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 東京郊外とは思えない広大な私有地。
 福原邸。
 私立常盤学院高等学校の現理事長・福原慎治(ふくはらしんじ)とその家族が住んでいる大豪邸である。
 公道ではないかと思えるようなきちん舗装された道。街路樹が等間隔で綺麗に植えられており、少し強くなってきた春の日差しも木々の葉によって良い具合に遮られている。
 俺と瑠奈はそんな場所を数分ぐらい歩いていた。
「信じられないほどの広さだな」
「ええ、今朝……私も初めてそれを思い知ったわ」
「自分の家なのに、か?」
「だって、普段はリムジンで屋敷の玄関前まで送ってもらうから」
 確かに、この敷地の広さだとリムジンで走るにもちょうどいい感じだ。どこか別世界にいるんじゃないかと思ってしまう。
 あれから、俺と瑠奈は全ての荷物を持って青柳市に帰ってきた。もちろん、コスプレの衣装から普段着に着替えて。
 電車で青柳駅まで戻ると、瑠奈がメモ書きをした地図を頼りに福原家の外玄関まで歩いてやってきた。大体三十分ぐらいだったので、二時間もかかった瑠奈は相当迷ったんだと思う。
 そして、家で働いているメイドの人に通してもらって今に至るというわけだ。
「でも、本当につばさがここにいるのかしら?」
「いるだろ」
「どうしてそんなに自信たっぷりなの?」
「最初に誘拐しようとしたのは瑠奈だったからさ。あの感じだとつばさは二の次だったって解釈できるんだ」
「……」
「それに、一昨日……つばさと川辺で話したんだけど、お前が最初に瑠奈が出会った時のきっかけ。それは、福原家のSPらしき人が家に連れて帰るのを拒んだからだって。つばさからはそう聞いてるよ」
「そうだった気がするわ」
「……瑠奈は気づいていたんじゃないのか? お前を連れ去ろうとした男たちの正体を」
「……」
 おそらく、そうなんだろう。
 誰かがこの屋敷に連れ戻すために、瑠奈を誘拐しようとした。しかし、俺がいるからそれは失敗する可能性がある。
 その可能性を考えると、あの時一緒にいたつばさを誘拐しようとも考えた。瑠奈の知り合いであるつばさが誘拐されれば、自分の家に帰ってこいという要をも飲むだろうから。
 前方には大きな噴水が見える。
 そして、その後ろから大きな屋敷が姿を現し……正面の玄関にメイド服を着た女性が立っていた。
「お待ちしておりました。瑠奈お嬢様、水嶋様」
 俺たちの姿を見つけるや否や女性は頭を下げてそう言った。
「ここに水色の髪をした子が来たと思うんだけど」
「はい、確かにその方もお出迎えしました」
「早くその子と会いたいんだけれど……」
「旦那様とお待ちしているはずです。部屋までご案内します」
 旦那様ってことは理事長ということなのか?
 つまり、今回の一連の出来事を計画して実行させたのは理事長だった? 信じがたいことではあるが、メイドの女性の言葉が本当だと仮定すればおのずとそういう答えが導ける。
 瑠奈は一つため息をついて、
「分かったわ。案内して」
「かしこまりました」
「潤も一緒に行くわよ」
「……ああ」
 ゆっくりと玄関が開かれる。
 その瞬間、俺の足取りはそれまでとは違ってかなり重くなっていた……。


「旦那様。瑠奈お嬢様と水嶋様をお連れしました」
「……入りなさい」
 初めて聞く理事長の声。
 流石に常盤学院に関わる全ての人間のトップ。殆ど関わることのない一般生徒の俺でも威圧感が伝わってくる。まだ顔を合わせているわけでもないのに。
 メイドさんがゆっくりと大きな扉を開くと、そこにはメイド服を着ているつばさがソファーに座っていた。
「つばさ!」
「水嶋君、瑠奈ちゃん……」
「怪我とかはないか?」
「大丈夫だよ。瑠奈ちゃんの屋敷に行くだけだって言われたから……」
 俺と瑠奈は部屋の中に入り、ゆっくりと扉が閉められる。
 正面に立っていたのは、この洋風の部屋には似合わない和服の着物を着た男性。さすがは理事長というような荘厳な雰囲気を漂わせている。背丈は俺と同じくらいだ。
「初めまして、二年四組の水嶋潤です」
「なかなか礼儀正しい生徒だな。私は常盤学院の理事長を務めている福原慎治だ。君と同じクラスにいる娘の瑠奈の父親でもある」
 理事長は軽く一礼をする。
 顔を上げた理事長の表情はかなり怒っているように思えた。表情には出ていないのだが、内からこみ上げる恐ろしさを兼ね備えた怒りが伺える。
 そして、怒りを持っていたのは娘も同じだった。
 瑠奈は俺の前に出て、
「ちょっと! あたしを連れてくることができなかったからって、つばさを誘拐するなんてどうかしてるわ!」
 さっそく親子喧嘩が勃発か?
「あたしを連れて行こうとしたあの二人も、うちのSPだって分かったわよ。同時にお父様が仕組んだことだってこともね」
 やっぱりそうだったのか。
 あの時の電話でこの屋敷につばさがいると分かったとき、連れて行った男たちは福原家に関係する人間だと思っていた。
 そして、屋敷に入る前に瑠奈と話したことと合わせて考えると、この一連のことを計画し実行させた張本人は、彼女の父親である福原慎治その人になるというわけだ。
 理事長は軽く笑みを浮かべる。
「さすがは私の娘だ。数多くいるSPの顔を覚えていただけでなく、私が考えたことまで分かったとは」
「ええ、お父様がそんな卑劣な考えを持っているなんて信じられなかったけどね」
「瑠奈が私の言うことを聞かないからこういう手段を取らざるを得なくなったのだ。つばさというのは百瀬君のことかな。瑠奈、自分の我が儘を何でも通そうとすると他人に迷惑がかかることを今回のことでよく覚えておくことだ」
 随分と厳しいことを言う人だな、瑠奈の父親は。
 でも、今の言い方は何だか俺も納得できないな。確かに瑠奈の我が儘で俺は今日、つばさと三人で同人誌即売会に行ったけど、それは少し違う気がする。
 瑠奈は更に怒りを露わにしていく。
「何よ、そのことを分からせるためだけにつばさを誘拐したって言うの? 迷惑をかけてるのはあたしじゃなくてむしろお父様じゃないの?」
「百瀬君に迷惑をかけることになってしまったことは謝ろう。しかし、その原因を作ったのは他ならぬ瑠奈、お前なんだぞ?」
「どういうことよ」
「瑠奈。今日は元々お前も参加する予定だったパーティーがあっただろう」
「そ、それは……」
 瑠奈は口ごもってしまった。
 今やっと、瑠奈が青柳駅に歩いてきた理由が分かった。
 瑠奈は自分の家のリムジンに乗らなかったんじゃない。乗ることができなかったんだ。同人誌即売会に行くと関係者に知られたら、リムジンを出すなんてもってのほか。誰にもばれずに俺たちのところまで辿り着くには歩くという選択肢しか残っていなかったんだ。俺たちが乗るような公共機関なんて利用方法は考えていなかったから。
 それで瑠奈は慣れていない道に迷って、三十分で着くところが二時間もかかったんだ。
「まあ、そのパーティーには私が出席していれば問題なかったんだが。しかし、成瀬さんのお嬢さんはちゃんと参加していたぞ。向こうからは何も言われなかったが、私としては瑠奈が少しみっともなく思えた」
 成瀬さんのお嬢さんというのは、生徒会長のことか。
 しかし、小学生とかじゃないんだから……任意参加でいいなら別に参加しなくても何ともないと思うんだが。金持ちのパーティーには縁がないから分からないけど。
「それでSPに瑠奈を探させた結果がなんだ? 同人誌即売会なんて一般市民の参加するようなイベントに行っているとはな! お前は何を考えているんだ!」
「お父様にあたしの何が分かるって言うの? あたしが何をして何のイベントに参加していようと、それは私の勝手じゃない!」
「瑠奈は福原家の一人娘なんだぞ! いずれはこの家の全てを取り仕切るお前がコスプレなんぞやってる暇はないんだ!」
「あたしはここに生まれたくて生まれた訳じゃないわよ! あたしだって……!」
 これはかなりやばいな。
 つうか、親に不服な子供の言う典型的な言葉も出たぞ。
 理事長の言いたいことも分かる。将来、財閥を担っていく一人娘が同人誌即売会なんて行くのはもってのほかだと思うこと。
 そして、瑠奈の言いたいことも分かる。自分の好きなことをするのは自由であって、それは誰からも文句を言われる筋合いはないということ。
 ――俺はどっちの立場なんだ?
 確かに、俺は瑠奈のせいで迷惑をかけられたかもしれない。
 ――つばさが女子の制服を着させられて、その場に鉢合わせてしまったこと。
 ――憩いの場に勝手に連れて行かされたこと。
 ――瑠奈と恋人同士ではないかと学校中に噂を立てられたこと。
 ――同人誌即売会には一般参加ではなくコスプレ参加をさせられたこと。
 思い返せば思い返すほど腹が立ってくる。
 でも、それは瑠奈にとって精一杯の感情表現で、俺とつばさにようやく見せてくれたようにしか思えない。その時の瑠奈は本当に楽しそうに見えた。
 そんなことに文句をつける方がよっぽど腹が立つ。
 だから、俺は――。
「あの、いいですか」
 瑠奈と理事長の間に割って入るように、俺は言った。
 俺は瑠奈の前に立って、
「確かに、瑠奈の言うことも理事長の言うことも分かります。でも、俺は瑠奈の気持ちを尊重したいです」
「水嶋君、これは私と瑠奈の問題だ。部外者は口出ししないでくれないか」
「いえ、俺にも関係あります」
「どういうことだ?」
「確かに瑠奈とは同人誌即売会に行きました。つばさも一緒です。でも、行こうと誘ったのは俺なんです」
「何だと……?」
 ――そうだよ、俺は子供だ。高校生になっても子供のままだ。
 嘘をつくことでしか瑠奈を守る術が見つからない。
 でも、今の俺はあの時とは違う。
 あの時は大人に向かって確かに対抗はした。でも、あの時はどこかで『大人に勝てるはずがない』という気持ちがあって、やっぱり諦めて逃げていたんだと思う。
 けど、今の俺は気持ちだけでも屈しないって決めたんだ。どんな相手でも気持ちでだけは絶対に逃げないことに決めたんだよ、俺は。
 俺は理事長の眼をしっかりと見る。
「瑠奈にそんな大事な用事があるとは知らずに、俺が一方的に行こうと誘ったんです。俺、そういう財閥の人が参加する催しがどれだけ大切かなんて知らないし、財閥同士の関係を保つにはどうすればいいかなんてことも知らないし」
「……」
「瑠奈がいなかったことで何か問題があったり、何か気分を害されることがあったとしたら謝ります。本当にすみませんでした」
 俺は深々と頭を下げる。
 目を瞑り、ただ深々と頭を下げる。
 その間、誰からも言葉が出ず、俺は何もない空間を彷徨っているように思えた。つばさが、瑠奈が、理事長がどんなことを思いどんな表情をして俺を見ているのかは当然分からない。
 しばらくしてゆっくりと頭を上げる。
 その刹那、
 ――バチンッ!
 左頬から痛みが走り抜ける。同時に口の中に鉄の匂いが広がっていく。
 俺は床にそのまま倒れた。
「潤!」
「水嶋君!」
 俺はどうやら理事長に右の拳で殴られたらしい。
 つうか、凄く痛え。
 嘘のことなのに殴られるなんて、凄く腹が立つんだな。嘘付くことは悪いけどさ。
「人の娘を何だと思ってるんだ! 瑠奈は将来、福原家を背負う人間なんだぞ! 君みたいな一般の生徒と付き合ってる暇はなんてない! 将来のために瑠奈には勉学を完璧にこなし、今から私の後ろで業務や催しに参加をさせる。君は瑠奈にするべきことに侵害したんだぞ! そんなことも考えられないのか!」
 理事長が俺にそう怒鳴り散らした。完全に怒ってしまったようだ。
 俺はゆっくりと立ち上がるが、瑠奈が俺の腕を掴み、
「もういいから。私のためになんかに言わなくていいから……」
 と、弱気な言葉を吐いていた。
 不覚にも俺は瑠奈に弱気な自分を前向きにさせてもらったんだ。七年間も逃げていた俺の気持ちを前向きにしてくれたんだ。
 今度は瑠奈の番だ。お前の気持ちを前向きにさせてやる。
「理事長」
「なんだ? まだ何か言うことでもあるのか?」
「ありますよ。理事長は瑠奈の父親として娘の何を知っているんですか?」
「何を分かっているような口で……」
「俺は四日間しか彼女と接していませんが、よく知っているつもりです。こいつ、学校では理事長の娘だからっていい気になって、多くの男子を下僕にして友達と言える生徒なんて全然いなかったんですよ。だから、俺には瑠奈が全然楽しそうには見えませんでした」
 理事長は少し顔を歪めている。
「ある日、瑠奈はつばさと出会ってその後、俺とも出会いました。あなたも知っているとおり、瑠奈が作って欲しいと言った憩いの場。俺はそこで初めて瑠奈の楽しそうな顔を見たんですよ。まあ、高校生がするようなことではないものをやっている時なんですけどね。今日の同人誌即売会でつばさと三人でコスプレをしているときも、瑠奈は本当に楽しそうにしていたんです」
 そうだ、今抱いている気持ちはあの時の気持ちと同じなんだ。
 河原でつばさが自分の過去を話してくれたときに抱いた気持ちと。
「だから、そんな瑠奈の楽しめることを奪わないでください」
「自分の立場を弁えろ! 瑠奈とは違う一般生徒の分際で……!」
「瑠奈は俺ともつばさとも、他の全ての生徒とも一緒です! 自分が楽しいと思えることをして何がいけないんですか! 他の人と楽しんで何がいけないんですか!」
「君に瑠奈の何が分かるんだ!」
「俺には分かるっ!」
 理事長に負けない声で俺は言う。
 あの時、俺はつばさのことを思いやっていることを知った。つばさが自然体でいられるように支えてやりたいと思った。
 今の俺の気持ちはそれと一緒なんだ。
 俺は今、瑠奈のことを思いやっているんだ。俺はこの四日間で見せてくれた笑顔を守ってやりたくなったんだよ。
 そう思える相手のことを、世間ではどう呼ぶ?

「俺にとって、瑠奈は大切な友達ですから」

 友達。
 向こうがどう思ってくれたっていい。下僕だと思われたっていい。でも、俺にとって瑠奈はつばさと同じくらいに支えたい存在なんだ。
 そんな奴のことは『友達』以外の何者でもないだろう?
「友達だから、俺は瑠奈の楽しいことを奪わせたくないんです。たとえ奪う人間が瑠奈の親だとしても、それだけは譲れません」
 俺と理事長とのやり取りを見ていて、つばさも何かを言う勇気がついたのか、
「瑠奈ちゃんは大切な友達です。だから、私も水嶋君と同じ気持ちです。瑠奈ちゃんは本当に水嶋君と三人でいると楽しそうで。だから、瑠奈ちゃんの笑顔を奪うようなことはしないでください! お願いします!」
 瑠奈を守りたいという気持ちが、彼の精一杯の声に乗せられた。
「俺からもお願いします!」
 俺とつばさは深く頭を下げた。
 また殴られたっていい。俺とつばさは踏ん張るつもりだ。
 再び静寂が部屋の空間を包み込む。
 それは凄く長く感じられた。
 理事長は何か言うのだろうか。また殴るのだろうか。
 静寂が長くなるに連れて、そんな気持ちが強まっていく。
 しかし、
「あたし……」
 部屋中に響く、透き通った小さな声。
 静寂を破ったのは意外にも瑠奈の声だった。俺とつばさが顔を上げて瑠奈の方を見ると、彼女は一歩、二歩と前に踏み出して理事長の方を向いた。
「あたし、潤とつばさと一緒にいる時、今までの中で一番楽しかったの。憩いの場に三人でいるときも。同人誌即売会でコスプレをしているときも。でも、それは財閥の娘としてはあるまじきことだってことも分かってる。でも、私はそれが楽しくてしょうがないのっ! この四日間が凄く楽しかったのっ! これからは家のことだってちゃんとするから。だから、私が楽しいことをするのを許して。それと、潤とつばさを責めないで……二人は何も悪くないから。今日もつばさが行きたいってことを聞いて、私が潤に頼んだことなの。だから、本当に今日の事はごめんなさい!」
 瑠奈は精一杯の気持ちを理事長に告げて、深々と頭を下げた。
 どうやら、瑠奈は気持ちを前向きにできたみたいだな。今まで一度も見たことのない瑠奈がそこにはいる気がする。
 そして、理事長は……。
 ――ぱちぱちぱち。
 ゆっくりと拍手をした。なぜだ。
 そして、なぜか理事長の表情がかなり和らいでいる。
「ようやく、瑠奈の気持ちが本人の口から聞けた」
「……お父様?」
 瑠奈も何やらこの反応には違和感があるようだ。
「今回のことは私が仕組んだことだ。本当に申し訳なかった。水嶋君と百瀬君には迷惑をかけてしまったようで。特に水嶋君には痛い目を遭わせてしまって」
 理事長のその言葉に耳を疑った。そして、訳が分からない。
「あ、あの……どういうことですか?」
「いやいや、最近瑠奈も年頃になってきたからか……父親の私とあまり話すこともなくなってね。ここは、一度瑠奈の本心をぜひ本人から聞きたくなったんだよ」
「……つまり、今日の事は別に怒っていないと?」
 すると、理事長は凛とした表情で、
「ああ、そうだ」
「……そ、そうなんですか」
 としか言えないだろ。
 まったく、じゃあ……俺は殴られ損じゃないか。けっこう痛かったぞ、あれは。
「私の演技はどうだったかな?」
「……こっちは本気になりましたよ」
「あははっ、だけどね。今回は瑠奈の件もそうなんだが、水嶋君。君についても少し試そうと思っていたんだよ」
「俺を試す? それってどういうことですか?」
「既に知っているかもしれないが、去年の人気投票で優勝した男子生徒はその後すぐに退学をしてしまったんだ。だから、今年の優勝した生徒がどんな青年なのか私自身が直々に確認したくなってね」
「それで俺のことを殴ったってわけですか」
「そうよ。それはいくら何でもお父様でも非道だと思ったわ」
 いや、その言葉は瑠奈にも当てはまる部分もあるぞ。
「それは本当に申し訳なかった。それに、水嶋君がまさか嘘を言ってくるとは思わなかったからね。そこには半ば怒ったかな」
「すみません……」
「いや、全ては瑠奈に本当のことを言わせるためだと思えば納得だ。きっと、君は最初からそのつもりで言ったんだと思っているからね。はははっ」
 別にそこまでは考えてなかったけど。
「それに、昨日の朝、校内に貼られていた記事を見てますます君とは一度話したくなってね。たしか、これだったかな」
 理事長はメイドさんに例の昨日の記事を持ってこさせた。
 二度と見ることのないものだと思っていたのだが。
 理事長が記事を広げて俺たちの方を見せると、瑠奈はまさに疾風のごとくその記事を奪い取ってビリビリに破り捨てた。
「全部処分してって言ったのにどうして取っといてるのよ!」
「はははっ、この記事をネタにすれば瑠奈と話す機会ができるかと思ってね。一つだけ捨てずに持っていたんだ。今、瑠奈が破ったせいで全部なくなってしまったがね」
「どうしてがっかりしているのかしら?」
「はははっ、別にがっかりしてないさ。父親として瑠奈と話せて嬉しいんだぞ?」
 何だか今のやり取りを聞いていると、理事長はけっこう瑠奈のことを溺愛しているような気がする。
 だからこそ憩いの場を作ることも許したし、きっとエロゲーとかの存在にも気づいていて、それも瑠奈の好きなことだから黙視しているんだろう。もちろん、昨日の記事をもみ消すことも娘を思ってのことだと思う。
 でも、こういう父親だからこそ、この傍若無人な瑠奈ができたんだろうな。自分が一言言えば理事長が動いて何でも叶えられるから。
 まったく、ある意味ではこの親にしてこの子ありなのかも。
「はあっ……」
 思わずため息が出る。
「しかし、水嶋君。君は人気投票で優勝するだけあって立派な青年だね」
「別に俺はたいしたことはしていませんよ。色々とありましたが」
「あははっ、これだったら瑠奈のことを任せられそうかな」
「瑠奈のことを?」
 瑠奈の方に振り向くと、彼女も父親が何を言っているのか分からないようなぽかんとした表情をしていた。
「いや、何でもない。とにかく、これからも瑠奈に付き合ってやってくれ。水嶋君と百瀬君」
「はい」
「は、はいっ!」
 俺とつばさはそう返事をした。
 とにかく、何事も『終わりと良ければすべてよし』と言うべきだろうか。理事長も瑠奈の趣味を受け入れていたらしいし、むしろ瑠奈が自分の気持ちを言ったおかげで気分が良くなってるんだから別にいいか。
 唯一、ある言葉が心に引っかかっていることがあるけど、な……。


第14話に続く。
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