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 廊下は走ってはいけないという決まりがある。
 しかし、今の俺はそんなこともお構いなしに走っていた。幸い、教師とは会わなかったため俺は誰にも止められることなく、生徒会室まで辿り着いた。
 中の灯りが点いている。ということは、誰かいるということだろう。
 俺は生徒会室の中に入った。
「失礼します」
 とりあえず挨拶をし生徒会長のことを探そうと、一歩を踏み出したときだった。
「あの記事はどういうことなのか教えてもらおうじゃない!」
 威勢のいいこの透き通った声は。
 声の主の方へと歩いていくと、後ろ姿であるが金色の長髪で青くて派手なコサージュが見える。間違いなくあれは瑠奈だ。
 予想通り、何らかの行動を起こしていたな。
 瑠奈の後ろ姿の横からちらっと、青紫色の髪をしたツーサイドアップの女子がニコニコとした表情で椅子に座っているのが見えた。
「あら?」
 その女子に俺の存在が気づかれてしまった。
「さっそく、福原さんの王子様が登場のようですね」
 瑠奈が俺の方に振り向くと、人を蔑むかのように微笑んで、
「馬鹿なことを言うのもいい加減にしなさいよ。こんな奴、王子様でもなければ恋人でもないわ」
 ここまで徹底して言われると逆にスッキリするな。
 対して青紫色の女子は上品に微笑んでいた。
 この女子こそ、常盤学院の生徒会長。成瀬琴音(なるせことね)。
俺の知っている限りだと、成瀬財閥の一人娘であり瑠奈と同じく成績優秀な万能なお嬢様ということだ。生徒会長になったきっかけは他に誰も立候補がいなく、理事長である瑠奈の父親が直々に依頼したらしい。生徒の自主性を重んじる高校にとってあるまじきことだ。
 しかし、そんな中でも成瀬琴音は生徒会の仕事を完璧にこなし、今までになかったユニークな企画を発案して、まるで自分は立候補したかのように積極的に活動している。
「それに、何が福原さんよ。白々しい」
「うふふっ、私はただ水嶋君がいるからそう言っただけですよ?」
「……瑠奈、会長とは知り合いなのか?」
「ええ。まあ、財閥同士の付き合いって言うのかしら。一学年しか違わないし、昔は何か式典があって参加したときはよく一緒にいたけどね」
「なるほどな」
 瑠奈と会長は昔から知り合いだったのか。財閥のお嬢様どうしだしな。
 でも、まさか実際にそういう関係を持つ人間がいるとは。ドラマや小説とかのフィクションではそういう世界観があるけど。
「じゃあ、どうしてそんな私に敵意を丸出しにした態度を取っているのですか?」
「はぁ? 琴音、知らないなんてことはないわよね?」
 瑠奈は制服のポケットから折ってあった紙切れを出して広げる。それは俺がさっき昇降口前の掲示板で見た例の新聞記事だった。
「私と潤が付き合ってるかどうかなんて、よくこんなガセの記事を許可させたわね。この学校の規則では掲示板に何か貼る場合には、生徒会の許可が必要なはずよ」
 さすがは理事長の娘。この学校の規則を覚えている。
 これを書いた本人よりも先に許可をした生徒会の方から話を聞き出す方が確実だからな。瑠奈も頭の回転はいいようだ。
 瑠奈の鋭い指摘に会長は少しでも動揺するかと思いきや、顔色一つ変えようとしない。それどころか、上品な笑い声が増したように感じる。
「何がおかしいの?」
「うんうん、何でもないですよ」
「これを許可したのは琴音、あなたなの?」
「……」
 それはどうでしょう、と言うように微笑んだままだ。
 きっと、許可の判を押したのは会長だろう。この記事の内容を見れば一目瞭然だ。付き合っている云々の話だと、当然、二人のことが主になる。しかも、その中の一人が瑠奈。理事長の娘がメインという内容にそう簡単に生徒が判を押せるわけがない。
 ただし、昔からの知り合いである会長なら別だ。きっと、俺の知らない瑠奈のことを知っているからこそ押せるはず。
 おっとりしているからなのか、それとも何かを考えているからなのか……常に笑顔でいるな。この人は。
「答えなさい!」
 瑠奈のきつめな口調にも動じない。全く恐くないんだな。
「……そうですよ。私が押しました」
「どうして?」
「だって、面白そうじゃないですか。人気投票で一番になった男子と理事長の娘。しかも、普段は誰にも指さえ触れさせないあなたが、自分から相手の手を引っ張っていくなんて。それは事実でしょう? 私、ちょっと感動しちゃいました」
「感動すると判子も押しちゃうの?」
「内容はともかく、瑠奈が男子の手を引くなんて考えられませんでしたから。ごめんなさいね」
「ごめんで済むことじゃないでしょ!」 
 どうやら、会長は写真の瑠奈の姿に感動してしまったらしい。そして、それによって理性が欠けている間に許可の判を押してしまったわけか。
 ドジなのか天然なのか分からないぞ、この人。
「でも、まさかここまで大盛況だとは思いませんでした。きっと私と同じような気持ちになっているんでしょうね」
「少なくとも会長と同じ気持ちになれる人はこの学校にはいないと思います」
「ごめんね。瑠奈に付き合わせちゃって」
「いえいえ。実際に昨日は瑠奈に付き合わされていたんで。それよりも俺はこの記事を書いた人を知りたいんですが」
「あぁ、その人達についてのことは……」
「その人達?」
「ええ、新聞部の部員たちのことです。数人しかいない部なんですけどね。その人達からの手紙が今朝、生徒会の机の上に置かれていて……」
 すると、会長はデスクの引き出しから白い封筒が出される。四、五枚くらいだろうか。そして、どの封筒も力のない字で、
『退学届』
 と、そう書いてあった。
「退学届って何なんですか」
「よく分からないんだけど、理由は常盤学院に通う気力が無くなったからだそうです」
「唐突ですね、それも」
「……でも、瑠奈はたくさんの男子を下僕として引き連れていたそうじゃないですか」
 多少、笑いを込めて会長が話すと、瑠奈が不機嫌そうな表情で会長のことを見る。
「私は琴音と違って寂しい身体じゃないしね」
「瑠奈、それはあまり言って欲しくない言葉ですね」
 会長はあくまでも笑顔を絶やさずに。
 しかし、会長は胸の部分に手を当てていた。どうやら瑠奈に言われたことを少なからず気にしているようだ。
確かに会長の見た目は高校生にしては多少幼く見える。あかりを少し大人っぽくしたという感じか。
「ちなみに退学届を出した生徒は全て男子でした」
「ま、まさか?」
「ええ、水嶋君は分かってくれたようですね。きっと、退学した原因はこの写真にあったんだと思いますよ」
 会長の指さす写真はもちろん、瑠奈が俺の手を繋いでいる写真。
 新聞部の男子の一人が俺と瑠奈の姿を見つけ、カメラで写真を撮った。だが、その写真は全員にとって望んでいない内容だったんだ。
 なぜなら、その男子達は瑠奈の下僕の一味だったから。
 俺と瑠奈が付き合っているんじゃないか。そうでなくても、特別な関係を持っているんじゃないか。それを悟った瑠奈の下僕である男子達にとって、常盤学院に来る理由がなくなった。
 ただ、きっとそこで終わらなかったんだ。
 ――『捨て台詞』ならぬ、『捨て記事』書いた。
 主に瑠奈のことについて書いてあったけど、きっと俺に復讐するためだったんだな。人気投票で一位になった上に、下僕として仕えていた瑠奈を取られた……と思ったら、そんな記事を書きたくなってしょうがなくなったんだろう。
 まったく、姉さんの言っていたようなことが俺にも起こったよ。
「俺に対する嫉妬なんでしょうかね」
「うふふっ、水嶋君は優しいですね。瑠奈のせいにしないなんて」
「潤……」
「俺はただ、瑠奈が何か悪いことをしたとは思ってませんから。あと、話は変わるんですが常盤学院を卒業した姉から聞いたんですよ。去年の人気投票で優勝した人、退学したって」
「なるほど……つまり水嶋君は私に訊きたいんですね?」
「ええ」

 ――人気投票の本当の目的は何ですか?

 俺ははっきりと会長に訊いた。
 この人気投票は不自然すぎる。一般生徒の知らないところで行われていること。何度も言うがその時点で疑わしい。
 この人気投票は特に福男や福女を決めるわけでもない。
 優勝したら生徒会に入れる権利を与えられるというわけでもない。
 会長は一度、深呼吸をして、
「私も詳しくは知らないんですけどね。人気投票は毎年行っていた恒例行事なんです。しかし、全員が全員その行事に賛成してはいませんでした。人気のある生徒は注目されてちやほやされる」
「でも、そんなことは当たり前のことでしょう」
「それは当たり前だとは分かっていても、それを憎む人たちが増えていったんです。リアルに充実している人、いわゆる『リア充』な人を憎む人たちが」
「それは人気投票で一位になったからですか?」
「私も詳しくは知らないんですが、リア充と呼ばれる人たちは友達関係や恋愛関係が充実している人たちのことを言うんですよ。あと、普段の生活が充実している人とか」
「はあ」
 人気投票で一位になり何かとちやほやされる。すると、生徒からの人気が高まって人間関係やあわよくば恋愛関係でも充実した日々がいずれ訪れるって訳か。
 で、そんな奴が気にいらねえって奴がいるのか。
 その気持ちは分からないわけではないが、俺にとっては非常に興味のない話だ。
「別に俺は人気投票で一位になったからって、これぽっちも変わってませんよ。まあ、確かに俺は瑠奈に手を引かれる場面もありましたけど、その理由も元を辿っていけば人気投票とは別なわけで」
「それでも、世間ではあなたをリア充だと思ってしまうんですよ」
「はあ」
 会長はこん、とかわいく咳払いをして、
「とにかく、そんなリア充な人を憎む人たちが増えたので……こう考えたそうです。人気投票で優勝した人を常盤学院から消してしまおうと」
 ああ、時たま聞いたことがある。
 ――リア充爆発。
 というか、爆発というよりも追放の方が合っている気がするけど。
「つまり、人気投票というのは常盤学院で一番人気がある生徒を選ぶためにあるのではなくて……」
「この学校から消す次のターゲットを選ぶためにあったってことね」
 瑠奈が威勢良く口を挟んできた。
「そういうことになりますね」
「そして、去年……初めてそれが実行されたんですね。俺の姉さんの話は全て、その人たちのしたことだったということですか」
「ええ、去年も人気投票から少し経ったところで退学した人がいたと」
「……そうですか。それで、今年は俺になってしまったってわけですか」
「もしかしたら、新聞部の部員の人はそのことを知っていたんでしょうね。だからこそ、水嶋君を追い込むようなことを考えた」
「確かに、たとえ事実とは違っていても『瑠奈と付き合っている』ということを学校中に知れ渡らせれば、男子の大半が下僕らしいんでそれらを全て敵に回すことになるって寸法なんですね」
 そう考えると、あの記事もなかなか考えられて作られたものだったってことか。たしかに、百聞は一見にしかずとも言うけど、たとえ嘘でもあの記事は見た生徒にとってはインパクトのあるものだった。
 その内容を簡単に頭から拭いきれない……よな。
「でも、相手が悪かったわね」
「る、瑠奈?」
「このあたしを敵に回すなんて百年、いえ……千年以上早いわよ。こんな記事なんてなかったことにするわ。全力で」
「まさか、そんなことできるわけがない」
 俺が即刻で口を挟むと、瑠奈は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「私を誰の娘だと思って?」
「……あ」
 そうか、こいつは理事長の娘。
 少しでも瑠奈が何かを言えば、学校の関係者は全力で動くことだろう。まあ、今回の場合は内容も内容だし全力で記事はなかったことにしてもらおうか。
「初めてお前が理事長の娘で良かったと思えたよ」
「……べ、別に潤のためじゃないんだからね! こ、こんな記事を書かれちゃったらわ、私が困るからで……潤だけが困るなら別にやらないんだから、分かってる?」
「分かってるよ、ありがとう」
 俺は素直に瑠奈に感謝の意を表すと、瑠奈は狼狽してしまう。
 それを見て会長はニヤリと笑って、
「でも、本当は付き合ってるんじゃないですか?」
 きっと冗談交じりだと思うが、会長はそんなことを言ってきた。俺は軽く愛想笑いをするが、瑠奈は全力で、
「潤は恋人なんかじゃない! 潤はそ、その……下僕! ただの下僕! 昨日はたまたま手を引いただけで特別な意味なんてないんだから! 潤も琴音も分かった?」
「……ああ」
「ふふっ、瑠奈がここまで動揺するなんて今まで見たことがなかったですね。潤君、瑠奈のことをよろしくお願いします」
「は、はい」
「下僕なんかによろしくしないわよっ!」
 何だか今だけ会長から違う呼び方で呼ばれた気がするけど……まあ、別にいいか。
 どうやら、瑠奈にとっては俺のことを下僕だと思っているらしいな。だけど生憎、俺は誰の下僕にもなるつもりはないんだが。
 でも、話が丸く収まるならそういうことにしておいてもいいか。表面上は。
 そして、俺と瑠奈は生徒会室を出て教室へと戻る。
 何か変な反応でもされるかと思いきや、昨日までと変わらずに普段通りにクラスメイトは接してくれた。
 たぶん、つばさや由衣、坂井が記事の内容は嘘であると言ってくれたからだろう。
 友達がいて本当に良かったよ。


第9話に続く。
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