日記と音楽感想、アニメ感想を中心に更新しています。リンク&トラックバックなどはフリーです。

2017/09 |  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 | 2017/11

タイトルロゴ


 私立常盤学院高等学校。
 その校舎は主に三つの棟によって成り立っている。
 今、俺がいる普通教室を中心に集められた教室棟。理科実験室や音楽室などの特別教室が集まっている特別棟。そして、多くの部活の部室が集まっている部室棟。
 だが、この三つの棟はやけに大きく造られている。なので、空き教室となっている所もかなり多いらしい。
 正門を入って既に数分ほど経っていた。
 ゆっくりと歩いていたせいか、やっと俺のクラスである二年四組の教室が見えてきた。生徒が帰ったのか、俺の耳に響いてくるのは自分の足音だけ。
 二年四組の教室の前まではそうだった。
「ねえ、本当に大丈夫かな……?」
 その声が聞こえたのは、俺が教室の後ろの扉を開ける寸前のこと。
 教室の中から何やら女子らしき声が聞こえてくる。
「大丈夫よ。今だったら他の誰かにその姿を観られたとしても大丈夫だと思うわ。それに、今は私たち二人だけだから安心して」
「う、うん……そうだよね」
 もう一人、別の女子らしき声が聞こえる。会話からすると、この二人が教室の中にまだ残っているらしい。
 しっかし、放課後の誰もいないはずの教室。
 俺が読んできた小説や漫画の中にも、放課後の教室のシーンが数多く存在した。まさか、現実にそんなことがあるとは。
 大抵は男女の二人が……色々とやってしまっているというのが通例であるが、まさか女子同士だとは。
「とりあえず、二人が出るまで待ってみるか」
 と、小声で呟いてみて教室から出るのを待ってみることにした。
 しかし、数分経っても二人が出てくることはなかった。ずっと教室の中から会話が繰り広げられていて、いっこうに出る気配もなく逆に俺が教室の中に入れそうな方向に転じることもなかった。
 だけど、俺はいつまでもここで待ってはいられない。由衣と坂井という俺を待つ人間がいる限り、早急に俺はこの扉を開けなければならない。
 そっと、扉に耳を当ててみる。
 一分ぐらい経っただろうか。ようやく二人の会話が落ち着いた頃を見計らって、俺はゆっくりと教室の扉を開ける。
「忘れ物しちまった……」
 俺はあたかもたった今、ここに来たかのように少し呼吸を荒げながらそんな言葉を言ってみたりする。
 俺の机の方にゆっくりと視線を向けると、うちの制服を着ている女子生徒二人が夕焼け空をバッグにして立っていた。
 ただし、驚いた表情で俺のことを見ながらである。
 夕焼けではっきりとは分からないが、一人の女子は金色の長髪で青いコサージュの髪留めをしている。どこか上品な顔立ちで驚く表情の中にも、まるで俺のことを得体の知れない異物のように少し蔑んでいるようにも感じられる。
 もう一人の女子は髪の長さはミディアムで色は水色。オレンジ色のカチューシャをしている。こちらは本当に俺の存在に驚いているようで、恥ずかしいのか少し頬が赤くなっている。
 黙って俺の机に向かうのも何だか気まずいので、
「あー、俺はただ忘れ物を取りに来ただけだから俺のことは気にせずに。邪魔したようだったら悪かった」
 軽く釈明の言葉を告げて、俺は自分の机の方に向かう。
 二人は俺の机の近くにいる。
 だから、俺が自分の机に近づいていくと……段々と二人の顔が鮮明に俺の視界の中に入ってくる。
 そして、俺の机まで辿り着き、中を覗いてみると……あった。
 手に取るとそれは坂井の持っていた賞金の入っている封筒と同じだった。中身を見て、賞金がちゃんと入っていることも確認できた。
 清掃の時に机から落ちたかもしれないと不安になったけど、無事で良かった。これで由衣に好きな物を奢ってやれる。
 俺は一つ、安堵の呼吸をする。
 そのまま教室から出ようとしたところだった。

「待ちなさい」

 扉に手をかけたときだった。
 威勢のいい命令口調な言葉が教室内に響いた。
「なんだ?」
 誰がその言葉を言い放ったのか。俺にはすぐに分かった。
 後ろを振り返り、二人の姿を見ようとすると……金髪の方の女子が俺の目の前に立っていた。
「あんた、確か……水嶋潤、だったわよね」
「そうだけど」
 新年度が始まって三週間余り。
 俺は男女問わずクラスメイトの殆どと話して、その中の何人とは友人として付き合っている。そう言うと、俺は積極的な人間だと思われるかもしれないが、大抵は親友である坂井や幼なじみの由衣伝いである。
 まあ、有り難いことに向こうから話しかけてくれたり、新学期だからか何かとクラスメイトと話し合う機会があって、俺もそれなりにクラスに溶け込めることはできていた。
 しかし、当然クラスの中には全く話したことのないクラスメイトもいる。
 その一人が目の前に立っている金髪で胸が大きめな女子、福原瑠奈(ふくはらるな)。
 ここ、私立常盤学院高等学校の理事長の一人娘である。容姿端麗、成績優秀、おまけに理事長の娘という完璧な女子。男子からの人気が滅茶苦茶あるのだとか。
 我が二年四組の大多数の男子が、彼女の……下僕らしい。それは学年に、そして全校の男子生徒に広がっている。何だか典型的な孤高のお嬢様という感じで、俺の読んだことのあるラノベにもいるような奴だ。
 そんな状態が一年の入学した頃から続いているのか、女子からは一定の距離を置かれている。なので、俺も同じクラスメイトなので姿はしょっちゅう見るけど、話したことは一度もなかった。
 しっかし、福原は凄く不機嫌そうだ。
「ノックもしないで入ってくるなんてどういう神経してるのよ」
「ここは学校の教室だ。お前の部屋じゃないだろ?」
「いい? 私たちは今、凄く大事なことをしていたの。そんな場所にノックの一つもしないで入ってくるなんて考えられないわ」
「大事なことなら放課後の教室でやるべきじゃないと思うんだが」
「だ、だって……誰も来ないと思ったからっ! 何であんたはよりによってこんな時間に教室に戻ってくるのよっ!」
 と、俺に文句ばかり言ってきやがった。
 まったく、福原は自分勝手……というか、主に女子から距離を置かれているお嬢様という印象がそのまま現れているな。
 けれども、そんな言葉を言っている時の顔はとても可愛らしい。これがきっと、男子を自分の下僕へと導いている理由なのだろう。
 何を言われようとも、可愛らしいあなたになら……というような感じだろうか。俺は全く興味のないことだけどな。
「何か言ってみたらどう?」
「いや、俺はただ昼にもらった賞金を忘れただけだ」
「賞金……って、人気投票の賞金のこと?」
「ああ、その通りだ」
「はぁ。そんなちっぽけなお金のために戻ってくるなんて所詮、人気投票ナンバーワンのあんたも庶民だったってワケね!」
 不機嫌な表情で露骨にため息つくと間もなく仁王立ちをして、勝ち誇った表情で福原はそう言ってくる。どれだけ感情豊かな奴なんだ。
 つうか、庶民だから五桁の賞金にも驚くし、机の中に忘れたと気づいたら急いで取りに戻るんだよ……とか、そんなことを言っても分からなそうだからあえて言わない。
「ああ、俺は庶民だよ。福原とは違って」
「何よ、その言い方」
「とにかく、俺はお前にとってちっぽけな金のためにただ戻ってきただけだ。もうそれはバッグの中に入れたし、俺のことを待ってる奴もいる。じゃあ、俺はこれで帰る」
 まあ、もう一人の女子のことが少し気になるが、いいだろう。きっと、福原の友達なんだろうな。
 今度こそ教室を出ようと扉の取っ手を掴むのだが、
「ま、待ちなさい!」
 今度の呼びかけは幾分焦りが込められているように思える。
「今度はなんだ?」
「……ねえ、せっかく男子が来たわけだから、この制服姿について評価してもらおうかしら」
「ひえっ!」
 その叫びが、もう一人の女子の初めて聞く声だった。
 声の主の方に振り向くと、遠くに今にも泣き出しそうな女子が視界に入っていた。多分、今の福原の言葉にとまどっているからだと思うが。
「潤」
「下の名前で呼び捨てかよ」
「まあいいじゃない。とにかく、潤にはこの子の今の姿についての感想が欲しいんだけど。ちょっとこっちに来なさい」
 と、福原は俺の手を掴んで強引にもう一人の女子の方に連れていく。
 俺はもう彼女に従う他はないのか。
 水色の髪の女子の顔をはっきりと見ると、中性的な感じでいわゆる童顔のような顔立ち。だけど、女子制服を着ているからもちろん自然と女子に見える。
「え、ええと……み、水嶋君っ!」
「俺のこと知ってるのか」
「あっ、う、うん……もちろん、だよ」
 俺の前で緊張しているのか、言葉が詰まっている。
 何て言えばいいのか全く分からない。
 というか、女子に対して制服姿が似合っているかどうかを評価させること自体間違っている気がするのだが。むしろこれは失礼に値するのでは。
 昼休みの人気投票でこの子は俺のことを知ったのかな。福原がそんなことを言わせることってことはこの子は一年生なのだろうか。
 たとえそうであっても、何と言えば良いのか。
 お互いに言葉が出てこない。
「あ、あのっ!」
 どうやら水色の髪の女子は勇気を振り絞ったようで、その声は少し甲高い声だった。
「なんだ?」
「に、人気投票で優勝……お、おめでとうございます!」
 緊張の中で見せた可愛らしい笑顔で俺にそんな言葉を言ってくれた。
 福原の傍若無人な扱いの後に言われると、これがたとえ本心からでなくてお世辞だとしても凄く嬉しい。というか、救われる。
「どうもありがとう」
 その言葉を言う俺の今の表情は笑顔なのだろうか。まあ、どうでもいいか。
「え、えっと……そ、それで……わ、私のこの姿ど、どう思うかな?」
「そ、そうだな」
 本人直々に訊かれては答えないわけにはいくまい。
「よく似合ってると思う」
「そっか、良かった」
 ほっとした表情で、水色の髪の女子は胸を撫で下ろした。
 何でほっとするのかが分からないが。それだけ、常盤学院の制服が気に入らなかったりしたのだろうか。それとも似合う自信がなかったのか。
 正直、とても似合ってると思うけどな。俺から見れば。
「どうして、君は俺にそんなことを訊くんだ? 別に女子なんだから似合うかどうかなんて気にしなくても大丈夫だと思うんだが」
「えっ……?」
 水色の髪の女子ははっとした表情で俺のことを見てくる。
 何か俺はまずいことを言ってしまったのか?
 そして、聞こえてくるため息。それは福原瑠奈から出たものだった。
「潤、今までこの子のことを女子だと思ってたの?」
「当たり前だろ。制服も似合ってるし、おまけに福原よりもよっぽど女々しくて女性らしいけどな」
「悪かったわね! つばさよりも女々しくなくて!」
「つばさ? この子の名前はつばさって言うのか」
 俺はもう一人の女子……つばさの方を向いて改めて顔を見ると、つばさの額からは汗がにじみ出ていた。夕日が煌めかせている。
 しかし、『つばさ』……どこかで聞いたことのある名前だ。
 腕を組み、俺はそっとつばさの顔を覗き込んでみる。
「み、水嶋君……顔が近いよ」
「おっと、すまない」
 いや、何だかどこかで見たことのあるような顔だ。
 遙か昔に見たようにも感じるし、つい最近も見たようにも感じるし。どっちにしても、不思議な女子だなと思った。
「まったく、男子なのか女子なのかも見分けられないなんて人気投票一番っていうのも廃れてるわね」
「別に俺は人気投票なんて興味はない。それに、男子か女子かって……福原は一体何が言いたいんだ?」
「……ここまで言ってもまだ気づかないの?」
 不機嫌を超えてしまったのか、福原は俺のことを呆れた表情で見ている。
 そして、福原はつばさの方を指さして、

「言っておくけど、つばさは男子だから」

 その言葉はとても真実味に欠けていた。
 しかし、その言われている本人の方を見て一応確認しようとする。彼女……いや、彼なのか? つばさは俯いていた。
「なあ、つばさ」
「……」
「お前は男……なのか?」
 俺はできるだけ優しく問いかけると、
――こくり。
 ゆっくりとつばさの顔が縦に動いた。
「そうなのか」
「それに、つばさは私たちと同じクラスメイトよ。気づかなかったの?」
「ああ、もちろん……」
 福原から『つばさ』という名前を聞いてから薄々とではあるがもしかして……とは思っていた。信じられないことではあったが。
 百瀬(ももせ)つばさ。
 さっきも話したけど、クラスメイトでまだ話したことのない中の一人。
 百瀬だと分かった瞬間に思い出したことなのだが、こいつはやけに女々しい。いや、女々しいと言っても気持ち悪い意味ではない。ただ、女子よりも可愛らしい部分がけっこうあるというだけのこと。
 そう、俺に文句ばっかり言ってる福原よりかはよっぽど女々しい。
「何だか今、凄く気に障るようなことを言われた気がするけど」
「気のせいだと思うぞ」
 しかし、男だと分かってから百瀬を見ると一段と可愛く見える。ここまで女子の制服が似合う男子も他にいないだろう。
「それで、どうして放課後の教室で百瀬に女子の制服を着せようとしたんだ?」
「そ、それは……」
 福原は目線を逸らし、言葉を詰まらせる。
「わ、私が女の子の着る制服が着たいって言ったから。瑠奈ちゃんは理事長さんの娘さんだし、話してみたらできるのかなって思って話したら、すぐに手に入れてくれて」
「それでさっそく着てみたってわけなのか」
 しかし、百瀬が「瑠奈ちゃん」と福原を呼んでいると、やはり百瀬のことが女子にしか見えなくなってくるな。
 でも、俺の知る限りの普段の百瀬からは、男っぽさよりも女っぽさの方が本人の特徴を伸ばせる気がする。
「それで、誰かに感想でも訊いてみようかと思ってた所で、潤。あなたが現れたってわけ」
「なるほどな」
 つまり、俺が教室に入ろうと教室の前で留まっていようと、どのみち百瀬の女装姿についての感想を言わなければならなかったのか。
「でも、それは百瀬も望んでいたことなのか?」
「な、何言ってるのよ。そうに決まってるでしょ? そ、そうよね?」
「え、ええと……」
 やっぱりそうだ。
 百瀬は怖がっているんだ。そんなことは少ししか知らない俺だって分かる。その証拠に、足がガクガクに震えているし、目も泳いでいる。
「少なくとも百瀬は福原の意見に賛成じゃないみたいだな。百瀬は自分の無茶な頼みに頷いてくれた福原だけに感想をもらえれば、それで満足だったんじゃないのか?」
「水嶋君……」
「誰かから感想が欲しければ、昼休みにでも普通にできたはずだ。福原だって百瀬の気持ちが分かっているから放課後にしたと俺は……」
「潤につばさの何が分かるって言うのよ!」
 福原の叫び声が教室内に響き渡る。
 同時に俺の胸元を福原に力強く掴まれる。吊り目から放たれる目力は俺の背筋を凍らせるほどだった。
「いい? つばさが放課後……他の生徒がいなくなったところで、隠れるようにこっそりと女子の制服を着るのはね……!」
「瑠奈ちゃん!」
 百瀬の精一杯の声が、教室の空気を震えあげさせた。福原の手をそっと掴んで、優しく俺から放させる。
「瑠奈ちゃんは何も悪くないよ。私が一番分かってるから」
「で、でも……!」
「それに、水嶋君の言ってることも間違ってないよ。この姿で人前に出るのは恥ずかしいし、それを分かって瑠奈ちゃんは放課後、他の人がいなくなってから女の子の制服に着替えさせてくれたって」
「……」
 百瀬の優しい言葉にも福原の不機嫌な表情が和らぐことはない。
「悪かったな。百瀬、福原」
「別にいいよ。それに、ちょっと誰かに感想を聞きたかったって思ってたし。水嶋君に似合ってるって言われて嬉しかった」
 百瀬は俺に向かって微笑んだ。
 今のその言葉は福原をかばっているのか?
 いや、違う。百瀬の見せているその笑顔は本心からの笑顔に見える。
「だから気にしなくていいよ」
「ああ」
「瑠奈ちゃんも水嶋君に何か言ったら?」
 と、少し控えめに百瀬は言う。
 やはりこうしてみると女子同士にしか見えない。こういう時に言うのもなんだけど、ここまで女装が似合う男子って見たことないな。
 それに性格も福原よりも百瀬の方が女性らしい。まあ、そういう男子は稀にいるが。
「言えばいいんでしょ? 言えば」
 明らかに百瀬に言われたからというのが丸分かりの不躾な態度だ。福原は俺の方をジロリ、と睨みを利かしながら俺の目の前まで迫ってくる。
 しかし、こういう態度さえどうにかなれば女子にも人気が出ると思うのだが。俺の過信だろうか、それって。
 福原から何を言われるのか。正直、俺は半ば恐怖心で少し脚を震わせている。
 俺は福原のことが目から放せなくなった。
「潤。一つだけ忠告しておくわよ」
「……忠告?」
 教室の中は夕日に照らされていた。
 けれど、俺が盾になっているからか福原の立っている場所は陰になっており、俺は福原が頬を紅潮させているのが分かった。
 福原の忠告。
 彼女の口が大きく開いた。

「今日のこと誰かに言ったら、あ、あんたと放課後にえっちなことをしたって言ってやるんだからねっ!」

 それは教室棟全体に響くような声で。
 窓が開いていたら、きっと外にいる生徒全員がこちらを振り向くような声で。
――滑稽なことを言ってきやがった。
 そんなことを唯一聞いていた第三者。百瀬つばさは両手を頬に当てて、気が動転しているのか「はううっ」と喘いでいる。
 そして、そんなことを言った張本人。福原瑠奈は依然と頬を赤くさせていた。今度は夕日が直に当たっていて少し赤みが増したように感じるが。
 余談であるがそんなことを言われた俺。ため息をつくことしかできない。
「何を言うかと思えば……」
「ふ、ふんっ! 私が一度言ったことは絶対にやるんだから。有言実行ってやつ? 覚えておきなさいよ」
「あのな……」
「人気投票一位の生徒が理事長の娘といかがわしいことをするなんて学校に知られたら、あんた常盤学院からいられなくなるわね。きっと」
「確かにそれはそうかもしれないが……」
「きっと、男子の殆どがあんたのことを敵だと思うでしょ。そうなったらきっと心苦しくなって学校を辞めざるを得ないでしょうね?」
 ここに来てやっと俺に初めて福原から笑みを贈られる。
 しかし、最悪の意味で。
 なんという恐ろしい女子だ。福原瑠奈。悪魔とも言ってもいいかもしれない。これって理事長の娘だからできそうなことなんじゃないのか? 確かに福原はファンクラブがあるほどの男子から人気があるらしいし。
 こいつの本性を知ったらきっとファンの殆どが去りそうな気がするが。今も喘いでいる百瀬には悪いけど。
「何か反論でもある? 人気投票で一番になったプレゼントで一回だけ言うことを許してあげるわ。有り難く思いなさいよ?」
 どこかしらお嬢様らしい雰囲気があったけれど、今になってそれが全開になった感じだ。しかし、これも最悪な意味でだが。
「じゃあ一つだけ言ってもいいか?」
「ええ、私の言葉に二言はないわ」
「さっきのお前の言葉だけど、俺と何かをしたとか何とか。そんな言い方だと、お前にだって危害が及ぶと思うんだが」
「……えっ?」
「だから、その言い方だとあたかもお前からしたことになるんだよ」
「うっ、うううっ……」
 ようやく自分が何を言おうとしているのか分かったみたいだな。頬が赤くなっている。
「俺を一方的に責め立てたいなら、もう少し言い方を変えた方がいいと思うぞ。つうか、今日のことなんて誰にも話す気なんて全くねえし」
 そうだよ、話す気なんて全くねえって。
 今日のことの話の中心は一体誰だ。俺か? 福原か?
 違うだろ。話の中心人物は福原の横に立っている百瀬だろうが。
「福原。お前って本当に百瀬のことを考えてるのか?」
「当たり前じゃない。だからこそ、潤。あんたに忠告したんじゃない。あたしにえ、えっちなことを無理矢理したって言ってやるって」
「そうだな。確かにそれで俺のことは色々と噂になるだろうけど、それ以前に百瀬のことが広まるだろ」
「……!」
 福原は目を見開いた。
「もう一度言うが安心しろ。今日のことは誰にも言わねえ。だから、福原も百瀬も早く帰ろよ。そうじゃないと俺みたいに教室に来るやつが他に現れるかもしれないからな」
「水嶋君……」
「百瀬はまず着替えた方がいい」
「う、うん。分かったよ。えっと、その……色々と迷惑かけてご、ごめんね」
 百瀬は自分が一番悪いかのように申し訳なさそうに言う。
 まあ、福原の横暴な言い方とかには少し気に障ったけど、百瀬のことを考えれば怒る事なんてできない。俺が教室に忘れ物をしてしまったこともあるし。
 まだ話したことのない二人のクラスメイトのことが知れたと思えば、それでいいのだと俺は自分の中で結論を出した。
「気にするな」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、俺は人を待たしてるから。また明日」
「じゃあね」
 百瀬は可愛らしい本当の女子のように小さく手を振ってきた。さすがに、俺も少しは微笑まないと百瀬に失礼だと思い、微かに笑って手を振った。
 俺は今一度賞金を確認して、教室を出ようとする。
 振り返ってみると、福原のどこか俯いている表情と……俺に向かって優しく微笑んでいる百瀬の姿があった。
 だけど、その微笑みには福原についての謝罪が込められているような気がした。


第4話に続く。
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://2ndbutlershun.blog60.fc2.com/tb.php/1010-e43edcf1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック