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 人気投票の影響は放課後まで続くかと思いきや、教室に戻ってきてからは一部の生徒が俺に賛美の言葉を贈ってきただけで、意外と早くに収まった。まあ、俺にとっては嬉しいことであったが。
 午後の授業もさすがに人気投票で優勝した生徒と準優勝した生徒の両方がいるせいか、授業をした教師も何かと俺と坂井を見ていることが多かった。
 そんなこんなで、普段とさほど変わらない午後の授業を過ごし……そして、そのまま普段通り放課後を迎えるのである。
「さてと、そろそろ帰るか……」
 掃除当番でもないし、終礼が終わると大抵は本屋や楽器店に寄って家に帰る。もちろん、たまには友達やクラスの女子とカラオケやボーリングなどに行く。
 俺はそんな普通の生活を送っている。
 まあ、何か部活に入っていれば良いのかもしれないが。俺の好きな軽音楽部はないし、それなのに学校の学園祭では有志でバンドを募って大規模なライブを行うので、俺はそれに参加するだけで満足してしまっている。なので、俺は何も部活は入っていない。
「ねえ、潤」
「なんだ?」
 背後から話しかけてきた赤い髪のポニーテールの女子、片倉由衣(かたくらゆい)。
 俺と幼なじみで小さい頃からずっと同じ学校で同じクラスという典型的な腐れ縁である。まあ、家が近所で家族ぐるみの長い付き合いをしている。
「部活はないのか?」
 由衣はバレボール部に入っているので、今日も部活があると思い訊いてみると、
「昼休みの式典のせいで今日は使えないの。片付けが長引いてるんだって」
「そうか」
 由衣の言っている昼休みの式典というのは言うまでもなく、俺と坂井が主役の得体の知れない人気投票の結果発表だ。
 俺たちの通っているここ、私立常盤(ときわ)学院高等学校は生徒の自主性を重んじる学校であり、不意に生徒会を中心に生徒が企画した催しが開催されることがある。
 今回の人気投票もきっとその中の一つだろう。
 思い返せば、去年もいつだったか忘れたけれど人気投票企画は開催されていた。あいにく、誰が優勝したかは覚えていないが。
「まったく、生徒会の奴らは俺を誘拐するようなことをしやがって。普通に連れてくるって発想ができなかったのか」
「きっと潤のことを驚かせたかったんじゃないの? 潤って、そういう感情を普段からあまり出さないし」
「誘拐されるだけで十分驚かされたけどな」
「でも、良かったじゃない。潤と坂井君がワンツーフィニッシュできたわけだし」
「まあ、それはそれで嬉しいが」
 あれから、俺と坂井は生徒会などを相手にしていて昼休みが潰れた。
 色々とインタビューをされ、写真撮影なんかもされ。全ては明日の朝に校内新聞で校内の至る所にある掲示板に貼られるらしい。新聞部が全面協力をしているらしいが、人気企画についてなのか仕事が早い。
 人から注目を浴びるのはあまり好きではないんだが。
 まあ、悪い事でもないし少しの間はいいか。どうせ人気投票のことなんて、一週間もすれば自然と消えていくんだから。
「じゃあ、今日は一緒に帰るか?」
「そうね。久しぶりに一緒に帰りましょ」
「ああ、そうするか」
 由衣はバレーボール部に所属しており、次期エースを目指して練習中。
 だけど、今日ぐらいは羽を休めるべきだろうな。一緒に登校することはけっこうあるけど、一緒に下校することはあまりなかったから。
 せめて体育館の使えない今日ぐらいは、な。
「片倉も帰るのか? 俺も混ぜてくれよ」
 と、爽やかな笑顔で長めの茶髪を揺らしながら一人の男子が俺の方に駆け寄ってくる。
 その名は、坂井朋基。
 人気投票で準優勝をしたのだが、俺のように誘拐されずに済んだ何とも幸せな奴。
 常盤学院はサッカー部が凄く強いらしいのだが、坂井はサッカー部のエースで四月末の今から次期キャプテンになるのではないかと言われている。何か、俺の周りにはスポーツの才能のある奴が集まってくるんだが。
 男の俺が言うのも何だが、こいつは爽やかでかっこいい奴だ。女子にモテまくっているのが分かる。俺よりもこいつの方が優勝に相応しいんじゃないかと思う。
「お前も部活はないのか?」
「何か、部長から今日は休んでいいって言われてさ。色々と取材とか受けて疲れているだろうから、って。そんなに疲れてないんだけどね」
「そうか」
「部室にちょっと行ってみたら女の子からなのか、俺のシューズボックスに溢れんばかりのプレゼントが入ってたぜ」
「さすがは常盤サッカーのエースだな」
 坂井のモテモテ武勇伝は今日も健在だった。
 こいつみたいな奴は大抵の男子が望むイベントが高確率で起こる。しかも女子絡みで。坂井はそれを特に自慢する雰囲気を持たず、爽やかに話してくれる。
 そこで、俺は勝手にそれを『モテモテ武勇伝』という風に呼んでいる。ネーミングセンスがあまりないように感じられそうだが。
 そういえば、坂井のような奴を世間では『リア充』とかって言うらしい。
『リアルが充実』の略で『リア充』。素晴らしいじゃないですか。
「本当に何で俺はお前よりも上なのかが分からない」
「俺は水嶋と一緒に立てて良かったよ。それに、俺は水嶋が優勝するって確信してたけどな」
「どうして確信できる?」
「……女子への対処の仕方を知っているから、か?」
 腕を組みながら言われた親友からの言葉は、何だか抜けた内容だ。
「なんだそれ」
「俺、女子からたくさん物をもらったり、たまに手紙とかももらったりするんだけど……どういう風に対処していけばいいか分からないんだ」
「なるほど」
 爽やかなイケメン君にもそんな悩みがあるとは。モテる奴特有の悩みというやつですか。いいですねぇ。
つうか、俺は何回、坂井のことを「爽やか」って言っただろう。
「でも、水嶋ってけっこう……何て言えばいいんだ。そ、その……クールにあしらうっていうか。男女関係なく平等っていうか」
「俺は自分がクールだと思ったことは一切ないんだが」
 それに、「他人をあしらう」って言われると悪い感じがしてならない。
「なあ、片倉もそう思わないか?」
「……別に昔から知ってるから、クールだとかそういう風に思った事なんて一回もないわ。まあ、私と接してるから女子との付き合い方が分かってるんじゃない? 自分で言うのは何だけど」
 なぜか由衣は頬を赤くして言う。
「そういうものなのか」
 坂井は腕を組んでうんうん、と頷いていた。こいつ、けっこう思い悩んでいるみたいだ。
 俺は女性に囲まれて育ってきたとも言えるから、逆にそこら辺のアドバイスは上手く言えないな。そういうことで悩んだことないし。
 俺はゆっくりと席から立ち上がった。
「じゃあ、とりあえず帰るとしますか」
「そうね」
 俺は親友と幼なじみと一緒に教室を後にしたのだった。


 俺と坂井と由衣が学校の正門辺りまで歩くとこんな話になった。
「そういえば、潤と坂井君って賞金もらったよね?」
「ああ、もらったな」
 そう、由衣の言うとおり俺と坂井は人気投票の優勝賞金と準優勝賞金をそれぞれ生徒会からもらった。生徒が企画した催しなのに賞金が出るなんて粋だと思い、さすがにその時は少し気分が良くなった。
「だから、そのお金もあることだし……どこかでお茶でもしていかない? もちろん、潤の奢りで」
 由衣の提案にあっさりと頷きそうになったが、
「ちょっと待て。こういう時って、普通は優勝した人を祝うんだから普通は俺や坂井は奢られる立場になると思うんだが」
「確かに考えてみればそうだね」
「せいぜい割り勘だと思うけどな……」
「そんな細かいことは気にしなくていいじゃん! じゃあ、潤が全部私の分を奢って貰うのは悪いから、坂井君と割り勘で許してあげる」
「割り勘の意味が違うだろ!」
 久しぶりに声を上げて突っ込んでしまった。
 由衣。お前が昔からの幼なじみでなければ、図々しい女として少し距離を置きたいと考えたぞ。
 まあ、そのくらいでそうしまうほど、俺も心の狭い奴じゃないが。
「まあいいじゃん。喫茶店くらいだったら片倉の分は俺たちで割り勘ってことで」
「坂井……」
「ほら、サッカー部のエースは物分かりがいいわよ」
「それ以上俺を逆なでするようなことを言うと、さすがに怒るぞ」
 しかし、坂井の言うとおり喫茶店くらいなら由衣の分を奢ってやってもいいかもしれないな。賞金も万単位でもらえたし。
「しょうがないな、じゃあ由衣の分は坂井と半分ずつ奢るってことで」
「やった!」
「今回だけだぞ。けっこう大きな臨時収入があったからだってことを忘れるなよ」
「分かってるって。ありがとう」
 由衣は俺に向かって笑顔で言ってきた。
 まったく、色々と言うことはあるけど……いざという時は素直にこう言ってくれるから、腐れ縁でも俺は昔と変わらず幼なじみとして付き合っているんだ。
 坂井も爽やかな笑顔で俺にウインクをしてくる。
 まったく、これは俺に奢れというサインなのか? つうか、何度も言うが普通は俺を祝うなら由衣や坂井が俺の分を奢るのが普通だと思うのだが。しつこいけど。
「大丈夫、俺の分はちゃんと自分で払うから」
「察してくれてありがとよ」
「じゃあ、行く場所はどうする? 喫茶店に決めたなら駅前にムーンバックスがあるけど」
「そこでいいんじゃない? あそこならゆっくりできるし」
 由衣と坂井の意見が早くも合致したみたいだ。
 まあ、祝うんだったらファミレスでもカラオケでも良かったと思うが、二人が喫茶店に行きたいというなら俺が異議を唱えてみることをする必要もない、か。
 俺が軽く頷くと、由衣のポニーテールが縦に揺れる。
「じゃあ、決定ね。どうせだから一度は食べてみたかったあれを……」
「喰うつもりなのか」
「当たり前じゃない。潤と坂井君に奢ってもらうんだから。今まで手を出せなかった一番高いものを食べようかなって」
 確かに由衣は普段からどこかに食事に行くと、あまり高い品物を食べることはなかった。まあ、それは割り勘だからで、もしかしたら俺と坂井の賞金で食べられると分かった瞬間、一気に欲がむき出しになったのかもしれない。
 まあ、そこまで誇張することではないけど。でも、下手したらこいつ……俺の賞金を全部喰いさらうかもしれん。
「いいんじゃないか? 別に俺との割り勘だし……水嶋だって俺よりも多い賞金もらってるから別に大丈夫でしょ。俺だって喫茶店で奢るくらいなら全然大丈夫な額だし」
 と、坂井はバッグから賞金の入った封筒を取り出して中身を確認する。
 俺からはその中身が見えないが、生徒会が粋だったのか俺の賞金はなんと五桁。きっと、坂井もそれなりの賞金をもらっているはず。
 俺も確認しておくか……。欲しい楽器とかもあるし。
 バッグを開けて中を覗いてみるが、賞金の入った封筒がない。
「あれ、俺、バッグに入れてたつもりだったんだけど……」
「えっ! もしかして盗まれたの?」
 別にそこまで驚くことでもないだろ、由衣。
「もしかしたら机の中に忘れたかもしれないな」
「ちゃんと見つけてきなさいよ。もしなかったら、私に奢ってくれなそうだから……」
「別になくても奢ってやるよ」
 そして、隣にいるイケメンを指さして、
「坂井がな」
「お、俺が全負担になるのか! それじゃあ、水嶋には頑張って見つけてきてもらわないとな。さすがに俺一人じゃ荷が重すぎるよ」
 さすがの坂井も金の負担が全て自分に回ってくると思うと焦った表情になるんだな。
「お前らそんなに騒ぐ事じゃないだろ。どうせ机の中に入ってるって。じゃあ、先に行っててくれ。俺も見つけたら追いかけるから」
「ああ、分かった」
「ちゃんと見つけなさいよ」
 俺は由衣と坂井に手を振って、夕日に染まる校舎に戻っていくのであった。


第3話に続く。
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