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 月曜日。
 昨日が充実し過ぎていたせいか、あまり休んだという感覚がない。でも、今までとは違った休日を味わえてそれはそれで良かった。まあ、理事長に顔を殴られるという日常があってはそれこそ問題なのだが。
 俺は今、朝飯を食べているのだが、俺の席の横には由衣が座っている。昨日交わした約束である『俺と一緒に登校する』ためだ。
 由衣はモーニングコーヒーならぬモーニングティーを楽しんでいる。母さんの粋な計らいは今日も健在のようで。しかし、今日の朝食は和食だから紅茶の香りがいまいち合っていない。
 朝食を食べ終わると、さっそく家を出る。あかりも一緒だ。
「由衣ちゃんと登校できて嬉しいよ」
「そう? 金曜日にも一緒だったじゃない」
 などと、由衣は俺と一緒に行くことを約束した割にはあかりと二人で話が盛り上がっていた。まあ、別に俺はそれでも構わないのだが。
 右から由衣、あかり、俺という並び方で閑静な住宅街を歩いていると、前方には見慣れた水色の髪の男子生徒が待っていた。
「つばさ、おはよう」
「おはよう、水嶋君。片倉さんとあかりちゃんもおはよう」
「おはよう、百瀬君」
 由衣はいつも通りの雰囲気で返事をしていたのだが、あかりはつばさを凝視したまま何も言葉を出さない。
「ど、どうしたのかな? あかりちゃん」
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「この人って昨日のメイドさんだよね?」
「ああ、そうだけど」
「な、なんで男子用の制服を着ているの? も、もしかして男装が趣味な女の子?」
「まるっきり逆だ。こいつは百瀬つばさ。色々と事情はあるが、女装の似合うれっきとした男だ」
「へえ……」
 まあ、あかりがそんな反応をしてしまうのは仕方ないか。
 でも、例の記事を掲示板で見たときに二人は会っているはずなのだが。まあ、そんなことは別にいいか。
「それで? どうしたんだ、こんな所で立って」
「う、うん。水嶋君の家、この近くだって言ってたから……ここで待ってれば一緒に学校へ行けるかなって思って」
 こういう内容も本当に女っぽくて可愛らしい。
「そうか。じゃあ、一緒に行くか」
「うん!」
 つばさは嬉しそうに言った。
 由衣もあかりも快く頷いてくれたので、四人で歩き出す。
 少し歩くと青柳川が見える。大きな川の横には朝なのかランニングをしている人の姿も見受けられる。
 俺たちは川沿いの道を学校方面に向かって歩いている。
 すると、徐々に常盤学院の制服を着た一際目立つ女子生徒がこちらを向いているのが見えてきた。まさかとは思うがあれは、
「瑠奈?」
 俺の漏らした声につばさ、由衣、あかりがそれぞれ三者三様に反応を示す。つばさは明るい笑顔で、瑠奈は少ししかめっ面で、あかりは少し怯えながら俺の後ろに隠れる。
「遅いわよ」
「瑠奈はいつも家のリムジンで来るんじゃなかったのか?」
「きょ、今日くらいは歩いて登校してみてもいいかなって思っただけよ。べ、別に潤と登校したいわけじゃないんだからね」
「別に気を遣ってもらわなくていいんだが」
「うるさいわね。下僕のくせに」
 やっぱり、瑠奈は俺のことをその位にしか思っていないようだ。別にいいんだがな。
 瑠奈はいつも通りの不機嫌な表情をしていたのだが、俺の後ろに隠れている存在に気づいた途端、一変して、
「そこにいるのはあかりちゃん? おはよう!」
「は、はい。おはようございます。る、瑠奈先輩」
「はぁん……先輩っていい響きね! うぅん……お姉ちゃんって呼ばれるよりもこっちの方がいいかも!」
 と、理事長の娘という高貴な雰囲気が一気に飛び、ただの妹キャラ好きの女子に変わる。それにしてもこいつのあかりへの溺愛っぷりは軽く引いてしまう。
「瑠奈ちゃん、おはよう」
「おはよう、つばさ」
 つばさとは普通の挨拶を交わした。意外と瑠奈と対等に話し合えるのはつばさだけかもしれない。
 そして、瑠奈が由衣に視線を向ける。
「ねえ、潤。この女は誰?」
「俺たちと同じクラスメイトの片倉由衣。俺の幼なじみだ」
「ふ~ん、下僕のあんたにも幼なじみがいるんだ。知らなかったわ」
「ちょっと! 潤がいつからあなたの下僕になったのよ!」
「えっと……三日前くらい?」
 どうやら、由衣と瑠奈はあまり気が合わなそうだな。まあ、瑠奈はほとんどの女子から敵視されているようだし、こうなることは想定内だったが。
「私が下僕だって言ったらその時点で下僕なの。そういう風に世の中はできているの」
「死んでもあなたの下僕なんかにならないから」
「別にあんたに興味なんてないわ。下僕は男子だけで十分。女子なんて一人もいらないから。でも、あかりちゃんだけは特別に妹にしてもいいわよ。その気になったらいつでも私に言ってきてね?」
 途中から瑠奈は笑顔であかりの方を向いて話すのだが、それに対してあかりも流石に苦笑い。つうか、まだ妹にすることを諦めてなかったのか。
「由衣も瑠奈も朝から喧嘩は止めろ」
 俺が割って入ると二人は何も言わなくなった。
 こういうことだから瑠奈は女子の友達ができないんだな。由衣と目線を合わせては二人の間に火花が激しく散ってるし。
 だが、そんな中でつばさはくすっ、と笑った。
「どうした? つばさ」
「いや、こういうのもいいなって。普段、一人で登校してるから。人と話しながら歩いてるだけで何だか楽しくて」
「……そうか」
「何だかいつも見ている風景とは違って見えるよ。同じはずなのにね」
「俺もつばさと同じだ」
 そうだ、つばさの言うとおり普段見慣れている風景が何だか違って見える。でも、それはいつもよりも輝いていて。
 それはもしかしたら、つばさや瑠奈、由衣やあかりのおかげかもしれない。そして、七年間抱えていた苦しさが払拭されたからかもしれない。
 
風景というのは一概には言えない。
 時にはそれが希望に満ちているように煌めくように見えて。
 時にはそれが絶望に満ちているように先がないほどに暗く見えて。
 その時の気持ちによって、まるで違うように見える。それは常に変化していて、俺が今見ている風景だってもう二度と見られないかもしれない。そして、他の人と重なることは決してないかもしれない。
 だからこそ、俺は訊いてみたい。

 ――君の見ている風景はいったいどんな感じなんだ?

 それが少しでも輝いているのなら、俺は嬉しい。


『君の見ている風景』 終わり


最後まで読んでいただきありがとうございました。
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