「そういえば、食材のことをすっかりと忘れてた……」
 「たぶん、ハヤテくんが多めに作ってくれていると思いますよ。私があなたの文も作っておいて欲しいと頼んでおいたので」
 「何から何まですみません」
 「いいえ、こちらはお客様にご奉仕する身ですから。さあ、中に入って食堂に来てください」
 「はい」
 気づけば、味噌汁の良い匂いがここまで漂っていた。これも何だか懐かしい匂いで暑いのを少し忘れそうになるくらい気分が落ち着く。
 その後、朝食を美味しく頂いて、ナギと一緒に食料の買い出しに行ったのだった。


 徒歩で行ったので買い物は二回行った。一回目は生鮮食品を中心に買って、二回目は調味料や飲み物やお菓子など。ナギがいたので思ったよりも多く買うことができた。
 「ごめんな、暑い中重い荷物を持たせちゃって」
 「本当にそうだな」
 「……やっぱり執事くんやマリアさんの力を借りるべきだったかな?」
 ナギはゆっくりと頷いた。かなり疲れているみたいだ。
 そう、私とナギで近くのスーパーに行こうとしたとき、買ってくる量の多さを分かっていたのか、ナギの事を心配してか、はたまたこの暑さなのか。マリアさんと綾崎くんは一緒に行くと言ってくれた。だけど、それでは悪い気がして断ったのだ。
 しかし、この様子だとナギは軽くこの暑さにやられてしまったようで、逆に二人には迷惑をかけてしまうようだ。
 「ごめんな、とりあえず私の部屋のベッドで休んでくれ。こういうこともあるかもしれないと思って、部屋は涼しくしておいたから」
 「う、うん……」
 玄関を入っても暑さは収まらない。私はナギの持っていた分までのレジ袋を持って、自室まで運ぶ。ナギはよろよろと私の部屋までどうにか歩いてきた。
 「す、涼しい……」
 「二十七度設定だけど、外はあの暑さだからけっこう涼しいだろ?」
 「ああ、まるで天国のようだな」
 「ナギは頑張ってくれたよ、少しベッドに横になって気分が落ち着いたらアイスでも食べよう。買ってきたから」
 「うん、ハー○ンダッツだよな……?」
 「そう言うかもしれないと思ったから、ちゃんとハーゲン○ッツ買ってきたぞ」
 「やったぁ……」
 大げさに疲れているように見えるけど、本当に疲れているのだろう。ベッドの上に横になったナギは、すやすやと寝息を立てているのだから。
 「まったく、頑張ってくれたんだから」
 そんな寝息を背にして、私はせっせと冷蔵庫に食材を入れていく。一人分には多すぎるほどの量だったけど、ナギを招いて食事を作ってあげることもあるかもしれないし、まあ……いいか。
 冷蔵庫はちゃんと稼働しており、けっこう新しい物なのでこの量でも問題なく入れることができた。少し寂しいくらいに感じるほどである。
 そして、さっそく麦茶を作り始める。ナギが寝ているのでテレビは点けずに、昨日ナギが貸してくれた同人誌を何冊か読む。
 「あははっ」
 即売会では最近になるにつれて、成人向けの同人誌を出すサークルが多いけど、こうした一般向けの同人誌もちゃんと面白い同人誌は面白くて、可愛い絵があれば可愛いと思える。
 その中にはルカが描いた『傭兵シャチ』もあった。あれからしばらく読んでいなかったから、やけに懐かしくそして幼く感じる。この頃のルカはまだ近い存在だったのに、三年経つとルカが人気になりすぎているせいか遠く感じてしまう。嬉しい気持ちと寂しい気持ちが交錯する。
 「今も同人誌を描いてるのかな……」
 そう呟いてしまうほど、以前の人たちとの交流を断っていたのだと思い知らされる。じゃあ、この『寂しい』って感覚は何なのだろう?
 あのことが起きてから、高校を卒業するまでが一番辛かった。あの和やかな雰囲気から、時々でも声をかけてくれた友人から逃げたかった。私は生徒会の仕事が終わったら自分の部屋に帰ってずっと勉強をしていた気がする。
 他の人は言う。学校にいるときが一番良いって。でも、あの頃の私はそれが一番辛い時間であって、他の人が一番辛く思う受験勉強をするときが一番良かった印象がある。
 大学に合格し、まるっきりリセットしたスタートを切って。好きなものを話せる友人を作って、サークルで活動して。……もしかしたら、それがこの『寂しい』という感情を作ったのかもしれないな。
 「すぅ……すぅ……」
 「本当に気持ちよく寝てるな、そんなに疲れたのか?」
 ナギの寝顔は天使のようで。笑みを含んだ寝顔は私まで笑みを届けてくれる。
 「ちょっと写生してみようかな」
 思い立ったが吉日とも言うだろう? 可愛い顔を魅せられては写生したくなるのも分かるだろう? そこまで上手くはないがやってみるか。
 コンロの火を消して、アルミニウムのたらいに水を張ってやかんを入れた。
 昨日、ホテルから持ってきたバッグの中にスケッチブックなども入っていた気がする。それを取り出して鉛筆片手にナギの寝顔の見える位置に移動する。
 「起きるなよ……」
 小さく呟いて、白紙のスケッチブックに筆を入れ始める。絵の上手な友人に色々と描き方を教えてもらい練習したので、写生くらいならそれなりにできた。まあ、どちらかといえば漫画の模写の方が得意だったりするけど。
 久しぶりに描いていて本当に楽しい写生となりそうだった。


 三十分後。写生も大体終わったところで、ナギが寝返りを打った。
 「う~ん……」
 「これじゃもう終わりかな」
 無理矢理、ナギの身体を自分の方に向けさせてしまっても悪いし、私が回り込むほどでもないだろうと思った。
 出来としてはまあまあと言ったところ。人に見せられないわけではないが、誰かに見られてはやはり恥ずかしいので早くしまっておこう。
 再びナギのうめき声が聞こえる。私は素早くバッグの中にしまって、ナギから借りている同人誌を再び読み始めた。
 「ハヤテ……」
 という寝言が聞こえる。自分以外の彼氏となってしまった綾崎くんだけど、夢では楽しげなナギとのイチャイチャな生活でも送っているんだろうな。
 「どこを触っているのだ、恥ずかしいだろ……」
 イチャイチャしているみたいだ。ただし、それは夢の中での話し。夢は自分の思っていることを映し出すとも言われているけどそれは本当なんだろうか? それが本当なら、ナギの欲はあんなこととなってしまう。
 「十三歳がそんなことしちゃダメだぞ」
 再び寝返りを打って、私の方にその顔を見せる。その顔は本当に幸せそうで、どうやら夢の中でのお話は最高潮に達しているように見えた。
 「皆のいる前では恥ずかしいではないか」
 これ以上はナギの夢のことについては語らない方が良いだろう。まったく、どれだけ非行の走った夢を見てるんだよ。
 「……頭を撫でるなんて子供っぽいじゃないか」
 「あ、頭だと……!」
 やられた。ライトノベルの冒頭にあたかもあんなシーンを想像させるかのようなセリフと地の文で二ページ分を使い、そしてページをめくると普通のオチでしたって感じのあれと今のナギの夢のオチは一緒である。
 「ということは、ナギは今皆の前で綾崎くんに何かを褒められているってわけか」
 何だか同人誌を読んでいるよりも、こっちの方を見ている方が面白くなってきた。
 「やったぞ……全部売り切ったぞ……」
 売り切った……きっと何かの即売会の夢だろう。全部売り切ることは嬉しいことだよな、特に最初の頃は。
 たしかに、この時間を基準に考えると三ヶ月くらい前からナギは同人活動を一生懸命やってるから。きっと、そのことを通して自分のなりたい将来像が夢となって今見ているんだろうな。さっきは変な夢を見ているんだろうという自分を叱ってやりたいくらいだ。
 「ハヤテぇ……私だってやればできるのだぞ……。自分で描いた漫画をやっと……売り切ったのだぞ……」
 ルカの描いた同人誌じゃなくてナギ自身が描いた同人誌か。たしかに、絵の練習もやっていたようだしそれも夢なんだろうな。
 その後は「撫でるな」とか「恥ずかしいだろ」とか、綾崎くんに言っているようなことばかり寝言で呟いていた。
 それから三十分後。ナギが寝始めてから一時間くらい経っただろうか、ナギは急に身体を起こした。
 「ここはどこだ……?」
 「私の部屋だよ」
 「そうか、ハルミの部屋か。初めてだからどこなのか分からなくなってしまった」
 「ぐっすり眠っちゃってたからな」
 「それに、ハルミの声って少し千桜に似ているから一瞬、千桜の部屋かと思ってしまったぞ。相当寝ぼけているみたいだな」
 「そうかもしれない、な」
 たしかに三年前と比べても声はあんまり変わっていない。だから寝ぼけているナギが『千桜』の声と勘違いをしたとしても無理はない。
 「けっこう寝ちゃった気がするんだけど」
 「ああ、小一時間寝てたかな?」
 「むっ、そうか……普段の睡眠時間も意外と取っているつもりなんだけど」
 「いや普通に疲れたからじゃないのか?」
 「そういやおまえと色々と食材とかを買いに行ったな……」
 どうやらまだまだ眠気は覚めないようで。二時間ほど前に私と一緒に買い物に行った記憶すらどうやらあやふやになっているらしい。よっぽど帰ってきたときに疲れていたんだな。
 「そうだよ、この涼しい部屋のおかげかナギはぐっすりと寝てたんだよ」
 「むぅ、気持ちよかったのだ」
 「何だかその様子だとまだまだ眠たい感じがするんだけど、どうする? 私は全然寝てくれていても構わないが」
 まあ、写生をするとか面白い寝言を聞くからとかということは伏せておくが。ナギはぼーっとしたまま口を開かない。
 「あぁ……」
 「大丈夫か? やっぱり寝るか?」
 「いや、段々と眠気は覚めてきたのだ……が、少しベッドに身体を横にしていいか?」
 「ああ」
 私がそう言うとナギは静かにベッドに身体を倒した。ナギは身体を私の方に向けてゆっくりと口を開いた。少し真剣な表情をして。
 「なあ、ハルミ」
 「なんだ?」
 「これからさ、私とハルミで同人活動やっていくんだろ?」
 「まあ、ルカやその……千桜っていう人の力を借りなければそうなるんだろうな」
 「そうだ、だから訊きたいことがあるのだ」
 「なんだ?」
 「今度のイベントでの同人誌の販売のことだ」
 「そっか、サークル参加するんだったな」
 だからこそ、昨日もおまけ冊子もしくはペーパー用の絵を描いていたんだったな。
 「今回出す同人誌は誰が描いたんだ?」
 「むっ、ル、ルカだよ」
 と、少し不機嫌そうな表情で答える。
 「ルカか。まさか、『傭兵シャチ vol.2』とかじゃないよな?」
 冗談でそう言ってみるとさらにナギは不機嫌そうな表情で、
 「その通りだよ」
 「……すみませんでした」
 「なんて、そういうことは別に良いのだ。五月のコミックサンデーでとあるヤツに『傭兵シャチ』のことをボロクソに言われてな。少しでも見返すかのようにルカはその……女性キャラを導入したんだ」
 「少しでもウケを良くするためってことか?」
 「そうらしい、『流行りを追求した』らしいのだが……」
 確かに『傭兵シャチ』にはシャチが主人公でありヒロインどころか人間すら出ていない。それにこの作品では『流行り』を押さえていないということを言われてもおかしくないとは思った。
 「流行りか。でも、この『傭兵シャチ』の内容はとても面白いけどな」
 「ああ、私もそう思うよ。だから、私はこれと同じように今までの雰囲気を貫いても良いんじゃないかと言ったんだ。でも、ルカは人間の女子を入れることにしたんだ」
 「流行りを押さえるためか?」
 「まあ、それもあるんだろうけど……本人曰く、『可愛いキャラは見るのも好きだし描くのも好き』だって言うから、私は快く賛成したんだ」
 「そうか」
 「それで……そのな?」
 「ん?」
 急にここからナギの声が弱々しくなったのは気のせいだろうか。ナギは視線を少し逸らして話し続ける。
 「その絵が、すごく可愛いんだ」
 「へえ、頑張って描いたんだな。『傭兵シャチ』に出てくるイルカの絵もけっこう可愛かったし」
 「うん、イルカも可愛いのだ。でも、その……な?」
 「ん?」
 「ヒロインって言うのかな。その女の子がすっごく可愛いんだっ!」
 目をキラキラと輝かせながらナギは言った。何だかこのノリは某妹ちゃんに似ている気がするけど、気のせいか。
 「そんなに可愛いの? サンプルでもあれば見せて欲しいんだけど」
 「あるぞ。まあ、そのキャラのデザイン原案の絵だけどな」
 「あるなら何でも良い。持ってきてくれ」
 さっきまでの疲れは何だったのだろうか。小一時間寝ていたせいか、ナギは元気に部屋を飛び出していった。
 今思うと私はラノベを読むとき内容はもちろんだけど、それよりも挿絵に描かれているキャラや色々と可愛い口調に注目してしまうんだよな。作品の魅力として大事なことの一つだと思っている。
 でも、それだけではだめだと思っている。内容もしっかりしていないと『流行り』の作品にはなれないんじゃないかと個人的にはそう思っている。さっきの同人誌を読んだけど、素直に“期待できる”作品だと思った。さすがは、借金を自分の手で返そうとするだけはある。
 「何か、偉そうに語ってるけどなぁ……」
 私なんてまだまだ。大学の友人三人と四人でサークルを組んで即売会で同人誌を五十部売り切ることが最近の大きな目標。それも立派だと思っているけど。
 そう思うとプロの小説家や漫画家というのはものすごいと思う。自分で描いてみることで改めて感じる。
 そういえば、今度販売する同人誌の話の前にナギは何か言いたそうだったけど一体何だったのだろう? と、考えているときにナギは部屋に戻ってきた。
 「あったぞ」
 「早かったな、ありがとう」
 「名前は覚えていないのだが、とりあえずこれがデザインの原案らしい」
 ちょ、それは売り子としてまずいんじゃ……と思いながらも、ナギの持ってきたキャラクターのデザイン原案の紙を見る。
 「おおおっ、確かにかわいいな」
 「だろ?」
 即売会にはたくさん行って、色々なサークルの同人誌を見てきた。しかし、このナギが見せてくれた絵は今までの見た中でも五本指に入るくらいに可愛い。知名度も上がれば壁サークルも夢じゃないくらいに、私はそう思った。
 「これは、流行りもちゃんと押さえられているな」
 「そうだろ? ルカってすごいよな!」
 「……ああ」
 「私はこの絵を見て思ったのだ。私も頑張って絵を描く練習して、ルカと同じくらいに可愛い絵を描いてやるって」
 「良い目標だな」
 ナギが一生懸命描いていたのは、即売会に間に合うように何かペーパーとかを作ろうというのもあっただろう。でも、本当はルカに描いた絵に近づきたくて、そしてさらには描いた絵で知らない人に喜んで欲しいからなんだろうな。
 「だからな、私は少しでも可愛い絵のおまけペーパーを出したいと考えているんだ」
 「いいんじゃないか? 同人誌の作者とは違うけどそういうものも十分面白いと思うぞ。多くの人の絵に触れられるという意味ではお客さんを取り込みやすいかもしれない」
 「そうか……! じゃあ、その……ハルミも絵を描いてくれないか?」
 「私も?」
 「ハルミって即売会とかにサークル参加したことあるんだろ?」
 「まあ、な……」
 「だったら、今からでも間に合うだろうから描いてくれないか?」
 「……いや、描くことは頑張ってみるけどさ、何て言えばいいのかな。お題って言うか、描いてほしいキャラっていうか。そういうものがはっきりしないと、描く物の方向性が見えないっていうか」
 「おおおっ、言うことがやっぱり違うな!」
 調子良いなコイツ。でも、やっぱり描くキャラはある程度決めておいた方が良い。例えば、今度販売する同人誌の中のキャラを描くのが手っ取り早くて良いだろう。
 「ナギは何か描いてほしい物とか、描きたい物とかあるのか?」
 「それがお前に相談したかったことなんだよ」
 まあ、昨日のあの様子だったり、今の話の切り口が今度販売する同人誌だったり。想像はできていたが、まさか本当だったとはな。
 「何だ、お前ならてっきり『自分の力で描き上げてみせるっ!』とか言い張って、何が何でも一人でやると思ってたよ」
 「なっ……! まあ、ハヤテが手伝うと言ったのだがそれは断った」
 「ああ、あの執事くんは優しそうだからな」
 「といっても、ハルミも描くけど私も描くぞ」
 「そ、そうか」
 「だけどな、それで……相談なんだけどな」
 「う、うん」
 「その……ちょっとだけ、その……肌露出多めにしてもいいか?」
 「腹露出多め? その位なら全然大丈夫だろうけど」
 「そうか、だったら良かった」
 あ、あれ? 相談ってまさかこのことか? やっぱりどんなにお嬢さまでも十三歳の女の子なんだな。そんなことで私に許可を求めるなんて可愛いな、まったく。
 「……ハルミ?」
 「なんだ?」
 「あのな、もう少しだけわがまま言ってもいいか?」
 そんなに可愛い顔で攻められては縦に頷くしかないでしょう。私はゆっくりと縦に頷くとナギは少し恥ずかしそうな表情で言う。
 「じゃあ、その……いっその事えっちなやつでもいいか?」
 「は、はあ?」
 「だから、その……一般的に言う“18禁”ってやつの絵を描いていいかって訊いてるんだよっ!」
 「ダ、ダメに決まってるだろ!」
 まったく、最近の十三歳女子ってここまで気持ちは飛躍していたのか! いや、正確には“三年前の”というのが正しいのか。
 「やっぱりハヤテとマリアと同じこと言うんだな……」
 「当たり前だって。十三歳にその手のものは早すぎだ」
 まあ、即売会に行けば成人向けの同人誌もたくさん売っているからな。壁サークルになっているところの同人誌は成人向けの方が多い。それに影響されたのかな?
 「ハルミなら許してくれると思ったのに」
 「いや、普通に考えればダメだって言うのが当然だって。ていうか、どうして私なら許してくれると思ったんだ?」
 「だって、女子大生なんだろ?」
 「……あっ」
 思えば、三年前の今ってマリアさんはまだ十七歳なんだっけ。それじゃあ、ダメだって言うのは当然だな、自分だって十八歳未満なんだから。
 「ハルミの管理の下でやるっていうことで」
 「……そこまで何で成人向けに固執するんだよ」
 「やっぱり、その……流行り?」
 「まあ、もしかしたら壁サークルになるところとかはそういう成人向けが多いかもしれないけど、それは大人になってからの楽しみで良いんじゃないか?」
 「そうかなぁ……?」
 「それよりも、例えば……この原案の娘の水着姿を描くっていうのも面白いかもしれないぞ。まだまだ暑い夏だし」
 「それも……良いかもしれないな」
 「水着姿だったら、例えば水着はスク水だったりビキニだったり色々と選択肢も増えて楽しいだろ? だから私はこっちの方が良いと思うけどな。あ、あくまでも例えばの話だからな!」
 何、私は強い口調で言っているんだか。しかし、私の誘導も上手くいきそうだ。原案の絵が描いてある紙を見つめてにやけている。
 「季節感のある夏の絵を描くのはどうだ?」
 「……そうだな!」
 「夏だと、そうだな……水着もそうだし、浴衣を着ているところも良いかもしれない。早めに考えて絵を描く時間を多めに取れるように頑張ろう」
 「うん」
 すっかりナギもやる気が出てきたみたいだ。即売会が無事に終わるまで持ってくれると良いんだけどな。
 「例えば、私が水着姿の絵を描いてハルミが浴衣姿の絵を描くっていうのもありか?」
 「そうだなぁ、でも浴衣って難しい……」
 「他に何かあるか?」
 「……まあ、とりあえずアイスでも食べよう」
 「そうだな」
 私とナギの共有する目標が生まれた。即売会までに可愛い娘が描かれているペーパーを作ること。ちょっと不安だけどナギとなら頑張っていけると思った。
 久しぶりに食べたアイスは少し特別な味がして。違う味のアイスをナギと交換し合ったりして、ナギとの二人の時間を楽しんだ。


vol.5に続く。
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