日記と音楽レビューを中心に更新しています。リンク&トラバなどはフリーです。

2017/04 |  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 | 2017/06

『月光』


『月光』


「綾乃、そろそろ寝ようか」

 本当ならここに京子と千歳が加わるはずだった。
 京子の発案で今夜、二年生四人が私の部屋に集まってお泊まり会をすることになった。強引だとは思ったけれど、京子が私の家に来ることは日常茶飯事と言っても過言ではないし綾乃や千歳も賛成してくれたからお泊まり会開催が決定した。
 しかし、その後すぐに状況が一変。
 京子は明日〆切の原稿をすっかりと忘れてしまっていたらしい。普段なら私を頼ってくるところだけど、前に同じようなことで私を徹夜させて、その際に激怒したから京子もさすがに同じことの繰り返しはさせられないと思ったのか不参加を申し出た。主催者だというのに。
 そして、千歳は急に家庭のことで用事が入ってしまったとのこと。
 二人だけになってしまったのだから綾乃に今回のお泊まり会は中止にしようって電話をかけようとしたら、よほど楽しみだったのかすぐに家に来てしまった。
 京子と千歳が来ないことを知らせると綾乃は少し残念そうにしていたけど、それでもお泊まり会自体を楽しみにしていたらしく、その後はずっと明るく振る舞っている。
 私の作った夕飯を一緒に食べ、その後は学校のことをゆっくりと話して。綾乃と二人きりということがあまりなかったから、新鮮な感じがして二人だけでも結構楽しい時間が過ごせた気がする。
 気づけば十時過ぎになっていて、綾乃、私の順番でお風呂に入った。綾乃はどうか分からないけれど、私はもっと綾乃と話したかったからすぐに出た。
 部屋に戻ると綾乃は窓を開けて夜空を見上げていた。
「どうしたの? 早く締めないと風邪、引いちゃうよ」
 今は一月の終わり頃。一年で一番寒い時期。
 肌を出していたらすぐに凍ってしまいそうな冷気が足下に漂っている。
「ご、ごめんなさい。ただ、その……星空が綺麗で。満月も出てるの」
 綾乃ははにかみながら言った。
「そっか」
「船見さんも見る?」
「うん」
 二つ返事だった。多分、相手が綾乃だったからだと思う。
 綾乃の隣に立ち、少し窓から顔を出して空を見上げる。
 満天の星空の中心に満月が見える。冬の空気は乾燥しているから、星空を見るには適しているとは言うけどそれは本当だったみたいだ。薄い雲さえなくて、まさに「満天」の星空だと思う。
「綺麗だな」
「ええ、素敵ね」
 横目で綾乃のことを見ると、綾乃はうっとりとした表情をしていた。
「……私じゃなくて京子ならもっと良かった?」
「えっ!」
 薄暗くても分かるくらいに綾乃は頬を赤くする。
 京子は気づいていないけれど、意外と綾乃って顔に出るタイプみたい。やっぱり京子が好きなんだな、綾乃は。
「え、ええと……そのっ……」
「ごめん。普段の綾乃を見てれば分かるけど、何となく今みたいな反応が不意に見たくなって」
「も、もう……船見さんったら。いじわる……」
 少し頬を膨らます綾乃がとても可愛らしく思えた。
 綾乃をからかってみたかった、というのが本音だけれど、今言ったことももちろん私の本音だ。どうしてなのかは分からないけど。
 唯一つ分かっているのは、綾乃とこうして二人でいることに安心しているということだけ。
「そういえば、船見さん」
「なに?」
「おとぎ話でも神話でも、満月の光を浴びると色々とあるじゃない」
 いきなり何を言い出すんだ?
「狼とかが遠吠えをしたり、人が突然怪物になったりするみたいな?」
「そうそう!」
 まるで痒い場所に手が届いたようにぱっ、と明るい表情を見せる。
「……それでね、時々思うの。満月の光を浴びて、何か自分に力が付いたり、他の動物になれたら歳納京子に向き合えるのかなって。全てを盗めるのかなって……」
「だめだっ!」
 不意に叫んでいた。下手をすれば近所の人が飛び起きそうなくらいな大きな声で。
 綾乃は目を見開いて私のことを見ていた。
「ごめんなさい。私、そんなつもりじゃなくて……」
「それはこっちの台詞だよ。例え話だっていうのは分かってるよ。だけど、その……やっぱり京子とは昔から一緒にいるせいか、急に全部を盗むとか言われると何だか……」
「ううん。私、調子に乗っちゃってたみたい」
 綾乃は苦笑いを見せる。
 多分、あまりに綺麗な星空に見とれてしまい、気持ちが盛り上がってしまったんだ。きっとそうだ。
「考えてみれば、船見さんの前でこんなことを言ったら失礼よね。歳納京子のことは気になってるけど、船見さんは大切な幼なじみなんだもんね。出会って一年ちょっとの私なんて……」
「いや、気にしなくていいって……」
 どうして、スッキリしないんだ。
 京子のことを綾乃に取られたくないとか、それに似た感情ならとっくに気分が晴れてもいいはずなのに。どうして、そんな気分に一切なれないんだ。
 分からない、どうしてそうなのかが。
「どうかしたの? 顔色が悪いけど、もしかして体が冷えちゃった?」
 綾乃は慌てて窓を閉めて、私の体を抱き寄せてくる。
「多分、こうすれば暖かいと思うから。すぐにお布団を敷きましょう」
「ありがとう。大丈夫だよ」
 綾乃に抱き寄せられたことで再び湧き上がってくる安心感。
 もしかして、これが私の気持ちがスッキリしない原因なのかな。もしそれが正解なら私も……何か言ってみてもいいかもしれない。だって、綾乃も……京子のことを盗みたいって言ったんだから。
「あ、あのさ……綾乃」
「何かしら? 今から温かい飲み物でも作る?」
「いや、そうじゃなくて、さ……」
 いざ、言ってみようとすると意外と言えない。普段言わないようなことだし。
 それにしても、どうして綾乃はさっきあんなに自然と言えたんだ? これももしかして満月の力だったりするのか?
 でも、綾乃になら言っても大丈夫な気がする。二人きりだし。
「……今はさ、私のことを京子だと思ってくれていいよ」
「えっ?」
「京子と一緒にしたいことを綾乃にしてほしいんだけど」
 そう、私は嫉妬しているんだ。でも、それは京子に対してじゃなくて……綾乃に対して。
 綾乃は私じゃなくて京子のことが好きなんだ。だったら、今だけでもいい。私のことを京子と同じようにしてくれれば、私に向いてくれるはずだと思った。
 きっと、私はさっきの綾乃みたいに顔が赤くなっているんだと思う。熱くなっているのが自分でもよく分かる。
 少しの間、沈黙の時間が流れたけどそれを破ったのは綾乃の可愛らしい笑い声だった。
「……それはできないわ」
「ど、どうして?」
「だって、船見さんは船見さんじゃない。歳納京子の代わりなんていないし、もちろん船見さんの代わりだっていない。今日は数少ない船見さんとの二人きりのお泊まり会だもの。私は船見結衣さんと一緒の時間を過ごしたいって思ってるわ」
「綾乃……」
 やっともやもやが晴れた気がする。
 好きとかそういうことじゃなくて、きっと……もっと私のことを見ていて欲しかったんだと思う。綾乃は京子のことで頭がいっぱいだったから。京子と一緒にいるからかそんなことが多くて、かまってほしい気持ちが強くなったんだと思う。
「じゃあ、今日は一緒の布団で寝る?」
「……それもいいかもしれないね」
「何だかいつもの船見さんじゃないみたい。頬を赤くして笑っているなんて」
「べ、別に……ただ、綾乃と二人きりもいいかもって思っただけだ」
「そう。私も同じよ」
 再び見せられる微笑みに私はやっぱり安心する。
 今まで、綾乃とはどこか話すことのできなかった感じがしたけれど、今日は色々なことを話して彼女のことを知ることができた気がする。
 これも綾乃の言う満月の力なのかもしれない。……みたいなことを、綾乃と同じ布団の中で同じ温もりを感じながら話したりした。
 たまにはそんなロマンチックな話をしたっていいだろう?
 女子中学生だけの夜なのだから。


『月光』  Fin
 

最後まで読んでいただきありがとうございました。
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://2ndbutlershun.blog60.fc2.com/tb.php/1028-1fe9fef0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック