日記と音楽感想、アニメ感想を中心に更新しています。リンク&トラックバックなどはフリーです。

2017/07 |  12345678910111213141516171819202122232425262728293031 | 2017/09

タイトルロゴ


 俺はただ普通に過ごしているだけだというのに。
 何でここにいるのだろうと思う。


 普段と変わらない昼休み。
 俺は学校の廊下を歩いていると、いきなり薬のようなものを嗅がされ意識を失った。
 その時からずっと俺の視界は真っ暗だ。
 意識が回復した今でも、どうやら目隠しをされているらしく何も見えない。外そうと思っても両手が紐で縛られている。解くには他の誰かの手を借りる他はないようだ。
 まったく、この学校は無法地帯なのか?
 いくら生徒の自主性を重んじているからといって、こういう行為を見過ごしている学校も学校だ。これじゃ犯罪と変わりない。
「ようやく気づかれましたか?」
 微かに聞き覚えのある女子の声が俺の耳の中に入る。
 だが、この声は俺の耳には合わないらしい。本能がきっとこの声の主は俺を助けてはくれないと感じているのか。
「ああ」
「あと少しで始まりますので、もうちょっとだけ我慢してもらえませんか?」
「……」
 俺を襲っておきながらその言葉はないだろ。
 何様のつもりだ、と言ってもいいくらいだ。
 きっと、この女子にとって話していけば、俺が気を許してくれるとか思っているだろうがそんなことはない。あいにく、俺は女子について……あまり興味がない。
「今から何をするつもりだ?」
 何もない闇に向かって、俺はそう問いかけてみる。
「それは目隠しを取ってからのお楽しみですよ」
 期待通りの返答ではなかったが、想像通りの返答が返ってきた。
 とりあえず、この女子の言う『お楽しみ』の時間が来るまでは、このまま大人しく拘束され続けるのが無難かもしれない。
「俺を誘拐して何をするっていうんだよ」
「ですから、目隠しを取るまでのお楽しみって言っているじゃないですか」
「お楽しみのためにここまでする必要があるのか?」
「きっと、本当のことを話せばあなたは『興味ない』とか言ってここに来てくれるわけないと思っていますから」
「興味がない、ねぇ……」
 どうやら、この後待ち受けているのは俺にとって楽しいことではないらしい。
 だったら尚更この拘束を解いて欲しいもんだ。俺は普通に友達と昼飯でも食おうと思ってたというのに。
 ただ、飲み物を買いに行っていただけだというのに。
 そんな俺を拘束しているということだから、相当な理由じゃないと俺もさすがに黙ってはいられなくなる。
 本当にこの女子が言っている『お楽しみ』とは何なのだろう。
 必死に脳を働かせるが思い当たる節がない。というか、それ以前に昼飯を喰う前に襲われ今に至っているので、腹が減ってしまって頭が働かなくなっている。
 視界も真っ暗だし、いっその事寝てしまおうか。
 腹が減っては、戦どころかここから逃げることすらできそうにないし。
 そう決めた俺は、ゆっくりと目を閉じて身体を横にした。
 だが、その瞬間、
「は~い、準備ができたので起きてくださいね」
 どうやら、俺を眠らせてもくれないみたいだ。
 だがその時、俺の右手に温かな感触。俺と話している例の女子の手だろうか。しゅるり、と何かがほどけるような音と同時に俺の両手は解放された。
「さあ、今からご案内しますのでついてきてくださいね」
「目隠しされてるのについて来られるわけないだろうが」
「分かりました。じゃあ、あなたたち水嶋君が逃げないように両腕をしっかりと握っていてください」
『は~い!』
 俺と話している女子とは別の二人の女子の返事が聞こえた。半ば喜んでいるようにも聞こえる黄色い声だ。
――つうか、逃げねえよ。逃げる気も出ねえよ。
 その二人のおかげか、俺は立ち上がることができた。そして、同時に俺の両腕にはその二人がしっかりとくっついていた。まあ、俺が逃げないようにするためでもあるんだろう。
 女子なのか何だか耳元から首筋にかかる吐息も、腕に押しつけられる感触もどことなく柔らかい印象を受ける。まさか、腕に当たっているのは胸じゃないだろうな。
 二人の女子を頼りに、俺は案内されるがままに歩いていく。
 カタカタと鳴り響く足音。風とかは何も感じられないから、ここは屋内のどこかであることは容易に推測できた。生徒らしき奴の話し声も聞こえているから、きっと学校の中のどこかであるということも想像がつく。
 こいつらは本当に何をしようっていうんだ?
「さあ、ここに立って下さい」
 おなじみの微かに聞き覚えのある女子の声が俺にナビゲートをしてくる。
 そして、俺の両側にべったりとくっついていた二人は俺の身体の向きを調整している。このまま動かないで下さいね、と耳元で囁かれた。
 二十秒くらい経ち、俺は静かに目隠しを外された。しかし、真っ暗なのは変わりない。ただ、暗さに慣れているのかうっすらと人影が見える程度だ。
「何がしたいんだ? まったく……」
 俺が小声でそう言うと、今度はどこかで聞き覚えのある声でくすっ、と笑われた。
「まったく、水嶋ってヤツは」
「えっ? お前どうして……」
 その声の主を確認しようとしたのだが、
『皆様、お待たせしました!』
 マイクを通してなのか、例の女子の声がやけに馬鹿でかく発せられる。そして、

『第三十回常盤学院人気投票……優勝した方はこちらの人です!』

 俺、水嶋潤(みずしまじゅん)が見た風景は。
 突然に両目に光が燦々と差し込んでしまったせいで、手で両目を覆ってしまったので良く見ることができなかった。
 だけど、目の前の風景がどんなものなのかは想像できる。
 多くの人の歓声と拍手。それが俺に向けられているということ。
 ゆっくりと手をどかしてみると、拍手をする人が一人、二人、三人……それは俺の視界全てに広がっていった。数え切れないほどの人が俺に拍手を送っている。
『優勝したのは二年四組の水嶋潤さんです! おめでとうございます!』
 歓声と拍手は一気に湧き上がる。
 俺はその風景に圧倒されてしまって、ただ呆然と立つことしかできなかった。特に嬉しいという感情もなく、内からこみ上げる情熱というものもなく。
 俺の立っているのは体育館のステージ上で、左側の方を向いてみると俺の親友と生徒会長の姿があった。生徒会長がマイクを持っているのを見つけ、俺をナビゲートしてくれたのは彼女であることが分かった。
「いったいこれはどういうことだ?」
 俺の親友、坂井朋基(さかいともき)に今回の事情を訊こうとすると、
「俺も分からないんだ。ただ、お前がなかなか戻ってこなくて探しに行こうと思ったら生徒会の奴がいてさ。人気投票で準優勝したからちょっと体育館まで来てくれって言われたんだよ。水嶋が優勝したって聞いたから、きっとお前もそこにいるんだろうと思ってた」
 爽やかな笑顔でさらりと言われた。
「なんだそれ。俺も普通にここまで来たかったよ」
 普通は優勝した人の方の扱いを良くするべきだと思うが。
 確かに人気投票なんて興味はないが、悪い事ではないから普通についていくと思うぜ。普通に迎えてくれればの話だけど。
「たしかに、目隠しされたお前を見たときは只事じゃないと思ったぜ」
「……」
 そんな風にお前は軽く言うけど実際に目隠しされた奴の気持ちを考えてみろよ。しかも、変な薬を嗅がされて意識を失ったんだぜ?
 ――でもまあ、こんな只事で良かった。
 俺が想像していたことよりかは、ずっとな。
「とにかく、優勝おめでとう。水嶋」
「……ああ、ありがとう。坂井」
 俺と坂井は固い握手を交わした。そこで何故か女子からの黄色い悲鳴が飛び交っているのがやや気になるが。
 それでも、俺に『嬉しい』って気持ちはこれぽっちもなかった。
 元々、こんな事に興味なんてなかったけど。
 もし、これが俺に対する生徒会からのサプライズであったとしたなら、坂井の時のようにもう少し普通に俺を驚かせてくれれば少しくらいは嬉しい気持ちになれただろう、と。俺にしたこと、きっと普通じゃないと思う。
 ――人気投票優勝。
 俺にとって不利益になることはまずないだろう。前向きに俺はそう考えた。


 だけど、それはまるっきり違うということを俺は思い知ることになる。これからの話は全てここから始まったと言っても過言ではないと思う。
 俺の日常は予想もしない方向に進み始めるのである。


第2話に続く。
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://2ndbutlershun.blog60.fc2.com/tb.php/1005-e80c9bac
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック