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 日曜日。
 空は雲一つなく、どこまでも青く広がっている。行き先はどこであれ、今日は最高のお出かけ日和と言えるだろう。
 現在の時間は午前八時五十分。
 昨日、瑠奈に朝九時集合と念を押されたので俺は十分前に青柳駅に着くように家を出て、予定通り待ち合わせ場所に到着した。
 基本、待ち合わせ時間が決められたら五分前くらいに来るようにはしているのだが、相手は瑠奈だ。五分前じゃ文句を言われるかも知れないと思い、大事を取って十分前に着くようにしようと考えた。
 その甲斐もあってか、駅前にはまだ誰もいない。瑠奈もいないようだし、つばさも……。
「……って、あれはつばさか?」
 その人は水色のスキッパーシャツと中には灰色のTシャツを着ていて、下はキュロットスカートにスパッツを穿いているという服装。靴は明るいブラウンのスニーカーを履いていた。
 いかにも女らしい服装であるが、髪の色は俺の見覚えのある水色だ。
 とりあえず、俺は声をかける。
「つばさ。おはよう」
 俺はゆっくりと歩きながら声をかけてみるが、つばさは全く返事をしない。もしかして俺の声に気づいていないのかと思い彼の肩を叩いて、
「つばさ」
 今度は名前だけを言ってみる。
 すると、俺の声にさすがに気づいたのかこっちに振り向く。まあ、肩を叩かれたからかもしれないが。
「……私?」
 つばさが振り向いた瞬間に思わずある部分に目線が行ってしまった。
 ――こいつって胸があるのか?
 普通の女子並みにある。もしかしたら、つばさは女子としている方が落ち着くからか、そういう部分にも気を使っているのか。最近の服はもしかしたら胸があるように見せられるようにできている……なんてアホなことを考えてしまった俺が情けない。
 とにかく、何か違和感がある。
 そう、例えば今のこの声にも……可愛らしい雰囲気は変わっていないのだが、少し高めの声色のような気がする。
「もしかして私のこと、つばさだと思ってる?」
「当たり前だろうが。こういうことを言っては失礼かもしれないが、声とか胸とかには違和感があるけどな」
「へえ、もしかして……君が水嶋君?」
 何故か納得したような表情で、俺のことを見上げてくる。
「もしかしてって……って、もしかして」
「やっと気がついたみたいだね。そう、私はつばさじゃなくてその姉の夏來(なつき)。だから、声とか……む、胸とかに違和感あってもお、おかしくないんだよ?」
「恥ずかしいなら別に言わなくていいですよ」
 俺の感じた違和感は当たり前のことだったのか。
 俺の目の前に立っている人は実は女性で、それがつばさのお姉さんで百瀬夏來さん。
 しかし、よく似ているな。最初は後ろ姿だけだったからつばさだと勘違いしてしまった。今だったら正面から見ているから別人だと分かるが。
「あの、俺のことを存じていたんですか?」
「うん、つばさから話は聞いているからね。水嶋君と常盤学院のお嬢様である福原さんのことについては」
「そうですか」
「ここのところ急に学校のことを楽しそうに話してるから、二人のことが少し気になっちゃって。特に水嶋君、あなたのことはね」
「話は聞いていますよ。同性よりも異性の友達の方が多いって。だから、同性の友達である俺に興味を持ったと」
「うん。まあ、それだけじゃないんだけど」
「えっ?」
「彩ちゃんの弟ってどういう人なのか気になっちゃって」
「あ、彩ちゃんってもしかして……姉の知り合いなんですか?」
「正解だよ! さすがは彩ちゃんの弟だねっ!」
 なんだ、このやけに子供っぽい反応は。
 しかし、今の推理くらいは小学生でもできることだ。
「そう、彩ちゃんとは大学の同じ学科で同じサークルに入ってるの」
「ああ、舞踏研究会ってやつですか? たまに練習に付き合わされていますよ」
「だから彩ちゃんは上手なんだ。私を上手くリードしてくれるし」
「……もしかして、姉さんの踊り相手というのは夏來さんなんですか?」
「あれっ? 聞いてたの?」
「てっきり夏來さんの相手は男性だと思っていました」
「うちのサークルは女子の方が多いから。彩ちゃんは背も高いし、私と身長差がちょうど良かったから一緒に組んでるの」
 確かに姉さんは女子の中では背の高い方に入るだろう。宝塚に入れるくらいというと大げさだけどスタイルもいいし、練習に付き合っている初心者の俺でも安心して踊れるくらいに踊りを教える才能もあるし。
「なるほど……」
「彩ちゃんはマドンナって言われてるよ。それでね、なぜか私はマスコットだって言われるんだよ? 水嶋君はどう思う?」
「そうですね……」
 夏來さんは不機嫌な表情で俺のことを見る。
 どうやら、マスコットと呼ばれることに本人は不服らしい。
 しかし、俺から見ると夏來さんはかなり身長が低めだし……制服を来たら高校生と言っても納得できるような幼い容姿だし。しかも子供っぽい反応を見せるし。
「いいんじゃないですか? マスコットって可愛らしいイメージがありますし」
「そ、そうかな? で、でも少し子供っぽくって気に入らないんだよね……」
 一応、本人は大人っぽく見られたいみたいだ。
「きっと、マスコットと呼ぶ人たちは姉さんと同じくらいに夏來さんにも魅力を感じたんじゃないですか。きっと、少し幼く見えるだけですよ。希少価値高そうですし」
「……と、年下の男の子に励まされるなんて考えもしなかったな」
 別に励ましているつもりはないんだが。
 それよりも、さっきから気になっているのが夏來さんの横にある少し大きめの赤いスーツケースだ。もしかして夏來さんもコスプレをやるのか?
「夏來さん。横にある大きな荷物のことなんですけど……」
「ああ、これね。今日販売する同人誌が入ってるの」
「販売するということは、夏來さんはサークル参加というものを?」
「そうだよ。つばさも一緒に行くかどうか聞いたら、友達と一緒に行くかもしれないって言ってたから。水嶋君はそれで来てくれたんでしょ?」
「まあ、そんな感じですね」
 どうやら、瑠奈の言ったことは本当であると確定したみたいだ。きっと、憩いの場に来る前につばさは瑠奈にこのことを話していた。それで、つばさの代わりに俺に今日の話をしてきたってわけか。
「ありがとう。つばさ、凄く楽しみにしていたから」
「いえいえ」
 そして、そんな話をしていたら、
「お姉ちゃん! 遅れちゃってごめんね」
「噂をすれば本人が来たね」
「あっ、水嶋君……おはよう」
「ああ、おはよう」
 つばさが少し大きめのバッグを持ってやってきた。
 彼の服装は上にカジュアルなワイシャツに細めのネクタイをつけて、下はジーパン生地のホットパンツを穿いていた。女子が着ているとすればボーイッシュな服装だと言える感じだろう。というか、つばさの場合はそうとしか見えない。
 今日は晴れていて少し温かいからか、ワイシャツの袖を少しまくっていた。そして、ホットパンツを穿いているからか、白くて艶やかな足首が丸見えである。
「そ、そんなに見られるとちょっと照れるかな……」
「すまない」
「別にいいよ。あと、水嶋君……お姉ちゃんと知り合いだったの?」
「いや、つばさだと勘違いして声をかけたら夏來さんだってだけだ」
「あっ、私とお姉ちゃん……似てるって言われることたまにあるんだ。ほら、髪も同じような色だしそこで勘違いしちゃったのかな」
 自分がまさにそこの部分で勘違いしてしまったので、逆に何も言えない。
 しかし、つばさと夏來さんが並んで立つと……これじゃまるで姉妹みたいだ。さすがにつばさは男だからか夏來さんよりは背が高い。
 どちらかが男だと今から誰かに言ったとしても、俺がおかしいんじゃないかと思われるくらいに二人は完全に姉妹だ。そう思うと、つばさの体格も女子とあまり変わらないってことなんだな。
「そういえば、瑠奈ちゃん遅いね」
「そうだな……」
 腕時計を見ると時刻はもうすぐで九時になるというところだ。
 待ち合わせを指定した本人が一番遅いということはよくある。別に待ち合わせ場所に五分か十分ぐらいなら遅れて来ても構わないので、そこら辺は気にしないが。
 夏來さんにメールアドレスを交換して欲しいと言われ、お互いの携帯の赤外線ポートを合わせているときに、
「はあっ、はあっ……」
 少し遠くから息を荒げたお嬢様がやってきた。
「やっと着いたわ……」
 夏來さんの持っている同じくらいのサイズのキャスター付きバッグを持ってきていた。あの中に俺の着るコスプレの衣装が入っているんだろう。
 そんな瑠奈の服装は、白いワンピースに桃色のレースのカーディガンという春らしく爽やかな格好で、靴はハイヒールである。何だかんだで見た目はお嬢様らしく他の女子とは違ってどこか上品な雰囲気を漂わせる。
 ただ、今の瑠奈の表情はそんな爽やかな雰囲気を一掃させるくらいに、疲れが溜まっているような感じだった。
「どうしたんだよ。そんなに表情して……」
「朝七時前に家を出たら、意外と距離が長くて……」
「……瑠奈の家ってそんなに遠いのか?」
「別にそんなに遠くはないと思うけど……」
「それだったら電車とかタクシーで来れば良かったんじゃないのか? それ以前に家のリムジンとかで来る方法もあったのに」
「ああもう! 色々とうるさいわね潤はっ! 今日はお出かけなんだから自分一人でここまで来たかったの! それに電車ってどうやって乗ればいいのか分からないし、タクシーなんて庶民の使う車なんて乗りたくもないわ」
 勝ち誇った表情で言うことでもないだろ。つうか、瑠奈は電車に乗ったことがないのか。それに、俺にとってはタクシーはリッチな人間の乗る乗り物だと思っているのだが。
「瑠奈ちゃんは単に道に迷っちゃっただけなんだよね?」
「そ、そうよ。私らしくないことだけどね」
「そこは素直に認めるんだな」
「と、とにかく! みんな待ち合わせの時間までに来るのはいいことだわ」
 瑠奈だけが遅れたけどな。
 まあ、道に迷ってこいつなりに大変な思いをしてここまで来たんだろうから、何も言わないでおこう。
「あなたが例の福原さん? つばさの姉で夏來と言います」
「あっ、ええと……妹さんではなくて、つばささんにはお世話になってます」
 瑠奈は夏來さんに軽く会釈をした。
 つうか、こいつが敬語を使うところは初めて見たぞ。違和感以外何もない。
「やっぱりお嬢様っていうのはスタイルも良くて上品そうで、はあっ……羨ましいな。ちょっとごめんね」
 そう言うと、夏來さんは瑠奈の胸を人差し指で軽く押した。見た感じでは夏來さんの指が瑠奈の胸に埋もれている。って、何を実況してるんだ俺は。
「な、何をしているんですか! 潤のいる前でっ!」
「やっぱり胸も大きいし。はあっ」
「ええと……」
 さすがの瑠奈も戸惑っているようで、俺の耳元で、
(どうやってフォローすればいいのよ)
(夏來さんは大学でマスコットと呼ばれているそうだから、とりあえずは可愛いとでも言っておけばいい)
 俺のアドバイスに瑠奈は軽く頷き、
「夏來さんも可愛らしいと思いますよ。別に夏來さんもそれなりにあると思いますし、む、胸なんて大きさなんか関係ありませんよ! って、何を言わせてるのよ潤はっ!」
「お前が勝手に話したんだろうが」
「とにかく、夏來さんも自信を持てばいいと思います。マスコットのような可愛らしさが好きな男子だっていると思いますし!」
「……ほんと?」
「ええ、そうですよ! 潤はそういう人がタイプらしいですから!」
 瑠奈も他人をフォローするようなことが言えるのかと感心していたのだが、前言撤回。全ては俺に責任を負わせるために言っていたのか。
 夏來さんは俺の方に視線を向けてくる。
「ま、まあ……そういう人も好きですよ」
「そっかぁ」
「なのでそんなに落ち込まなくても大丈夫ですよ。なんせ国文科のマスコットなんでしょう?」
「……そうだよね。うん、何だか元気出たよ!」
「それは良かったです」
 何とか元気になってくれたので一件落着。
 さて、今から同人誌即売会『シャンサインクリエイション』の会場になっている、池袋のシャンサイン60に向かうわけであるが。
 当然、駅前で集合しているということは電車に乗って池袋まで行く。
 しかし、集合場所を決めた瑠奈は一度も電車に乗ったことがないらしい。何だか滑稽すぎて笑う気にもなれない。
「瑠奈。一般庶民が使っている電車に乗るんだがそれでもいいか?」
「しょうがないわね。さすがにここから池袋まで歩くのは無謀だから」
 歩くつもりだったのか。半日以上はかかるぞ。
「じゃあ、今から池袋までの切符を買うか」
「そうだね」
「あっ、私は別にいいわ。これがあるから」
 そう言って瑠奈が取り出したのは、電子マネーカード『SUUCA』。確か、この電子カードにお金をチャージしておけば電車賃もそうだし、駅の構内にある色々な店でも使える優れものだ。定期券としても使える。高校が地元である俺やつばさには縁のない代物だった。
 用意周到だな、意外と。つうか、他にも色々とツッコミどころが多すぎる。
「その中に金はチャージされているのか?」
「上限いっぱいまでチャージしたから大丈夫よ」
「さすがはお嬢様だな」
 確か上限は二万円だった気がする。
 夏來さんも通学定期としてSUUCAを持っていたので、瑠奈と同じようにお金をチャージしているので大丈夫らしい。
 ということで俺とつばさが切符を買い、難なく電車に乗って池袋駅まで行くのであった。


 池袋シャンサイン60。
 池袋駅を降りてからすぐ、人が多いなとは思っていたのだが、大多数はシャンサインクリエイションに参加する人だった。
 夏來さんはサークル参加なので、サークル参加者専用の入り口から入ることになりここでお別れ。開始してから再び会おうということになった。
「ねえ、あたしたち……ここで待たなきゃいけないの?」
「そうだよ、瑠奈ちゃん」
「どうしてあたしがこんな一般庶民どもの群れの中でじっとしてなきゃいけないのよ。こうなったらスタッフでも呼んできて特別に入れてもらおうかしら」
「みんな同じ参加者なんだから、ここは大人しく待とうぜ」
「うん、瑠奈ちゃんの気持ちも分かるけど……今は水嶋君の言うことに私は賛成かな」
「分かったわよ、待てばいいんでしょ? 待てば」
 まるでふてくされた子供のように瑠奈はそっぽを向いた。
 しかし、開始前だというのにこんなに人がいるとは思わなかった。待機行列は道路まで伸びていた。
 現在の時間は午前十時すぎ。
 開始時刻は午前十一時なので、あと一時間弱ある。サークル参加の人は色々と準備があるようなので夏來さんにとってはちょうど良い時間だが、俺たちにとっては少し早すぎたようだ。
「だけど、こんな早い時間なのによく人が並ぶな」
「きっと手に入れたい同人誌があるからじゃないかな。人気のあるサークルの同人誌は早めに行かないと売り切れて手に入らなくなるし」
「ああ……なるほど」
「壁サークルって言われる特に人気のあるサークルには大抵、長蛇の列ができて手に入れるのに時間がかかるらしいよ」
「とにかく、目的の物を手に入れるためにはこの待っている時間も惜しまないという感じか」
「そういうことじゃないかな」
 一般参加者の皆さん恐るべし、と言うところであるがその気力は尊敬できるな。瑠奈みたいに文句は言わないが、これから一時間弱待つというのは俺も少しきつい。
 夏と冬に有明で行われる同じようなイベントで一番過酷なのは、こういう待機行列にいる時間というのも頷けるな。夏は炎天下の中で暑いだろうし、冬は風でも吹いていたら寒いだろうし。春の爽やかな気候ということだけ今日はまだマシなのかもしれない。
「夏來さんのサークルはその壁サークルってやつなのか?」
「ううん、違うよ。壁サークルって呼ばれるのは本当に数少なくてそんなサークルだったら、お姉ちゃんが自分で持って行けるような同人誌の数じゃないもん」
「そうか。人気があればそこの同人誌の需要は増えて、それに伴って販売する同人誌の冊数も増えていくのは当然の話か」
「何人かで組んで一般参加して、それぞれの壁サークルに並んで他の人の分をまとめて買うっていう人もいるみたい」
「なるほど、チームプレイが問われる場面があるってことなんだな」
 なかなか奥深い話だ。需要と供給。個人プレイではなく時にはチームプレイも必要だという社会的に大切な事柄が二つ絡んでいるとはな。思わず腕を組んで感心してしまう。
「私だったら普通に押しのけてでも買っちゃうけどね」
「ああ、福原家の令嬢だからか?」
「当たり前じゃない。あと、こういう待っている時間ももったいないし、そういう時間をゲームに回せないかって考えてるの」
「じゃあ、PNPでもやればいいじゃないか。けっこうやってる人は周りにいるし」
「そ、それも考えたんだけどね。潤の着る衣装を考えなきゃいけないせいで、そんなことまで手が回らなかったわ」
「それは俺のためにやってくれてすまないな」
 恐らく、そんなことは考えていなかったのだろう。こういう待ち時間があるとは考えもしなくて、会場に着いたらすぐにコスプレをするんじゃないかと思って、きっとこんな何もしないような時間はないと思ったんだろう。
「まったくだわ。あんたのことを考えて選んできたんだから感謝しなさいよね」
「ああ。ちなみに、女装ってことはないよな?」
「さあ? どうかしらね」
「……」
 この口調といい、待たされていることに相当な不満を抱いているようだ。
 俺の衣装なんて考えるのが面倒だったら、いっその事高校の制服でも良かったんじゃないかと思う。俺の感覚としては。
 俺たちはそれから四十分ほどその場で待っていた。
 少し背伸びをして列の後方を見ると、とんでもない長さになっていた。まるで、池袋に漫画やアニメ好きの人間を全て集めてきたといった感じである。
 そして、スタッフが動き始める。
「この列の中でコスプレ参加をされる皆さんは、コスプレ参加の参加票をスタッフに提示して会場に入ってください!」
 スタッフの一言により動き始める人もちらほらいる。その多くが女性だ。
 当然、俺たちもコスプレ参加なので動き出そうとするが、
「おい、参加票なんて俺は持ってないけど」
「そこのところは大丈夫よ。昨日の夜に福原の人間だって本部に連絡をしたらコスプレ参加の参加票を三枚、速達で届けてくれたわ」
「やることの格が違うな……」
「ふふん、もっと褒めるがいいわ。あたしのおかげでコスプレ参加できるんだから」
 別に俺はコスプレ参加したいと思ってはないんだが。
 しかし、つばさは非常に嬉しそうにしている。俺と瑠奈だけが聞こえるくらいに彼は「ありがとう」と言った。
「つばさがコスプレ参加をしたいって言ったんだろ? 参加票のことは知らなかったのか?」
「あっ、うん……木曜日に水嶋君が帰った後にこのことを話したから。それで、調べたら事前に申し込みが必要で、確認書と同時に郵送で届けられる参加票が必要らしくて……それで、瑠奈ちゃんが頼んでくれたんだ」
「でも、昨日の夜っていうのは?」
「水嶋君も一緒に行くなら行こう、って瑠奈ちゃんが言ってくれて。それで、水嶋君が一緒に行ってくれるって言ったから昨日の夜に」
「なるほどな」
「まあ、潤がいないとつばさにとって大変な時があるから」
「つばさが?」
「それは会場に入ってから分かることよ。強いて今言えることは、異性の私よりも同性の潤の方が絶対に適役だってこと」
 つばさのことを見ると、何だかとても恥ずかしそうにしていた。
「よく分からんが……分かった。とにかく、その参加票を俺とつばさに渡してくれ」
「分かってるわよ」
 瑠奈は俺とつばさにコスプレ参加の参加票を渡す。白い紙の上にオレンジ色で『シャンサインクリエイション コスプレ参加票』と書いてあった。
 これで人の大群から無事に抜けられるな。
「じゃあ、入り口に行きましょう。私についてきなさい」
 瑠奈の一言により、俺とつばさは瑠奈の後についていく。何とか入場の待機行列から抜けて、近くにいたスタッフに参加票を見せると、ご丁寧に入り口まで案内された。
「どうもありがとう。あなたの持ち場に戻っていいわよ」
「はい。ごゆっくりとお楽しみください」
 今のやり取りからして、このスタッフは瑠奈のことを知っていたんじゃないのか? 昨日の夜に参加票を頼んだから。まあ、それは別にいいか。
 そして、午前十時五十分。
 俺とつばさと瑠奈は見事に会場であるシャンサイン60に足を踏み入れた。


第11話に続く。
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