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さて、ヒナギクSS『First Love』vol.1です。
今日、3月3日は桂ヒナギクの誕生日です。なので、誕生日記念というコトで。

全4部構成で、この話は進んでいきます。そして、同時に一気公開です。

ヒナギクの家に歩が遊びに来た。そして、話は自然と初恋のコトに。
ヒナギクの知られざる過去が、今・・・明らかに。

それでは、vol.1をどうぞ。

※このSSは、いえろーらいんさんが運営する緋桜絶華さんに寄贈しました。
『First Love』

~PROLOGUE 遠い日に~

 ハヤテとデートを終えて、少しは近づいたようになれたのかな・・・ヒナギクは自分の部屋で、小説を読みながらそんなコトを思っていた。
 「ふう、長かったわ・・・こんな風に、ハヤテくんとハッピーエンドを迎えられたら良いんだけど。」
 その小説の最後はやはりキスというエンド。そして、永遠に愛を誓うというエンド。ハヤテが好きになる前は、このようなエンドを本やドラマで見かけたとしても、なんにも動揺することはなかった。しかし、今は違う。ヒナギクには意中の相手・・・綾崎ハヤテがいる。なので、自然とこういう終わり方を見ると、自分につい重ね合わせてしまうコトが少なくなかった。
 「ハヤテくん・・・私と結婚してください。・・・うん、僕もそのことを言おうと思っていたんですよ。・・・きゃあっ、嬉しい!!」
 ヒナギクは小説の影響により、勝手な妄想を始めて勝手に・・・いつになくはしゃぎ始めて、ベッドにあったぬいぐるみをぎゅっと抱いた。
 「・・・って、そんな風になるのかしら。」
 ぬいぐるみを抱きながら、部屋の天井をじっと見る。すると、ハヤテの顔が天井に映っている。
 「・・・やっぱり、彼のコトが好きなのよね。」
 ハヤテについ怒ってしまうコトがある。でも、それでも・・・この前はハヤテとデートに行き、電車の音で隠れてしまったが、
 『好きな人とじゃなきゃ観に来ないわよ!!』
 ハヤテにそんなコトを。しかし、ハヤテには届いていない。その時はハヤテはヒナギクの言葉に気づかず、進展はあるのかと思えば・・・一つも仲を深めるコトができなかったと思っていた。たとえ、千葉県某所の有名な遊園地で・・・初めてだったファンタジックなコトに目を輝かせていたとしても。
 「はあっ、でも・・・楽しかったな。」
 そんなコトを想うヒナギクは、出会ったときよりは女の子っぽくなっていた。少なくとも。出会ったときよりは。
 「な、なんですって・・・なんてコトを言ってくれるのよ!このSSの作者は・・・」
 少なくとも、バレンタインデーよりは女の子っぽい部分はたくさんハヤテに出せているヒナギク。
 そんなとき、ドアのノック音が2回ほど聞こえた。
 「はあい・・・」
 「ヒナちゃん。お友達が来ているんだけど・・・」
 「えっ?お友達?」
 ヒナギクの義母の声であった。ベッドからそっと立ち上がり、ゆっくりとドアを開けた。
 「お義母さん。お友達って・・・?」
 ヒナギクの義母は原作では、話が進むたびに若く描かれており・・・今のこの時期であれば、20代であるような容姿であろう美人の女性がヒナギクの前に立っている。
 「ええ。西沢さんって言うんだけど・・・ヒナちゃんのお友達?」
 「うん。別の高校だけど、私の友達よ。」
 「そう。だったら、今・・・呼んでくるから。」
 義母はそう言うと、部屋から去る。「歩ちゃ~ん!」という、義母の声が家中に響いており、それに対する歩の声も小さいではあるがヒナギクに聞こえていた。
 「歩・・・」
 ハヤテとデートをしたこと。これを歩に言うべきなのか・・・部屋のドアで、ずっと立ったままで悩んでいた。
 「歩に話したら・・・どう反応するんだろう。」
 もしかして、変なふうに思われる?いや・・・うらやましがられるかも?ヒナギクは立ったままずっと考えていた。なので、
 「ヒ、ヒナさん・・・?ど、どうかしたのかな?」
 「・・・えっ?」
 歩に少し不審がられてしまった。歩は普段着で、かわいく決めている。
 「そんなところで・・・ずっと立ったままで考えコトなんてしているなんて。もしかして、私にハヤテくんが捕られちゃったとか思ったりしたのかな?」
 「えっ、そ、そんなコトないわよ!」
 案外、歩に図星な部分を言い当てられてしまったので、照れ隠しでヒナギクは顔を少しぷっくらと膨らました。
 「でっ、どんなコトを考えていたのかな?」
 「・・・」
 口を開かない。しかし、
 「と、とにかく!ここで話すのはなんだから、私の部屋に入って。」
 「えっ、いいんですか?」
 「あ、当たり前でしょ!!友達の家に来て、部屋に入っちゃダメって言う人がどこにいると思っているの?歩だったら、むしろ大歓迎だけど。」
 「ふふふ。そういうヒナさん、かわいいな。」
 歩はそんなヒナギクのことを、不快に思うことはせずに・・・むしろ、ヒナギクをかわいいと思っている。歩ってどんだけ優しい子なのかしらと、ヒナギクは感心するどころか逆に首をかしげてしまう部分もあるが、本当に同じハヤテが好きだという人だとしても信じられる友人となっていた。
 ヒナギクはゆっくりと歩を部屋の中に招き入れた。
 「うわっ、綺麗な部屋。わ、私の部屋に比べると・・・すごく綺麗ですね。しかも、かわいいぬいぐるみとか、たくさんおいてあるし。」
 「そ、そこまで褒めなくて良いわよ。好きでこうしているんだから・・・」
 「あっ、このぬいぐるみ・・・かわいいですね。」
 歩はヒナギクのベッドの上にあった、一つのぬいぐるみを手に取っていた。
 「それ?かわいいでしょ。」
 「うん。これ、どこで買ったのかな?」
 「・・・聞いて驚かないでね。これ、ハヤテくんが私とデーとしたときにとってきてくれたの。・・・ゲームコーナーで。」
 「えええっ!!と、というコトは・・・ハヤテくんからのプレゼントってコトですか!?」
 自分が欲しくて、有り金のほとんどを使い果たしても獲得できなかったという、ヒナギクにとってはあり得なそうなヘタレなコトを言っても、歩に自慢できそうでもない。なので、ヒナギクは・・・
 「わ、私がほしいなあって言ったら、ハヤテくんがとってくれたの。・・・ふふん、いいでしょ。ハヤテくんが、わ・た・しのためにとってきてくれたんだから。」
 できるだけ、ハヤテが“自分のために”プレゼントしたかったというトコロを強調している。
 「へえっ、いいなあ・・・私も、ハヤテくんにそんなコト・・・してもらったかな。私の一番のプレゼントは、手作りのクッキーですよ。」
 「えっ、この前のホワイトデーの?」
 「それもですけどね。でも、去年・・・ハヤテくんと遊園地に行ったんです。その時に、ハヤテくんが私のためにクッキーを作ってきてくれたんですよ。それが、とても美味しくて・・・ハヤテくんの顔を見ながらだと、より一層においしくなってしまうものなんですよね。」
 「な、なるほどね。うらやましいプレゼントね。」
 お互いに、同じ一人の男性が好きであることが分かってしまうような会話である。ところで、ヒナギクはどうして歩がここに来たのか。そこに疑問を持ち始めた。
 「あ、あれ?そういえば、どうして歩は・・・今日、私の家に来たの?なにか、ハヤテくんのこととかであったの?それか、勉強とか・・・」
 「・・・う~ん。どうしてなんだっけかな?」
 歩はここに来た理由を忘れてしまっていた。というか、第一にヒナギクの家に来るような絶対的な理由があるという時点で、疑問が浮上するが。
 『コンコン・・・』
 ドアのノック音。ヒナギクはドアを開ける。
 「はあい。」
 「ヒナちゃん。はい、紅茶とクッキーを持ってきたから。」
 「あっ、ありがとう。お義母さん。」
 ヒナギクの義母から、お盆ごと受け取る。義母はなんだか笑顔だった。
 「・・・なに?お義母さん。」
 「ヒナちゃん。歩ちゃんって・・・かわいい女の子なのね。」
 「・・・は?な・・・なに、いきなりそんなコト言っちゃって・・・」
 「ヒナちゃん。もし、歩ちゃんと好きな男性が同じ人だったら、油断しないで頑張ってね。・・・うふふ。」
 「も、もう・・・お義母さん!」
 「じゃあ、ごゆっくり・・・」
 義母はそう言うと、ルンルン気分でヒナギクの部屋から去った。
 「・・・もう、何言ってくれるのかしら・・・。この前、ハヤテくんが泊まりに来ただけでハヤテくんのこと、誤解されるような関係に考え込んじゃっているし。」
 「でも、それだけ・・・ハヤテくんと仲が良く見えたんじゃないのかな。」
 「そ、そうなのかしらね・・・」
 あの時は、まだ・・・マラソン自由型の怒りが収まっておらず、ハヤテのことを“綾崎くん”と呼んでいた時期であったので、ヒナギクはそんなコトはないだろうと少し首をかしげた。
 「まあ、ヒナさんのお母さんがそう思っているんだったら、ハヤテくんが彼氏になっても上手くいくんじゃないのかな・・・」
 「あら、そう言うなら・・・私とハヤテくんの距離を一気に縮めてくれるのかしら?」
 「そんなコトはないよ。でも、いいんじゃないかなあって・・・」
 ヒナギクは紅茶にスティックシュガーを一本入れて、スプーンでゆっくりとかき混ぜる。吐息で紅茶を少しずつ冷ましながら、ゆっくりと口に入れた。
 「おいしい。歩も飲んだら?」
 「じゃあ、お構いなく。いただきま~す。」
 歩はヒナギクのようにゆっくりではなく、まるで冷たい物を飲むかのように勢いよく紅茶を口に入れた。すると、
 「あ、あちちっ!や、やっぱり熱い・・・」
 「ふふふ。当たり前よ。」
 と、その言葉を聞いてまばたきをすれば・・・歩はクッキーに手を伸ばしていた。
 「このクッキー・・・とても美味しいですよ!」
 「それは良かったわ。でも・・・」
 「ハヤテくんが作ったクッキーの方が美味しい。とか、そんな言葉を言うんじゃないかなって思ってたでしょ。」
 「・・・正解。」
 ヒナギクもクッキーを食べ、小さく「おいしい」とつぶやいた。
 「・・・あっ、思ったんですけど・・・ヒナさんって、初恋ってどんな感じだったんですか?」
 「ぶっ、・・・は、はつこい?」
 ヒナギクは口の中の紅茶を少しこぼした。いきなりの、恋に対する核心のような質問をされたので、驚きはそれなりに大きかった。
 「そうですよ。ヒナさん、綺麗だし・・・憧れの的みたいな感じだし。ヒナさんだったら、恋の一つや二つぐらい・・・しているんじゃないかなって。」
 「・・・」
 持っているティーカップをお盆に置き、両手を膝の上に乗せていた。少しの間、ヒナギクは口を開かなかった。
 「まさか、ハヤテくんが・・・初恋の相手ですか?」
 「・・・ば、ばかなコト言わないでよ!わ、私だって・・・ちゃんと、そういう経験はしているんだから。」
 しかし、その時の表情は怒りというよりは・・・憂いの表情の方が強かった。それに、歩は気づいている。
 「だったら、私に・・・その初恋の話を聞かせてくれないかな。」
 「・・・いいわよ。あれは・・・」
 そう、あれは・・・10年前の誕生日の頃の話。
 ヒナギクは、そのコトについて・・・もやもやしている部分がある。それは、少しずつ霧は晴れてくるのである。
 ヒナギクは“覚えていること”だけ話し始めた。

~SELL 1 Cheerful Days① 全てを変えた少年~

 10年前の2月末。
 公園に吹く乾いた寒い北風が、ヒナギクの体の心まで行き届いている。ヒナギクは手袋とマフラーをして、公園のベンチに座っていた。
 「はあっ、はあっ・・・寒いよ。お姉ちゃん。」
 ヒナギクの前には一人の若い女性が立っている。ヒナギクの姉・雪路である。容姿はあまり変わっていない。
 「そうね。今日は北風が強いって言っていたから・・・でも、大丈夫。ヒナだったら、絶対に乗り越えられる。お姉ちゃんが保証するわ。」
 「でも、寒い物は寒いよ・・・」
 「う~ん・・・私だって寒い。じゃあ、ちょっと待ってて。」
 雪路はそういうと、走ってどこかに行ってしまった。ヒナギクはそれを追いかけずに、ベンチにただ座り続けている。冷えた手を、自分の吐息で暖めながら・・・周りの様子を見ていた。
 「・・・」
 友達と滑り台の上ではしゃぎあっている様子。母親と一緒に砂場で大きな山を作っている様子。何気ない、そんな微笑ましい雰囲気が・・・ヒナギクの心を寂しくさせていた。そう、ヒナギクには両親がいなかったから。
 (お父さん・・・お母さん。どうして、いなくなっちゃったの・・・?)
 そう考えると、自然に涙が出てくる。
 「ひくっ、ひくっ・・・」
 と、そんなトコロを雪路は目撃したのか・・・勢いよくヒナギクの元に走ってきた。
 「ど、どうしたの?ヒナ・・・泣いたりして。も、もしかして・・・誰かにいじめられた?」
 「そ、そんなコトないよ・・・大丈夫だよ。」
 「だったらいいけど。なにかあったら、お姉ちゃんが全部やっつけてやるから。お姉ちゃんに甘えて良いんだよ。」
 「うん。」
 両親のいないヒナギクにとって、親代わりであり・・・姉である雪路にしか、大いに甘えることはできない。この時の雪路は、現代の雪路にはないようなどこか真面目な面影があった。
 「はい。これ。」
 雪路の着ているコートのポケットから、一つの缶が出てくる。それを、ゆっくりとヒナギクの手にそっと置いた。
 「あたたかい・・・」
 「うん。ヒナが寒いって言うから。ヒナの好きなミルクティー。温かくて、とってもおいしいぞ。」
 「で、でも・・・買っちゃうと、お金が無くなっちゃう・・・」
 「いいのいいの!ヒナのためだったら、お姉ちゃんは頑張れるんだから!」
 「お姉ちゃん・・・」
 ヒナギクは温まっている紅茶の缶を、ずっと持ち続けている。手袋を着けているため、ずっと持ち続けていてもやけどをするような熱さではない。
 「温かいでしょ。ほら、早く飲みなさい。」
 しかし、ヒナギクは首を横に振った。
 「どうして?」
 「もうちょっと、このままで温かくなりたいから。いいでしょ?それでも・・・」
 「・・・そうね。」
 雪路はヒナギクの横に座った。
 「はあっ、もうすぐ・・・ヒナの誕生日だっけ。6歳になるのよね。」
 「うん。4月からは小学生になるんだよ。」
 「そうね・・・そのためにも、私がちゃんと稼がなくちゃいけないんだな。うわっ、今まで以上に大変そう。」
 ため息を白息に変えて、はあっと息をついた。
 「ごめんね、ヒナ。いつも、苦労かけちゃって。毎日、夜遅くまで・・・一人にしちゃって。寂しいよね。」
 「いいの。私だって、お姉ちゃんの妹なんですから!」
 温かい缶を持ちながら、雪路の顔を見て微笑んだ。雪路はすると笑顔になり、ヒナギクの頭をそっとなでた。
 「えらいよ。ヒナはとってもえらいよ!お姉ちゃん、泣けてくるわ・・・」
 「な、泣かないでよ!お姉ちゃん・・・」
 「うん。うん・・・ヒナの前で泣くなんて、情けないお姉ちゃんだよね。」
 雪路は必死にコートの袖で、涙を拭いている。
 「ううん・・・お姉ちゃん、毎日・・・私のために、夜遅くまで頑張っているんだもん。お姉ちゃんは、一番大好きなお姉ちゃんだよ。」
 「うん・・・ありがとう。ヒナ。」
 ヒナギクの優しさに、雪路はすっかりと心が癒された。というより、感動した。それが、涙という形で今・・・こうして現れている。
 「じゃあ、お姉ちゃん・・・今から、バイトに行ってくるけど・・・お日様が落ちないうちに、ちゃんと家に帰るんだよ。」
 「うん。お姉ちゃん・・・頑張ってね。」
 「分かってるって!」
 「今日は・・・また、遅いの?」
 「・・・ううん、今日は早く帰れるかもしれないわね。早く帰れるように、お姉ちゃん・・・頑張っちゃうから!」
 「うん!約束だよ!」
 雪路の涙はすっかりと止まり、ゆっくりとベンチを立った雪路は・・・ヒナギクに手を振りながら、その場を去っていった。ヒナギクも雪路が見えなくなるまで、ずっと・・・手を振り続けていた。
 「・・・」
 姉である雪路の姿が見えなくなり、さっき雪路からもらった缶をゆっくりと開けると、ほんのりとした甘いミルクティーの香りが、缶の口から伝わってくる。
 「ふうっ、ふうっ・・・」
 先ほどよりも熱い気配もあまりなく、2,3回息を吹きかけたところで、ヒナギクはゆっくりとミルクティーを口の中に入れた。
 「あま~い。おいしい・・・」
 冷たい風によって冷やされていた体が、ほんのりとした暖かさのミルクティーに、体全体が包まれるような優しさを感じた。ヒナギクの表情は、自然と笑顔になっており・・・その後も少しずつ飲んでいく。
 「お姉ちゃん、早く帰ってこないかな・・・」
 雪路が去って10分ほどで、ヒナギクはそんな言葉を口にする。雪路が恋しいのか、このミルクティーのせいなのか・・・早く帰ってきてほしい気持ちはさらに膨らんでゆくのである。
 しかし・・・やはり同時に、一人である寂しさに・・・悲しみもまた戻っていく。いくら温かいミルクティーがあったとしても、その悲しみは抑えられない部分もある。
 「お母さん・・・!お山さんが作れたよ・・・!」
 砂場で母を呼ぶ少年の声。それは、ヒナギクの心にない部分を典型的に表していたため、それを耳にしてしまったため・・・また、再び泣こうとしている。
 「う、うううっ・・・」
 ここ最近は、ずっとそんな感じだった。両親に失踪されてしまったばかりで、雪路と2人で何とか暮らしている。その後に、桂家に引き取られるのだが・・・それは、まだもう少し先のこと。とにかく、他人が両親に甘えている部分を見ていると、自然と悲しい想いがこみ上げてしまってもしょうがない状況だったのだ。
 「お父さん・・・お母さん・・・」
 しかし、そんな時だった。一人の少年がヒナギクの横に座ったのは。そして、声をかけたのは。
 「ねえ、どうして泣いてるの?」
 「えっ・・・?」
 「なにか、悲しいことでもあったの?」
 「う、ううん・・・」
 その少年は、にっこりと微笑んだ。
 「だったら、泣かないで・・・」
 ヒナギクはその言葉を発する少年の顔を見た。
 「あ、あなたはだあれ・・・?」
 「僕?僕の名前は綾崎ハヤテ。今度、小学校に入学するんだ。・・・君の名前は?」
 「か、桂ヒナギク・・・」
 「ふうん。ヒナギク・・・じゃあ、ヒナギクちゃんって呼んでいいかな?」
 「・・・い、いいよ。ハヤテくん。」
 少年の名前は綾崎ハヤテ。まあ、彼もいろいろあって・・・ヒナギクの同じような状況であると思っても良いだろう。
 「でもさ、どうしたの・・・?そんなに泣いちゃって。」
 「・・・お姉ちゃんがバイトに行ったの。私のために。」
 「ふうん、バイトっていろいろあってね。どれも大変なんだよね・・・」
 この頃のハヤテも、小さいながらにバイトは・・・並みの6歳児とは思えないようなことをやらされていた。ハヤテはこの頃からバイトの知識は広い。
 「僕もいろいろやったことがあるんだ。」
 「へえ・・・」
 「で、もうすぐ・・・暗くなるけど、お母さんとかに怒られるんじゃないの?」
 「・・・」
 「な、何か僕・・・悪いことでも言っちゃったかな。」
 ハヤテはヒナギクの目から涙がこぼれてくることに、かなり動揺をしているようだった。
 「な、泣かないでよ!」
 さらに、ヒナギクはハヤテの腕をつかんで泣いている。
 「ど、どうして泣いてるの・・・?」
 「お母さんも、お父さんもいなくなっちゃったから・・・」
 「い、いなくなっちゃったの・・・?そ、そんなのってあるのかな・・・」
 「う、うううっ・・・」
 ハヤテは女性に泣かれることは、もちろん初めての経験。慰めることなどそんな余裕はなく、この場をどうするか・・・それにあたふたしている。
 「ど、どうしよう・・・こんなコトなんて、僕・・・めったにない。というか、女の子にしがみつかれて泣かれたコトもないよ・・・」
 ハヤテは「逆に泣きたいぐらいだ」みたいな感じになってきたが、ヒナギクがだんだんと落ち着いてきたため、それも次第に収まっていった。
 「でも、どうして・・・いなくなっちゃったの?」
 ハヤテはヒナギクの両親が本当にいなくなったのだと思った。ヒナギクの目から出る涙は、真実だと物語っていると思ったから。
 「分からないよ。あのとき・・・ぐすっ、お友達と遊んで・・・ぐすっ、おうちに帰ったら・・・ぐすっ。」
 「ヒ、ヒナギクちゃん。ま、まずは・・・落ち着こうよ。」
 「ご、ごめんね・・・」
 コートの袖で、自分の涙をふき取ったヒナギクは、再びハヤテの顔を見てその時のことを話した。
 ヒナギクが不意に飲んだミルクティーは、もうすっかりと冷めてしまった。
 「おうちが・・・どこも暗くて。それに、何もなくて・・・。お姉ちゃんが一人で立ってた。訊いたの。『お父さんとお母さんはどこ?』って。」
 そう、あの時・・・ヒナギクは何も知らない。両親が去ってしまった理由は。
 『お父さんとお母さんはどこ?』
 それを訊いたときの情景が、小さいながらのヒナギクでも鮮明に覚えていたのだ。なので、悲しみはすぐに消えることはない。
 「それで、お姉ちゃんは・・・何て答えたの?」
 それに対して、すぐに答えようとしないヒナギク。しかし、それをハヤテは急かすことも腹を立てることなく、ただヒナギクの口を開く時を待った。
 「ねえ。」
 念押しに訊いてみるハヤテ。
 「お姉ちゃんは何も答えてくれなかった。・・・ただ、『今から新しいお家に行くよ』って言われて・・・」
 「そうなんだ・・・」
 「お姉ちゃん、何にも教えてくれない。・・・きっと、お父さんとお母さんは私たちを捨てちゃったんだよ!」
 「す、すてた・・・?」
 「だって、その後も・・・お姉ちゃんは教えてくれないんだもん。」
 「・・・そうなんだ。・・・で、そのお姉ちゃんは・・・今、何をしているの?」
 ヒナギクは冷めたミルクティーを一口飲んで、
 「お金を稼ぐために、バイトに行っているの。お姉ちゃん、ここ最近・・・遅いんだ。さみしいな。」
 「ふうん・・・はははっ。」
 「な、何笑ってるのよ。」
 「ヒナギクちゃんはいいな。僕なんて、自分でお金を稼がなきゃいけないんだよ。」
 「えっ・・・」
 その時、ハヤテの小さいながらの大変さが何かあることに気づいた。ヒナギクの表情は少し真面目になる。
 「優しいお姉ちゃんがいて・・・。でも、僕は・・・父さんも母さんもいるけど、全然ダメな人で。」
 「そ、そうなの・・・」
 「でも、お姉ちゃんがいるんだから・・・がっかりしなくても大丈夫だよ。それに、僕だって寂しい想いをしているから。」
 「ハ、ハヤテくんも・・・?」
 「うん。だから・・・暗くなるまで、ここで遊ぼう!」
 ハヤテと遊びたかった部分もあれば、ハヤテの優しさに気づいた部分もあった。ヒナギクはハヤテに出会ったときのような悲しみは・・・どこに行ってしまったのだろうか。そう思わせるような笑顔で、ハヤテと遊んだ。
 砂場で山を作り・・・時には、滑り台で一緒にすべってみたりした。お互いに、親が迎えに来ることもない。なので、夜まで遊んでしまった。
 「楽しかったね・・・ヒナギクちゃん。」
 「うん!でも・・・どうして、頭からすべっちゃうの?・・・とてもおもしろかったよ。痛くなかった?」
 「別に、僕・・・いっつもケガをしてるから。このくらいは、どうってことないよ。」
 互いに小学校に上がっていないせいか、幼稚なことを話している。しかし、ハヤテはさりげなく訊いてみた。
 「そういえば、女の子に話したことがあまりなくて。それで・・・一人の女の子と話したことはあるんだけど、『どこかに行っちゃえええっ!!』とか言われちゃって。」
 「ふうん。」
 「それで・・・やっぱり、女の子って誕生日が一番大切な日らしいんだって。だから、ヒナギクちゃんの誕生日っていつなのかなって。」
 「私、3月3日が誕生日なんだよ。」
 そう聞くと、ハヤテは驚きの表情を見せた。
 「えっ!じゃあ・・・もうすぐじゃん!だったら、僕・・・ヒナギクちゃんのために、プレゼントを用意してくるよ!」
 「・・・」
 その時の無邪気な笑顔。自分のためにしてくれると言ってくれた、その笑顔に・・・ヒナギクの心が動き始めた。
 「えっ・・・」
 気づけば、ヒナギクの頬の色が朱に変わっている。そして、頬を手でそっと触ってみると心地よいぐらいに暖まっていた。
 「ハ、ハヤテくん・・・」
 「僕が、ヒナギクちゃんのために・・・3月3日にプレゼントを持ってくるよ!」
 「・・・ありがとう。」
 ヒナギクは両手をあわせて、ただ・・・ハヤテを見ている。
 「よかった。やっと笑顔になったね。」
 「えっ・・・」
 その言葉を言うハヤテの表情は、その頃のヒナギクにとってはとてもかっこいい表情だったという。
 「笑顔になったヒナギクちゃん。とてもかわいいよ。」
 「・・・も、もう!周りに人がいないからって、そんなこと突然言わないでよ!」
 と、そんなコトを言うが・・・表情は嬉しさのあまりに少し怒っていた。ヒナギクの言うとおり、日は沈みかけているため周りに子どもはいない。空を見ると、少しずつ星が見えてきている。
 「あと、今みたいに・・・怒ったヒナギクちゃんも。」
 「も、もう・・・!」
 今だったら言えないような言葉を、ハヤテはヒナギクに連呼している。まだ、ハヤテはヒナギクに特別な思いを抱いているようではなく、平常心でかわいいと言っている。
 「あははっ。まあまあ、そこまで怒らないでよ。・・・ほら、星が綺麗だよ。」
 ハヤテは空に向かって指を指した。
 「・・・綺麗だね。」
 時間が経つに連れて、紅蓮の色に染まった空は・・・漆黒のように、空気が澄んでいる場所であるため星が綺麗に見えていた。
 「綺麗だね!ハヤテくん!」
 「やっぱり、女の子って星空が好きなんだね。」
 「好きだよ。好きに決まってるでしょ。」
 ヒナギクもハヤテも・・・笑顔になって夜空を見上げている。ハヤテは、静かにヒナギクの顔を見てつぶやいた。
 「ヒナギクちゃん。お父さんとお母さんがいなくなっちゃったコトは、僕だとしても悲しいことだよ。でも、それは・・・変えられないことだなって思うんだ。」
 「ハヤテくん・・・」
 「大丈夫だよ。お姉さんだっているし、それに・・・そんなコトがなかったら、こうして僕と星空を見るコトができなかったでしょ?だから、もう・・・悩むことは、やめたほうがいいよ。」
 そのことについては、ヒナギクは初めて優しく言われた言葉だった。大人は何かと気遣って、優しい言葉すらかけてくれない。友達も、両親がいなくなってから本当に少なくなってしまった。
 でも、ハヤテの一言で・・・希望が見えた気がした。しかも、男の子に言われた・・・この瞬間、ヒナギクは完全にハヤテに好意を持つようになった。
 「何か困ったことがあったら、僕になんでも言って。ヒナギクちゃんの力になれるなら、僕は何でもするから。」
 「う、うん・・・」
 「・・・じゃあ、もう暗くなっちゃったし・・・帰ろうか。」
 「そうだね。今日はありがとう・・・ハヤテくん。」
 ベンチから降りて、手を繋いで・・・ヒナギクは家の前までハヤテと一緒に帰っていった。その時は本当に良かった。
 それは、とある寒い日の出来事だったのであった。

vol.2に続く。この話は現実と過去の両方の場面が交互にやってきます。
この後、ヒナギクはとあるトコロに行き・・・初恋の話を進めていく。

vol.2をお楽しみに。
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