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 所々に芝生も広がっているパブリックスペースには、意外と人は少なかった。道路に近いということもあり出入りしやすいためか、家族連れや学生同士という組み合わせが多い。
 当然、俺たちのようなコスプレをしている人は全然いない。
 運良く木でできたテーブルと長いすがあったため、俺たちはそこを陣取って瑠奈がテーブルの上にサンドウィッチが入っているタッパーを置いた。
「さあ、着いたからさっそく食べましょう」
「そうだな。今日は色々と外だったから疲れた……」
「そうね。だからこそ、あかりちゃんは天使に思えたわ」
「妹にしたかったんじゃなかったのかよ」
「私にかかればたとえ天使だって妹にしてみせるわ。あかりちゃんみたいに可愛ければの話だけど」
 そんな奴がいたら是非お目にかかりたいものだ。
 つうか、姉さんに言われてあかりを妹にするの諦めたんじゃなかったか?
 俺と瑠奈は長いすに座ったのだが、つばさは座らずに立ったままだった。
「どうした? つばさ」
「……あ、あの。私、お手洗いに行きたくて。水嶋君、一緒に行ってくれると嬉しいんだけど」
「ああ、いいぞ」
 俺が快くそう言うが、つばさは申し訳なさそうに「ごめんね」と言った。
「じゃあ、その間に私が全部食べようかしら」
「食うな。つうか、三人分なんて全部食えるわけないだろ」
「ううん、あかりちゃんへの愛さえあれば三人分なんて量は朝飯前なのよ!」
「一応、姉さんも作ってるんだけどな。それと、今は昼飯だ」
「全部あかりちゃんが作ったと思って食べる!」
「……そう思うのは勝手にしていいけど、俺とつばさの分も残しておけよ」
「分かったわ」
 何だか俺の分は食べられそうな気がするな。
 あと今、瑠奈の笑い声が「うふふっ」から「うへへっ」と変わったのは気のせいだと思っておこう。
「じゃあ、つばさ。一緒に行くか」
「う、うん……」
 俺とつばさはシャンサイン60内にある一番近いトイレに向かう。
 つばさはメイド服姿が恥ずかしいのか、俺の袖をさりげなく掴んでいる。
 あと、こういう奴っているんだな。執事とメイドという組み合わせが珍しいのか写真を撮ってくる奴。端から見れば男と女だから。
 ――いや、待てよ。端から見れば男と女?
 その時ようやく分かった。つばさが俺と一緒にトイレに行きたがった理由。
 一番近いトイレを見つけ、男子の方に一緒に入っていく。すると、つばさの身体が震え上がった。
「はうっ……」
 つばさの可愛い喘ぎ声にトイレにいた男性の殆どが俺たちの方に向いた。
 中には興奮してる人までいるぞ。これはまずい状況だ。
「ご、ごめん。一人で男性用のお手洗いに行くのが怖くて……」
「そうか……」
 当たり前だ。つばさは女よりも女らしい身なりや性格だし、今も見れば分かるが注目する男たちから、申し訳ないが犯罪の臭いがする。
 ここは俺が何とかしないといけないな。
「やっぱりつばさは個室の方がいいよな」
「う、うん……昔は立ってしてたんだけど、自分のでも見るのが怖くてお風呂以外は極力見ないことにしてるんだ」
「なるほどな」
 自分のでもってことは、他人のあれももしかしたら見えてしまうかもしれないトイレではもちろん個室でないとだめってことか。
 つばさの顔を見ると、今にも泣きそうな表情である。
 そんな表情をされるとますます女らしく見えるぞ。
「大丈夫だ、個室が空いたら俺がすぐにつばさを入れてやるからな」
「ありがとう、水嶋君……」
 きっと、こういうことも瑠奈は予想してたんだな。
 あいつ、つばさに対してだけは思いやりのある奴なんだ。少しは見直したぜ、妹を食べようとしていたが。
 トイレを出て行く男ども全員、つばさのことを見ている。
 女でないことは分かっていたとしても、男の娘ということで見ているのかもしれない。メイド服姿だし。こいつ、相当レベルが高いから。
「学校ではどうしているんだ?」
「中に男子がいないかどうか確認して、入っていくんだ。あとは、人の少ない特別棟や部室棟のトイレを使うときもあるかな」
「お前も苦労してるんだな」
「でも、こんな大勢の人が来る場所のトイレじゃ絶対に人がいない時間なんてないと思った。だから、水嶋君に一緒に行こうって……」
「遠慮なく言ってくれていいんだぞ」
「うん。でも、写真を撮りに来る人もたくさんいたし……それどころじゃなかったしね。水嶋君も、私も」
「そうか」
 あくまでも自分よりも来てくれる人を優先したつばさ。
 お前、本当にメイドだよ。女だったら。
「こういうイベント行きたかったんだけど、なかなか来られなかったんだ」
「今みたいなことを考えて、か?」
「うん。情けない話だけど……」
「別にいいんじゃないか。今はこうして来てるわけだし」
「そう、だよね」
 若干、つばさに笑顔が戻ったようだ。
 そして、ようやく個室が空いたのでつばさを連れて行く。
「俺、手洗いのところで待ってるから」
「う、うん」
 顔を赤らめて恥ずかしそうにしながら、つばさはゆっくりと個室の扉を閉めた。
 せっかくトイレまで来たので、俺も用を足すことにする。
「しかし、本当に男の娘ってやつが好きな人がいるとはな……」
 思わず口から出てしまった。
 幸い、周りに人がいなかったので良かったが仮に俺が言ったような人がいたとしたら、確実に睨まれただろう。
 用を足して手を洗ったら、俺はつばさから言った通りに手洗い場のところで待つ。
 そして、つばさも男だから早かった。
 すぐにつばさの入っていった個室の扉が開いて、そこからきっと男子トイレには一番似合わない見た目の美少年が出てくる。
「ごめんね、待たせちゃったかな」
「大丈夫だ」
「もうすぐお昼ご飯だし、しっかりと手を洗わなくちゃ」
 つばさが手を洗っている間も、俺はまるでつばさの執事であるかのようにすぐ側に立つ。そして、周りに視線を配っていく。
 トイレを出るまではつばさは危険に晒されていると思っているからな。
「水嶋君、ハンカチ持ってる? メイド服に着替えたときに忘れちゃったみたい」
「ああ、持ってるぞ」
 しょうがない、手を拭いてしまったが貸さない他はない。
「何だかこんなことまでしてもらっちゃって、今の水嶋君は何だか私の執事みたい」
「別に今も執事の気分ってわけじゃないぞ」
「そうだよね。それに、メイドに仕える執事っていうのもおかしいし」
「そうだな」
 でも、俺がいることでここに来ることができたなら、それ以上に嬉しいことはない。友達としてつばさの力になれたのだから。
「でも、憩いの場ではつばさだって俺と瑠奈のメイドみたいに接してるじゃないか。紅茶を淹れてくれたり、俺や瑠奈の話を聞いてくれたりしてさ」
「……うん」
 つばさはハンカチを返す。
「嬉しかったから」
「えっ?」
「私、憩いの場にいるときほど……水嶋君と瑠奈ちゃんと三人でいるときほど、今までで楽しかったことはなかったよ」
「つばさ……」
「瑠奈ちゃんがいなければメイド服を普段から着ようとも思わなかったし、あの日、水嶋君と会ってなければ憩いの場はなかったと思うし」
「確かに、初めて瑠奈に連れて行かされたときに言われたけど、作ろうと考えた元々の原因は俺にあるらしいからな」
「うん。だから、私……水嶋君には感謝してるよ。ありがとう」
 俺とつばさは互いに顔を見つめ合った。
 彼女、いや……彼の顔に浮かんでいるのは紛れもない笑みで、それは俺だけに向けられていることが分かる。
 昔の俺は想像できただろうか。
 一週間前の俺たちは名前くらいしか知らなかった。
 三日前まで俺たちは会話をしたこともなかった。
 そんな奴が今は俺に向かって、笑顔を見せているんだ。しかも、女らしくある方がいいのか男らしくある方がいいのかという複雑な悩みを抱えているような奴が。
 きっと俺には想像できなかっただろう。
 そして、彼から言われたことに返す言葉は決まっている。
「俺もだ。ありがとう」
 今の俺はつばさに笑顔を見せているのだろうか。
 そんな疑問が俺の頭の中によぎるのだが、つばさは笑顔を見せている。きっと、俺もそれなりにつばさにいい表情を見せることができているんだろう。
「瑠奈ちゃんの所に戻ろうか。私、お腹ペコペコだよ」
「そうだな。俺も腹が減った」
 俺とつばさはトイレから出て、瑠奈の所へ歩き出した。
 人ごみの中を俺がかき分けて、つばさはその後をついていく。
 同人誌即売会には多くの人が参加するとは知っていたがこれほどとはな。朝の入場の待機行列といい、今日はこの身で実感させられた。
 そして、シャンサイン60の建物から出てパブリックスペースに入ったときだった。

「ちょっと、離しなさいよっ!」

 聞き覚えのある声が響き渡る。
「水嶋君、あれっ!」
 つばさが指さした先。
 そこには瑠奈と黒スーツの男の二人組がいた。一人の男が瑠奈の右腕を掴もうとするが、瑠奈が勢いよく振り解く。
 しかし、もう一人の男が瑠奈の左腕を強く引っ張り彼女の片足が浮いてしまう。
「つばさはここで待ってろ!」
「う、うん!」
 気づけば俺は走っていた。
 もちろん、黒いゴスロリお嬢様の衣装を着ている瑠奈を助けるために。
 俺の足音が聞こえたのか瑠奈は俺の方に振り向いて、
「潤、助けてっ!」
 その声に周りにいた人の視線が瑠奈の方に集中する。黒スーツの男二人はまずい状況になったと判断したのか、二人で瑠奈の両腕を引っ張ってここから逃げるつもりらしい。
「そうはさせるか!」
 俺は陣取ったテーブルに置かれていた瑠奈のコスプレ用の黒い傘を持って、全速力で瑠奈の所まで走っていく。
「瑠奈!」
 そう叫び、俺は閉じている傘を勢いよく瑠奈の右腕を引っ張っている男の背中に突いた。
「痛えっ!」
 突かれた場所である背中を押さえ、瑠奈の右腕が解放される。
 同じように左腕を引っ張っている男の背中にも傘で突いた。悲鳴を上げて、瑠奈の左腕を離す。
 両腕を解放された瑠奈は勢いよく俺の胸の中に飛び込んだ。
「瑠奈、大丈夫か?」
「もっと早く来なさいよ! 危うく連れ去られるところだったじゃない!」
「それはすまなかったな」
 それはまるで小さな子供のように、顔を赤くしながら涙をこぼし……誰にも見られないように俺の服に顔を埋めた。
「あんたは私の執事でしょ……」
「こういう時だけ執事にするなよ。まったく」
 ゆっくりと優しく瑠奈の頭を撫でてやった。
 そして、俺は二人組の男の方を見る。
「お前らの目的はなんだ? 瑠奈を誘拐して身代金でも取るつもりか?」
 背中を突いてしまったせいか、二人の男は背中に手を当ててうずくまっていた。なので、今のままでは二人の顔が見えない。
 俺は二人の男が答えるまでじっと待っていた。
「……はははっ」
「何を笑っているんだ」
「なあ、君は福原家のお嬢さんだけ救えると思ってればいいと思っていないかい? まったく、高校生はまだまだ子供なんだな」
「どういう意味だ?」
「そこのお嬢さんのことは諦めるさ。ただ、俺たちの狙っているのはお嬢さんだけじゃないってことだ」
「……」
 捨て台詞なのか、笑いながらそんな言葉を吐いて二人の男は逃げていった。
 ――高校生はまだまだ子供なんだな。
 まるで、七年前の時の犯人から言われたような内容だ。まあ、その時は『ガキが調子に乗るな』というような台詞で言われたんだが。
 ――俺たちの狙っている相手はお嬢さんだけじゃないってことだ。
 狙っている相手が瑠奈だけじゃない。それって、どういうことなんだ? その言葉の真意が全く掴めなかった。
 瑠奈がようやく泣き止んで俺に顔を見せたときだった。

「きゃあああっ!」

 ――悲鳴。
 それも、俺のよく知っている声だ。
 悲鳴がした方へ振り向くと、そこにはメイド服を着ている水色の髪の少年……いや、あれは間違いなく、
「つばさ!」
 そう。その声の主は百瀬つばさのものだった。
「水嶋君! 助けてっ!」
 言われるまでもなく、俺はつばさのところに向かって全速力で走り出す。
 ――瑠奈だけ救えても意味がない。
 そこに答えはあったんだ。
 俺は目の前にいる瑠奈を助けることだけを考えてしまったために、他の事なんて全く考えてなかった。
 瑠奈を救えたとしても意味がないというのは、男達が狙っていたのは瑠奈だけじゃなかったという解釈ができる。
 そして、その別のターゲットがつばさだったという訳なのか。
「つばさ!」
 俺が再び叫ぶと、つばさも俺の名前を叫んだ。
 どうやら灰色のスーツに身を包んだ一人の男に抱えられて、遠くに見えるもう一人の男のところに連れ去るらしい。そこには黒い車がある。
「つばさを離せ!」
 俺は必死に追いかけた。段々と激しくなる呼吸とともに。
 しかし、その時だった。
「えっ……!」
突然、足が震え始めてしまいその場に蹲ってしまう。
 そして、俺の中であの時の出来事がフラッシュバックする。俺が今見えている光景はシャンサインじゃない。あの時の遊園地だ。
 そして、そこに出てくる登場人物は、俺のことを蔑むように微笑む犯人に、抱えられているのは……ち、小さな女の子、だと……?
『正義のヒーロー気取りをしたマセガキ』
 当時の俺の心を酷く抉った言葉。俺の耳元でその言葉が囁かれる。
 そうだ、さっき言われたことと同じようなことだ。
 俺はその言葉を言われ……俺を痛めつけた後に女の子は連れ去られてしまったんだ。その時の俺は、身体に力が入らずまるで痙攣が起きたように、無意識に全身が震えていた。
 そして、それは今も同じだ。
 あの時の出来事に対して俺は怖がっている。だからか思うように力が入らない。
「潤!」
 瑠奈の呼びかけによって、ようやく我に返ることができた。
 俺は再び前方を見るが、つばさも犯人の二人組の男もいなくなっていた。周りの人たちのざわめきも落ち着きつつある。
「あの時と同じだ……」
「えっ?」
「七年前のあの時と同じなんだ……」
 俺は今の一件で殆どのことを思い出した。「七年前」にあったことを。
「よく分からないけどどうしたのよ。急に走るのを止めて膝なんかついちゃって……」
「俺はそうなっていたのか」
「……あのさ、潤の言っていることが全く私には分からないんだけど。七年前って言ってたけど、それって今のことに関係があるの?」
 いつにない瑠奈からの優しい問いかけに、俺は何もためらうこともせずに七年前のあの日のことを話していた。
 九歳の子供が大人である犯人に立ち向かったこと。
 その結果、俺は大けがを負うまでに殴られ蹴られたこと。
 そして、誘拐された女の子を救えなかったこと。
 全て赤裸々に瑠奈に話した。
 瑠奈はそのことにまったく笑うこともせず、情けないと言うこともせず……黙って俺の話を聞いてくれていた。
「なるほどね。でも、何だか……今と似た内容の話をどこかで聞いた気がするわ」
「……俺も同じだ」
 それはきっと、『彼』が二、三日くらい前に言ってくれた話だろう。
「幼なじみからそのことを忘れろって言われて、当時の俺はそれに従ったんだ」
「でも、それは賢明な判断だと思うわよ」
「だけど、七年経ってやっと分かった。忘れろって言っても、その女の子が助かったわけじゃない。犯人に立ち向かえたわけでもない。俺はきっと逃げていたんだ、何もできなかった弱くて情けない自分から……」
「潤……」
「俺は何も変わってなかったんだ。本当に忘れたのに、つばさと会ってその時の記憶が夢に出て……しまいには今、つばさを助けられなかった。七年も前のことなんかに怯えて! 俺は七年前と同じ、無謀にも大人に立ち向かおうとしたガキだったんだ……」
 俺の心の中には悔しい気持ちでいっぱいだった。
 それは七年前の犯人と今日、つばさを誘拐した男達に対してではない。
 ――自分のことを何も分かっていなかった自分。
 ――忘れるという臆病なことをしていた自分。
 ――七年経っても何一つ変わっていなかった自分。
 悪夢からは逃げて、大人になれば自然と考え方も変わっていくだろう、と甘いことを考えていた自分に対して一番悔しかった。
 だけど、
「そんなことない!」
 瑠奈の方を向くと、彼女は俺の方を真剣な表情で見ていた。
「あたしにとって、潤のことは四日間しか知らない。でも、潤は心細かったつばさの支えになってる。それはつばさの一番近くにいるあたしが知っていることよ」
「それとこれとは話が違うだろ! 俺は誰一人助けることのできない……」
「だったらどうしてさっき私を助けることができたのよっ!」
 俺の話を遮るように瑠奈は泣きながら言った。
「確かに七年前の潤は一人も助けられなかったわ。でも、今は違う。今の潤は私を助けることができた。あんたは十分変わることができてるわよっ!」
「瑠奈……」
「それにあたしは潤が臆病だとも思ってないわよ。悔しいんでしょ、それって諦めてないってことなんでしょ。だったら、今から私と一緒につばさと助ければいいだけの話じゃない!」
 瑠奈は俺の胸に頭を当てて、
「今、潤はあたしの執事なのよ。弱気なことを言うのは主として許さないんだから……」
 今度は弱々しく、ぽつりと呟くぐらいの声で言う。
 そうか、俺はどうして七年経って思い出すことができたんだ?
 ――あの時の自分が悔しくて、諦めきれていないから。
 諦めきれていないということは、俺はきっと心のどこかで逃げずに立ち向かおうとする気持ちがあったということなのか。
 つばさに出会って、俺はあの夢を見た。
 つばさが誘拐されて、あの時の記憶が身体を通じて蘇った。
 それはきっと、俺が今……あの時の自分に対して決着を付けるために与えられた機会だと考えることができる。
 それに、あの時と違って俺は今一人じゃない。
 俺の目の前で泣いている瑠奈がいるんだ。自分から一緒につばさを助けようと言ってくれる奴がここにはいるんだ。
「すみません、お嬢様」
「潤……」
「今だけですが、私はお嬢様の執事ですからね。諦めたりなんて絶対にしません」
 俺はハンカチで瑠奈の眼からこぼれる涙をそっと拭く。
 瑠奈は、ふっと笑う。
「あたしの言うことが分かればいいのよ。さすがは私の執事ね」
「……はい」
 しかし、これから行動を起こそうとしてもどうすればいい。二人の男は車を使って逃げた。ということは、この会場の近くにはいない可能性が高い。
 考えを少しずつまとめていこうとしたその時、俺の携帯電話が鳴る。その相手は、
「つばさ!」
「は、早く出なさい!」
「はい!」
 俺はすぐに通話状態にする。
『水嶋潤。今、君は福原瑠奈と一緒にいるね……?』
 これはさっきの二人の男のどちらかなのか? どうやら機械を通して声を変えているようなのでそれ以外の可能性もあり得るが。
「ああ、その通りだ。つばさは無事なんだろうな!」
『無事だ』
「お前らの要求はなんだ!」
『……今から福原家の屋敷に来い。話はそれからだ』
 そして、通話は途切れた。
「で、つばさからだったの?」
「いえ、機械を通した声なのでおそらくつばさではないと思います」
「きっと犯人ね。それで要求はなに? お金なら大抵の誘拐犯が要求する金額なら持ってるから」
 犯人はなぜ瑠奈の屋敷に行くように誘導するんだ?
 ――いや、思い出せ。
 順序として、最初は瑠奈を誘拐する予定だったんだ。でも、それが失敗してその結果つばさが誘拐されてしまった。
 そして、瑠奈を誘拐しようとした男の言った言葉と、つばさが誘拐されるタイミングを考えれば答えは簡単だ。
 最初から俺や瑠奈を福原家の屋敷に連れて行くことが目的だったんだ。瑠奈を誘拐しようとし、失敗をしたらつばさを誘拐する。どちらかでも誘拐が成功すれば犯人からの要求という形で俺を誘導することができるからな。
 なら、それらの計画を実行しようと考えた人物に会いに行く必要がある。
「福原家の屋敷に行きましょう」
「えっ……? どうして私の家に?」
「犯人側からの要求です。今回のことについて知っている人物は絶対にそこにいます。謎解きはランチの前にでも致しましょう」
 俺にとってなのだけれど。でも、呑気に昼飯のサンドイッチを食べている場合じゃない。一刻も早くつばさのいる福原家の屋敷に向かわないと。
「……分かったわ」
 瑠奈はゆっくりと頷いた。
 ――今回の一連の出来事を全て晴らすために。
 ――つばさを助けるために。
 ――そして、七年前の自分と決着を付けるために。
 もう、あの時のように助けられないで終わらせるわけにはいかない。瑠奈と一緒に全てを明らかにしてみせる。
 確固たる思いを胸に、俺は瑠奈と共に歩き始めた。


第13話に続く。
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